きっと、恋をした-3
「うん? それで?」
話が見えてこないのか、有希が言葉を先へと促す。
「お互い好きな作家とか似ていて、読んだことがある本も結構被ってたの。それで今、私も藤野さんも読んだことがある小説が原作の映画が二作品、上映されてて――あの、その……、一緒に観に行けたらいいなとは思ってる」
本人を目の前にしているわけでもないのに、言葉がしどろもどろになってしまう。
「映画に誘いたいわけね? いいじゃん。どんな映画?」
私は二人に映画のサイトを見せた。二作品とも公開はすでに始まっている。
一つは、余命三カ月と宣告された主人公の青年が、自分のこれまでの生き方、家族や友人などの周囲の人々と向き合っていくヒューマンドラマだ。もう一つは、高校生の主人公が担任教師に恋をするというラブストーリーだ。
「片想いの相手を恋愛映画に誘うのは勇気いるよね。おまけに初デートだもんね」
その通りだ。「デート」という言葉はこの際触れず、私は智美の言葉に頷いた。
「これでラブストーリーの方を選んだら脈アリだね」
「他人事だと思って楽しんでるな?」
私が睨むと有希は「バレたか」と笑っている。本当に楽しんでいるらしい。
「でも、有希ちゃんの言うとおり、ラブストーリーの方を選んだら脈アリだと思わない?」
脈アリかどうかは分からなくても、その可能性を信じてみたくなるには充分かもしれない。
「いつ誘うの? 今日? 明日? こういうのは早い方がいいよ」
私よりテンションの高い有希。他人の恋愛の話となれば、さぞかし楽しいだろう。私が逆の立場だったらきっと楽しんでいる。
「メールで誘ってみてもいいのかな?」
小さな声で、二人に聞いてみる。
「会ったときに誘えないんだっけ?」
「バイトの交代のときしか会えないから……他のスタッフいるし、それは誘いにくい」
「電話は? やっぱデートのお誘いはメールとかじゃなくて直接言った方がいいでしょ」
誘いのメールを送ってから、返事が来るまで悶々としているよりも反応がすぐに返ってくる方が良いのかもしれない。ただ、断られたときのことを考えると、早くもいたたまれない気持ちになる。
「結局、返事は変わらないんだから。文字として見るか、声として聞くか。どっちかしかないんだよ」
断られた場合のメールを想像すると、それだけで胸が痛い。お断りされる文字を見るのも読むのも確実にショックが大きい。何も行動しなければ、傷つくことはない。
だけど、それはこれ以上、距離が近づくこともないということを意味している。
「電話ってしたことあるの?」
「ない。でも、藤野さんからメールで『いつでも掛けてくれていいよ』とは言われてる」
有希と智美が揃って、黄色い声を上げる。私は思わず周囲を見回し、図書館でもないのに人差し指を唇に当てる。大勢の人がそれぞれ話をしているカフェテリア内で私たちの会話に反応していた人はいない。
「電話、掛けちゃいなよ」
「掛けるしかないでしょ、これは」
他人事の恋愛ほど、楽しいものはない。私は、二人がいないところで電話を掛けることを決めた。有希も智美も「えー」と大げさに溜め息をこぼしていたが、これ以上話のネタにされたくなかった。