小さな変化-3
直感的に嘘だと思った。日勤帯も夕勤帯も人が足りていないとは聞いたことがない。むしろ、藤野さんが抜けてしまえば、困るのは明らかに夜勤帯だ。その証拠に夜勤帯の募集がすぐに始まった。そして、日中の勤務募集よりも夜勤帯の募集の方が人は集まりにくい。募集をかけても応募がないから苦労しているという話はチラリと聞いていた。
疑問を持っていることが藤野さんにも伝わったのだろう。藤野さんは「でも、夜勤じゃなくなったから昼間も出掛けやすくなったで?」と話をごまかすように笑った。それ以上、追及することに意味を感じなかった私は曖昧に頷いた。
彼は、自分の気持ちに対して嘘をつく人ではないだろうと思っている。だから、それ以外の理由で嘘をつく必要があるのだろうと思った。ただ、私にだけは正直でいてくれるのではないかという思いがあった。彼の言葉が嘘だと決まったわけではないけれど、直観的に嘘だと思ったのは事実で、それがショックだった。
藤野さんは、口数が少なくなった私を心配そうに見ていた。きっと気まずさを感じているのだろう。
そして、ふっと笑った。
「敵わへんな……」
ぼそっと呟いた声に、俯きながらパスタを口に運んでいた私は顔を上げる。
「え? 今なんて……?」
「さっきの、嘘や」
一瞬だけ目が合ったが、藤野さんは私から目を逸らした。
「え?」
「店長に頼まれたわけちゃうねん、俺から頼んだ」
疑問を口にする前に、藤野さんは頭を掻きながら次の言葉を発した。
「ちょっと夜勤するん、体力的にキツくて……自分で若くないって言ってるみたいで恥ずかしいから嘘ついた」
ちょうどパスタを食べ終わったらしく、両手を合わせて「ごちそうさまでした」と小さな声で言う。タイミング的には、恥ずかしさをごまかすような行動だった。そして、恨めしそうに私を見る。
「ちょっとくらいカッコつけさせてほしかったわ」
「え、私のせいですか?」
「せやで。そんな泣きそうな顔されたら嘘ついてるん申し訳なくなるわ」