小さな変化-1
その日、待ち合わせ場所に先に着いていた藤野さんは、しかめっ面だった。腕組みをして、怒っているような、何かを考えているような様子だ。一瞬、待ち合わせ時間を間違えてしまったのかと思った私は、すぐに藤野さんに謝った。
「ごめんなさい。遅くなりました?」
「え? あ、いや。待ち合わせより早い時間やで? 謝る必要もないで?」
どうやらしかめっ面の理由は、それではないらしい。
「じゃあ、どうしたんですか? すごく難しい顔してますけど」
声を掛けると、少しの間が空いた後、藤野さんが私に「あのさ、めっちゃアホなこと聞いてええ?」と尋ねた。
「はい?」
「……都道府県の名前、テキトーに言うて?」
「は?」
その意味が分からず、聞き返すと「ええから」と答えを催促される。理由も分からず、都道府県の名前を思い浮かべる。
「北海道、青森、秋田……」
「ちゃうねん、北の方やないんよな」
「これ、クイズですか?」
それにしては雑過ぎる出題だ。私は北ではないという藤野さんの言葉に従い、今度は南方面の都道府県を思い浮かべる。
「福岡、佐賀、鹿児島、宮崎、沖縄……」
「南でもなくて、真ん中の方!」
「真ん中……長野、愛知、岐阜?」
「それや!」
ぱあっと明るい表情になった藤野さんは、私を指差した。それに気付き、恥ずかしそうに「ごめん」とその指を下ろした。
「せや、岐阜や。あー、スッキリした」
どうやら、このよく分からないクイズの正解は岐阜県だったらしい。
「これ、何の話ですか? あまりにも意味が分からないんですけど」