きっと、恋をした-2
私は思わず、両手で口元を押さえた。
どんな表情でメールを打っていたか、自分で見ることはできないけれど、藤野さんから届くメールに嬉しくなっていたのは事実だ。無意識にその嬉しさを表情に出していた自分の姿を友だちに見られていたかと思うと、なおさら恥ずかしさが込み上げてくる。
「……そんなに変な顔、してた?」
口元を押さえたまま、俯きがちに尋ねると、有希は「変な顔じゃないよ」と笑った。
「恋してるんだなーって顔」
「さっき、ニヤニヤしてるって言ってたじゃん!」
私はわざとらしく、頬を膨らませた。
「ごめんごめん」
「で、どんなメールしてるの? 相手、どんな人なの?」
食い気味に質問してくる智美も、どうやら興味津々のようだった。
女子に恋バナは付き物だ。私はごまかすことを諦めて、藤野さんがアルバイト先の先輩であること、バイト中はあまり会話ができないこと、連絡先を交換してからずっとメールのやりとりが続いていることを二人に伝えた。
「えー、いい感じじゃん」
「先輩ってことは年上よね? 大学生? 院生?」
私は首を振った。
「大学は大阪で卒業してるって言ってた。私より八歳年上だったかな。今は、一人暮らしでフリーターみたい」
途端に二人の眉間に皺が寄る。
「なんで二十代後半なのにフリーター? 理由によっては恋愛対象としてナシだわ、ナシ」
「将来性が見えないもんね」
「ちょっと! 他人の片想いの相手を勝手に貶すの、やめてもらっていいですか?」
「なんでフリーターなのか、理由は聞いてないの?」
フリーターであることの理由を簡単に聞くことができるほどの仲ではない。あくまで、アルバイト先の先輩と後輩で、私が勝手に片想いをしているだけだ。
それに、フリーターだからという理由で好きな気持ちが消えるほど、想いは小さいものではなくなっていた。藤野さんがフリーターであるということが、彼を恋愛対象から弾く理由にはならなかった。
「で、そのフリーターの先輩と出掛けるとかしないの?」
「いちいちフリーターって付けなくていいから!」
「……デート、誘わないの?」
「デートって……付き合ってるわけじゃないし」
私は言葉に詰まり、そのまま視線を下に落とした。「デート」という言葉が、余計に恥ずかしく、そわそわしてしまう。
「由佳利ちゃん――もしかして男の人と付き合ったことない?」
智美の言葉に「いや、違う!」と慌てて否定する。
これまで人並みに恋愛はしてきた。彼氏がいたこともあるし、自分から告白したことだってあるし、告白されたこともある。私は少し考えて、ぼそぼそと話し始めた。
「藤野さん、本が好きだって言ってて……私も本読むの好きだし」