きっと、恋をした-1
宣言通り、私はその日のアルバイトが終わって家に帰ってからすぐ、レシート裏に書かれた藤野さんのメールアドレスにメッセージを送った。
もちろん彼は今、勤務中なので返信はない。私はメッセージを送り終わると、急いでお風呂に入る準備をした。アルバイトが長くなったせいで日付はとっくに変わっているが、今日も大学の授業がある。
朝になって、いつも通りの時間に目を覚ますと、藤野さんからメールが来ていた。時間は深夜で、休憩時間に返信をくれたのだろう。特別でもなんでもないただのメールなのに、私の胸は躍った。自分でも分かるくらい、口元が緩んでいる。
好きかも。
そう思ってしまうのは、単純すぎるだろうか。
知り合ってからの時間は長くない。むしろ短い。彼のことを深く知っているわけでもない。
なのに、メールを嬉しいと思ってしまう。早く会いたいと願ってしまう。この気持ちを恋と呼ばないで、何と呼べばいいのだろう。
彼のことを知らないのなら知っていけばいい。私のことも同じくらい知ってもらえばいいし、知ってもらいたい。彼のことをもっと知りたくて、私のことをもっと知ってほしいと願う理由は、たった一つしか思い浮かばなかった。
主に夕方の勤務に入る私と深夜帯勤務の藤野さんが、会う機会があるとすれば交代の僅かな時間のみだった。
顔を合わせることはできても、引き継ぎの連絡事項以外に話している余裕はない。藤野さんと関わる時間がほしいからと言って、私が深夜帯の勤務に変更するということはできないし、店長の方針で女性スタッフは深夜帯の勤務を禁止されている。そんな状況下で、私が藤野さんに近付くことができる手段と言えば、メールと電話だけだ。
私はできる限り、藤野さんにメールを送った。会話が途切れないように質問文を入れながら、一日に数回メールを送っていた。もちろん藤野さんからの返信が来てから次のメールを送るというパターンだ。藤野さんは律儀で、毎回メールを返してくれた。
授業が終わる度にメールをチェックしている私の姿を見ている友だちが、それを不思議がるのも無理はなかった。
「いつも誰とメールしてるの? 彼氏?」
「えー、由佳利ちゃんって彼氏いないって言ってなかった?」
大学のカフェテリアでお昼を食べているとき、有希と智美に聞かれた。
「……彼氏じゃないよ」
「じゃあ、誰? 気になるんだけど」
有希は食べていた手を止めた。前のめりの姿勢。明らかに興味津々だ。
「バイト先の先輩」
嘘ではない。本当にバイト先の先輩だ。
「あ、分かった。由佳利ちゃん、その人に片想いしてるんだ?」
「なんで……! 男の人だって言ってないのに」
「だって――ねえ?」
そう言いながら顔を見合わせる有希と智美。面白がっているのが、よく分かる表情だ。
「楽しそうだもん、メールしてるときの由佳利ちゃん」
「っていうか、ニヤニヤしてるに近いかな?」