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キミがいる未来を夢見ていたい  作者: 佐久良
プロローグ
3/78

プロローグ-3

「藤野さん……背高いですね」


「そうかな? 百八十三くらいやから普通やない?」


 彼はタバコの補充作業に戻る。撫でられた場所がほんの少し熱を持つ。


「藤野さん」


 彼は作業する手を止めることなく「うん?」とだけ返事をした。素っ気なさではなく、温かさを感じられる声だった。


「連絡先、聞いてもいいですか?」


 もっと藤野さんと話してみたい。彼のことをもっと知りたい。アルバイト先でしか会うことができないのは寂しいと思った。


 藤野さんは、きょとんとした表情で私を見る。沈黙がやけに長く感じられ、私は「あの……えっと」とその場を繕う言葉を探した。その間に藤野さんは私から目を逸らした。


 しまったと思うには充分だった。明らかに早まった。


 これまで交代の時間に挨拶を交わしていたとはいえ、こんなに長い時間話をしたのは今日が初めてだった。ましてや店内に客がいないとはいえ、仕事中に連絡先を聞くなんてタイミングも悪かった。頭の中で様々な後悔と反省が押し寄せるなか「今の忘れてください」と言葉にすべきなのに、口がうまく動かない。


 その間にも彼は何も言わず、レジ横に置かれたレシート入れから一枚、レシートを抜き取ると胸ポケットからボールペンを抜いてさらさらと何かを書き始めた。そしてペンを置くと、何かを書いたレシートを私に差し出した。


「携帯番号とメアド書いてあるから。いつでも連絡して」


「――え?」


「うん? 連絡先、いらん? 俺、聞き間違えた?」


 藤野さんが首を捻る。


「いえ! もらいます!」


 私は藤野さんの手にある紙を受け取ると「バイト終わったらすぐメールします!」と店内の奥にまで聞こえてしまいそうな声で言った。


 もちろん、店内には私と藤野さん以外の人はいないので、それを聞いている人はいない。すると、藤野さんがくすくすと笑い出した。


「そんな力強く言わんでも。逃げたり隠れたりせえへんから、焦ってメールせんでもええよ」


 そして、笑いながらタバコの補充を再開した。私の耳に「おもろい子やなあ」と呟く声が聞こえた。その意味を尋ねる勇気はなく、私は聞こえなかったフリをした。


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