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キミがいる未来を夢見ていたい  作者: 佐久良
4.近づく距離
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近づく距離-3

「あ、でもケーキは美味しかったし、行ったの後悔してるとかちゃうから気にせんといてな」


「まあ、でもスイーツバイキングとかお洒落なカフェって独特な雰囲気ありますからね。私もこういうお店のほうが落ち着くかも」


 藤野さんと出掛けられるなら、場所はどこだっていい。そんなことを思いはしたけれど、言葉にすることはできなかった。


「もうすぐ、クリスマスやんな」


 ふと、藤野さんがそんなことを呟いた。


 私は、チャンスとばかりに紙袋を藤野さんに差し出した。その中には、少し前に買っておいた藤野さんへのクリスマスプレゼントが入っている。一目でそれと分かるラッピングだったため、家にあった無地の紙袋に入れて持って来ていた。


「ちょっと早いけど、クリスマスプレゼントです」


 藤野さんは驚いた顔をした。そして、私から紙袋へと視線を移し、それを受け取った。


「え、開けてええの?」


 私が「どうぞ」と答えると、藤野さんは紙袋から中身を出した。ラッピングされた包みを開けると、中からグレーのマフラーが現れる。


「あ、マフラーや」


「藤野さんバイト来るときも巻いてないから持ってないんだろうなと思って、買ってみました」


「ありがとう。買おうかどうか悩んでたから、ほんま嬉しい。ありがとう」


 喜んでもらえたことで、ほっとした。「いらない」と突き返されることも予想していた私は、プレゼントを買ったものの、本当に渡すかどうか今日出掛ける直前まで悩んでいた。


 藤野さんは、マフラーを袋に仕舞わず、自分の膝に置いた。


「寒い、ですか?」


「え?」


 私の視線がマフラーに向けられるのを見て、「あー、ちゃうよ」とすぐに否定した。


「帰るとき、巻こうかなと思うて。だから、そのままにしときたいん」


 その行動で、本当にプレゼントを喜んでくれたのだと分かる。この人は、きっと嘘をつけない人なのだろう。


「そういえば、もうすぐ正月やけど、どないするん? 実家帰るん?」


「あ、そのつもりです。三日間とか四日間くらいですけど」


「そっか、ならその間は会えんくなるんやな」


 呟いた言葉にドキッとする。こういう言葉をサラリと言われてしまうから、期待をしてしまいたくなるのだ。


「藤野さんは、実家に帰らないんですか?」


 私は藤野さんに話を振った。彼は「うーん」と考える素振りを見せた。


「年末年始は新幹線も飛行機も混雑するから、時期変えて帰ろうかなと思うてる」


「確かに人、多いですもんね」


 コーヒーをゆっくり飲みながら他愛のない話をする。その時間が本当に楽しいと思った。電話での会話もメールのやりとりももちろん楽しいけれど、一番楽しくて幸せだと思うのは、こうして同じ場所で同じ時間を過ごすときだった。


 きっと、付き合っていても付き合っていなくても、こうした時間が一番嬉しいと感じるのは同じだろう。


 コーヒーを飲み終わると、藤野さんはどこかそわそわしているようだった。


「藤野さん?」


「うん?」


「もしかして、時間とか気にしてます?」


 ランチ代わりにとスイーツバイキングへ行ったのは十一時頃で、気付けばもう夕方だ。時間が経つのは早い。

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