近づく距離-2
「小野さん誘って、ほんまえかったわ」
「どうしてですか?」
「男で甘いモン好きって言うと引く人もおるけど、小野さんそういう人じゃないから。だから、小野さんと来て良かったなって思うた」
そう言って微笑みながら、藤野さんは何個目かのケーキを口に運んだ。
「ただ、周りに男が少な過ぎて、この店落ち着かんかも」
今度は苦笑いしている。確かにカップルや家族連れの男性客はいても、女性客の方が圧倒的に多い。落ち着かないのも無理はない。私が逆の立場であっても、きっと落ち着かなかっただろう。
藤野さんが持って来た二度目のお皿は、いつの間にか空になっている。だが、私のお皿にはまだケーキが半分以上載っていて、彼はそれを見ていた。それに気付いた私は皿の上に置いていたフォークを慌てて手に取った。
「ごめんなさい、すぐ食べちゃいます」
「いや、急がんでええよ。俺、もう一回、ケーキ持って来るわ」
私は目を丸くした。「引いたやろ?」とニヤリと笑う藤野さん。でも、その目は子どものようにキラキラと輝いている。
「引いてませんよ。むしろ、感心してます」
藤野さんが三皿目として持ってきたお皿には、一度目と変わらない量のケーキたちが載せられていた。むしろ、これまでで一番多く載せているかもしれない。彼は本当に甘いものが好きらしい。
話をしながら、ゆっくりとケーキを食べ、お互いのお皿が空になったところで、藤野さんは私の顔を見て聞いてきた。
「今日まだ、時間ある?」
「え?」
「店変えて、コーヒーでも飲まん?」
私が頷くと、藤野さんは「良かった」と目を細めた。
私と藤野さんが向かったのは、甘い雰囲気とも季節感とも程遠い、ファストフード店だった。季節感といえば、期間限定のハンバーガーやホットスナックがあるくらいだろうか。
私は一番小さいサイズのホットコーヒーを頼み、藤野さんは期間限定で発売しているホットチョコパイとコーヒーをセットで頼んだ。
「今、まだ甘いもの食べるんかって思ったやろ?」
「……ちょっとだけ」
会計のため、私が財布を出す。先程のスイーツバイキングは藤野さんに出してもらい、「次は支払います!」と宣言したからだ。
藤野さんは「今日は俺から誘ってるんやから、出さんでええよ」と言っていたけれど、私が何度も首を振ったため、最終的に彼は「ありがとう」と折れてくれた。
「このパイ、好きやねん。冬限定なんやけどな」
窓越しに外の通りを見ることができるカウンター席に隣同士で座り、藤野さんはそう言った。
あれだけ甘いものを食べていても、藤野さんは太っていない。極端に細いわけでもないが、あれだけ食べても太らないのは、正直羨ましい。
「小野さん、コーヒーだけ?」
「もう今はお腹いっぱいなんで」
それは事実だったが、それ以上に甘いものを食べ過ぎたという罪悪感もある。明日の朝までは飲み物だけで過ごそうと心の中で決意する。
「やっぱ、こういうとこの方が落ち着くかも、俺」
苦笑いを浮かべる藤野さん。店内は小さな子どもを連れた家族やパソコンを広げているサラリーマン、部活帰りらしい男子高校生たちでざわざわしている。小さな子どもたちは、どうやらおもちゃ付きのセットにするかどうかで母親と揉めているらしく、大きな声を出している。