近づく距離-1
藤野さんから「付き合ってほしいところがある」と誘われたのは、街が中途半端にクリスマスムードになっている十二月の二週目だった。
誘われたのはスイーツ専門のバイキングの店だ。メインはケーキやプリン、カップケーキといったデザートではあるものの、メニューのなかにはサラダやパスタ、カレーなどもある。
「俺、甘いモン好きやねんけど、こういうとこ男一人で入る勇気なくて」
「まあ、確かに。私も何回か来てますけど、男性一人って方はあまり見ませんね」
周囲を見渡しても、やはりカップルや女性同士で来ていることが分かる。
「……彼氏と?」
予想外の言葉に慌てて首を振って、否定する。
「いえ、友だちと! 高校生のときに」
彼氏と来たこと――というより、男性と来たことは一度もない。でも、それを彼に伝えることはやめておいた。誰と来たことがあるのかを気にしてくれたことも嬉しかったが、それも言わないでおいた。
私たちはそれぞれ気に入ったケーキをお皿に載せ、席へと戻った。藤野さんが「甘いものが好き」と言ったのは嘘ではないらしく、先に席に戻っていた彼は、私と同じくらいの量のケーキをお皿に載せている。
「正直、疑ってるやろ?」
「え?」
「俺が、甘いモン好きって」
藤野さんがいたずらっぽく笑っている。どうやら、私は怪訝そうな顔をしていたらしい。
「いや、疑ってなんかないですよ」
「ほんまかいな」
「藤野さん、十個くらいお皿に載っけてますけど、本当に食べられるんですか?」
ケーキは一口サイズ程度のものではあるが、十個も食べれば多くの男性はお腹いっぱいになるだろう。
「それを疑ってるって言うんやで?」
藤野さんは、笑いながらツッコんでいる。
「ちなみにおかわりする気満々やから、心配せんといて」
両手を合わせて「いただきます」と言った彼はケーキの一つにフォークを突き刺して口に運んだ。藤野さんは「あ、うまい」と声を出す。私もケーキを一つ、口に運んだ。
「藤野さんが甘いもの好きって意外でした」
「甘いものは割となんでも好きやねん」
「ケーキだけじゃなくて?」
「うん。あんこ系の和菓子も好きやで」
話をする度に、一つずつ藤野さんのことを知っていく。それは、同時に私の中の「好き」という気持ちを大きくさせる。「彼女になりたい」という気持ちを強くさせる。
「しかし、ほんまに女の子多いなー。この店」
藤野さんがケーキを口に入れながら、独り言のように呟く。もう一度、皿いっぱいにケーキを載せて席に戻ってきた藤野さんだったが、フォークを口に運ぶ速度は落ちていない。
「まあ、女性は甘いもの好きですから――って差別ですね、これは。男性も甘いもの好きな人はいますし、女性でも甘いものが苦手な人もいますし」
私もおかわりで、ケーキをもう一度運んできたが、藤野さんよりは少なめな量だった。自分では甘いもの好きだと思っていたが、男性の藤野さんより量を食べることはできなそうだ。