幸せな片想い?-2
有希は力強く、拳を作る動作を見せながら私に言った。本当にそんなことがあったら殴り込みにでも行きそうな勢いだ。
きっと有希が、次の恋愛を探した方がいいと勧めてくるのは私のことを心配しているからなのだろう。傷付いてしまわないように、泣いてしまわないように「止める側」にいようとしてくれたのだろう。
「ありがとう」
私は、二人を見て言った。昨日、藤野さんに振られてしまったときは涙なんて出なかったのに、二人の顔を見ているとその優しさに不思議と涙が溢れそうになる。
「――で、どうするの?」
有希が、おもむろに尋ねる。
「なにが?」
「クリスマス。フリーター男と過ごすの?」
「その『フリーター』っていい加減やめて」
少しだけ苛立っていたのが伝わったのか、有希は「ごめん」と一言謝ってから言い直した。
「……藤野さんだっけ? その人と過ごすの?」
「過ごせればいいけど……さすがにハードル高いよね、クリスマスは」
一年間のイベントの中で、一番恋人らしいイベントだ。
本来はイエス・キリストの誕生を祝う日で、仏教徒の多い日本人にはあまり関係ないものだというのは分かっているし、もちろん私もキリスト教の信者ではない。だが、日本人の認識として二十四日のイヴは恋人と過ごし、二十五日のクリスマスは家族と過ごすことが定番になっている。
「有希と智美こそ、クリスマスはどうするの?」
「私は、それまでに彼氏作るわ」
有希は気合い十分である。気合いを入れて作るものでもないのだが、それはこの際置いておくことにする。
「智美は?」
「うーん……クリスマスだから彼氏が欲しいってわけでもないし、過ごし方を聞かれるならクリスマスケーキ買って、それを家族で食べるかな」
智美は両親と高校生の妹の四人で、実家で暮らしている。「特に好きな人がいるわけでもないし」と付け加えた智美は、私を見る。
「プレゼントとか買わないの? 一緒に過ごせないにしても、プレゼント渡すのはアリじゃない?」
「プレゼントか……」
確かに渡すだけなら、一緒に過ごすことよりはかなり現実的だし、実現可能な範囲内だ。
何を渡そうか。欲しいものはあるだろうか。何をプレゼントしたら喜んでくれるだろうか。
そんなことを考えているだけで、自然と嬉しくなってしまう。心が満たされていく。彼を想うだけで、その時間は幸せな時間に変わる。
「なんか……本当に幸せそうだね」
有希が呆れたように笑う。
「変だよね、振られたのに」
自嘲気味に笑ってみせると、有希は「いいんじゃない?」とテーブルに頬杖をついた。
「振られても幸せだって思える恋愛なんて、なかなかないしさ」
確かにそうかもしれない。幸せな片想いなのだろうと思う。