加速する想い-5
「じゃあ、今度またどっか行きましょうね」
「せやね。……やから、気まずく思ったり避けたりせんとってな?」
それは、私のセリフだった。あまりにも心配そうに聞いてくるから、ついつい笑ってしまう。どうして振った側の彼が、私よりも不安そうになっているのか。
「それ、私のセリフです。今まで通り、メールも電話もしていいですか?」
「もちろん。あ、帰ったらメールしてな?」
「分かりました。じゃあ、今日は帰りますね」
「うん。またね、おやすみ。気をつけてな」
「はい、おやすみなさい」
私は、彼に背を向けて歩き始めた。
しばらく歩いて、ふと足を止めて振り返ると、そこにはまだ彼の姿があった。声は届かないので小さく手を振ってみると、彼も手を振り返し、そして改札へ続く階段の方へと消えていった。
不思議と涙は出てこなかった。「付き合えない」と言われた瞬間は、恥ずかしさや悲しさという気持ちもあったが、いまはそうではない。
そればかりか、彼に近づけたような感覚さえある。錯覚なのかもしれないが、そんな気持ちになっていた。
家に着くと、そのままベッドに倒れ込んだ。しかし、すぐに立ちあがる。
このままではコートもワンピースもシワになってしまう。一人暮らしとなった今、シワが入った衣服の手入れをするのも私しかいない。
それらを脱ぎ、部屋着に着替えてから携帯をチェックすると藤野さんから、無事に家に着いたかどうかを確認する旨のメールが来ていた。
「私、送るって言ったのに」
届いたメールに返事を打つ私の気持ちは穏やかなものだった。
振られてしまったが、拒絶されたわけでもないし、関係が変わったわけでもない。藤野さんはこれまで通りの付き合いを望んでいたし、電話もメールも一緒に出掛けることもできる。想いを伝えてしまったのだから、ある意味、これからは開き直って「好き」というアピールもできるのだ。
「やっぱり、好き」
それは変わらなかった。想いは、確実に加速していた。