加速する想い-3
一番聞きたかったことだ。ずっと聞きたかったのにタイミングを失っていた。
それに真実を知ることが怖くて、聞くに聞けなかった質問だった。
「いたら、今日みたいに女の子と二人で出掛けたりせんよ」
「そう、ですよね」
恥ずかしさから、言葉がぎこちなくなってしまう。
藤野さんが発するたった一言で、私の気持ちはどんどん大きくなっていく。さりげなく気遣ってくれるところも、ごく自然に女の子扱いしてくれるところも恋愛感情を加速させていく理由になってしまう。
ただ一つ気になるのは、これまでの恋愛経験があるからこそ気遣いも女の子扱いも上手いのだろうかということだ。つまり、女性に慣れているのかどうかということ。
チラリと横目で彼を見てみる。初めて一緒に出掛けた相手に、これまで付き合った人の数を聞くなんてあまりにも気が引けるし、聞いた瞬間、藤野さんに引かれてしまうのは想像がつく。そんなことを考えていると、藤野さんが少しだけ言いにくそうに口を開いた。
「それに、俺、付き合うたことないんよね」
「え? なんでですか?」
「うーん……なんでやろ。縁が無かったんかな?」
その横顔は、どこか寂しそうで、見ている方が切なくなるような表情だった。
それ以上、何も聞けなかった私は、駅までの道をいつもより少しだけゆっくりと歩いた。駅の改札を抜けてホームに降りると、すぐに電車の入線を知らせるアナウンスが聞こえた。
「藤野さん、そのままバイト行っても大丈夫ですよ?」
私の最寄り駅は、アルバイト先の駅の二つ手前だ。そのまま電車に乗っていれば、いつもより早く着くことになるが、一度改札を出て再び入るという面倒なことは避けられる。
「ええの、俺が小野さんを送りたいだけやから。気にせんといて」
ホームに到着した電車は、休日が終わるギリギリまで遊びを満喫した人や休日出勤の会社員たちで混雑していた。満員電車というほどではないが、座れる席はなく、立っていると隣の人の身体に触れてしまう程度に混んでいた。
「混んでるな」
「そうですね」
揺れる車内は苦手だ。足もとがフラフラしてしまい、隣に立っている人にぶつかってしまって頭を下げることが何度もある。
逆に他人との距離があまりにも近く、こちらが嫌悪感を抱く事態になることだってある。
だが、隣に立つ人が好きな人であるなら話は別だ。わざと身体を密着させるという犯罪染みたことはしないが、近くにいられる正当な理由になる。苦手な混雑している電車に、今日だけは感謝したくなる。
「本当に一緒に降ります?」
車内のアナウンスが知らせる次の到着駅は、私が降りる駅だ。
「降りるよ」
申し訳なさから同じことを何度も聞く私に、苦笑いしつつも、その返事は変わらなかった。
「時間が微妙やし、ほんまに駅出るとこまでしか送られへんけど」
腕時計に目をやると、確かにこのままアルバイトへ向かうには早過ぎるが、私の家まで行って再び駅に戻るような時間はなかった。