加速する想い-2
「結末変わるんは、一番勘弁してほしいやつやわ」
注文したカルボナーラを店員が運んでくるまで、話は尽きなかった。映画館で感じた気まずさが嘘のように会話が弾んだ。
パスタを食べながらも会話は続き、途切れてしまうことがあるとすれば、それはどちらかが飲み物を取りに席を立つときくらいだった。「飲み物取って来るわ」と席を立ち、ドリンクバーから飲み物を持って来る藤野さんは二杯目のコーヒーを運んで来た。
「コーヒー好きなんですか?」
ホットコーヒーを持って席に座った藤野さんに聞いてみた。
「うん。コーヒー好きやで。でも、味とか香りとかコクとか、そういうのはよう分からんけど」
「じゃあ、私もコーヒー持って来よっかな」
「好きなん?」
「アイスコーヒーは苦手なんですけど、ホットコーヒーはよく飲みます」
「俺も同じ」
笑顔を見せる藤野さん。私は「コーヒー取ってきます」と目を逸らして、席を立った。
ふいに見せられた笑顔に、どう対応していいか分からなかった。ただ、また一つ彼のことを知ったことと共通点が増えたことに、頬は自然と緩んでしまう。
コーヒーを持って、少しだけ口元に力を入れて席に座ると、藤野さんは「おかえり」と笑った。力を込めた意味が全く感じられない状態で、私は「ただいま」と返事をした。
笑顔を見せられる度、共通点が一つ増える度、私の中で好きという気持ちが大きくなっていく。もし、この想いを彼に伝えたら、どんな答えが返ってくるのだろう。今より、彼に近づくことができるのだろうか。
「小野さん、家は駅から近いん?」
「あ、歩いて十分かからないくらいです」
お互いのコーヒーのカップが空になったタイミングで、藤野さんは「ほんなら、行こか」と伝票を手に取って、立ち上がった。
「え? まだバイトまで時間ありますよ?」
私がつられて席を立つと、彼は苦笑いした。
「小野さんの最寄り駅まで送ってくよ。家までとは思ったけど、バイト先の男に一人暮らしの家、知られるんも嫌やろうし。せめて駅出るとこまで送るよ」
「え?」
「女の子なんやから、それくらいさせてな?」
急に頬が熱くなる。
嬉しさからその場に立ち尽くしていると、彼は先に会計のカウンターへと行ってしまった。慌ててコートとバッグを手に持って彼の後を追いかけ、財布を出そうとすると藤野さんがそれを制した。
「ここは、出さんくてええよ」
「いや、でも……」
「外、寒いやろうから先にコート着とき」
手に持ったままになっているコートを指差す。私はおとなしくそれに従い、財布をバッグの中に仕舞ってコートを羽織った。
会計を済ました藤野さんに「ごちそうさまでした」と頭をぺこりと下げる。
「どういたしまして」
藤野さんの後を追うように外へ出ると、ひんやりとした風が頬をかすめる。
「やっぱりもう寒くなってきたな」
「もうすぐ冬ですもんね」
さっきまで火照っていた身体は、冬の訪れを感じさせる風にさらされて、見事に冷えていく。
「風邪、ひかんようにしてな」
駅まで歩いていると、隣を歩く藤野さんが呟くように言った。歩幅を合わせて歩いてくれていることには、映画館に向かうときから気付いていた。そんな優しさが、私の身体をまた温かくさせる。
「藤野さんも風邪、ひかないでくださいね」
「せやな。看病してくれる人もおらんしな」
藤野さんは、自嘲気味に笑いながらそんなことを言った。
「……彼女、とかいないんですか?」