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バニーハント

 ウサギを捕まえた朝俊たちは幼稚園に戻ろうと来た道を引き返す。けれどその途中、五人は、その光景に息を吞んだ。


 ガブガブガブ ビターンバターン ズルズルズルー ビシバシビスバスドフガフ!

 果たして人類史上、ここまで哀れな光景があっただろうか?


 中型犬に容赦なく叩きのめされるサンドバッグボーイ直樹。悟理は蹴りの一発で犬をぶっ飛ばすと、涙ぐむ直樹を立たせた。


「酷いな、いつのまにこんなことになっていたんだ?」


 諸悪の根源たる花憐は口笛を吹こうとして、フーフー音を立てている。


「うぅ、か、花憐ちゃんが――」


 直樹が言い切る前に、花憐は悟理にまくしたてた。


「実は私たちがこの犬にとおせんぼされていたんだけど、そうしたら直樹が『ここはぼくにまかせてみんなは先に行って』ってぎせいになってくれたの!」

「ええ!? ぼくそんなこと――」


 また直樹が言い切る前に、今度は雛実が黄色い声で遮る。


「エーー! そうだったのー!? ナオちゃんカッコイイ♪ ちゅーしてあげるね♪」


 コンマゼロ秒後、直樹の口は雛実の愛らしい唇で塞がれていた。誰のマネなのかは知らないが、雛実は情熱的に直樹の口内を蹂躙しつくす。直樹は頭から湯気を出して、ふにゃっと両手を弛緩させた。雛実は花憐の嘘に、本気でだまされていた。


 花憐は朝俊にドヤ顔を作ると、自慢げに親指を立てた。


「見た朝俊? これが恋のキューピッドマジカル花憐ちゃんの実力だよ♪」

「それって深夜アニメ?」


 朝俊の視線は、石のように重かった。余談だが、朝俊の父親はアニメオタクである。


   ◆


 それから朝俊たちは、ウサギを抱えたまま入園式に乱入。ウサギとズタボロの直樹の姿は先生や保護者たちの度肝を抜き去り、色々な意味で話題を独り占めにした。


 ウサギ小屋で遊んだり、金網をくぐったり、縁の下にもぐったり、犬に襲われたりで、六人の幼稚園服は初日からそれなりに汚れていた。けれど、入園式が終わった後……


「はいみんなー、幼稚園入園とバニーハント達成記念の写真を撮るよー」


 幼稚園の玄関。そこで朝俊の母親が構えるカメラの前で、朝俊たち六人は笑顔だった。


 入園の記念写真。六人の足もとで、一羽のウサギが気持ちよさそうに眠っているその写真は、みんなの一生の宝物になるのだった。


 

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