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ミサイル!

 両手をぶんぶんと振り回しながら猫を追いかけようとする花憐。朝俊は花憐をうしろから抱き締めて、なんとか押さえる。


「あ、みて!」


 雛実が指を差した方を見ると、ウサギが一件の民家の門をくぐった。


「あそこならはさみうちでも何でもできるよ。みんないこ!」


 六人はぞろぞろと走って民家の前に到着。でも、悟理以外は門のなかを見て凍りついた。


『い、犬?』


 頬を引きつらせる朝俊たちの前には、なかなか怖そうな犬が鎖に繋がれていた。サイズは中型犬だが、三歳時にはかなりの圧迫感がある。


 悟理だけは気にせず、犬の横を通り過ぎて行ってしまう。

 そして犬は朝俊たちに気付くと、唸り声をあげて吠えはじめた。


「「ひっ!」」


 怖がりの美涼と直樹が、反射反応で朝俊の背中に隠れた。朝俊を遮蔽物にしながらガタガタと震える二人。朝俊は打開策を考え、花憐は誰よりも早く覚悟を決めた声を上げる。


「仕方ないわ。ここはさいごのしゅだんを使いましょう!」

「え? さいごのしゅだん早いんだね花憐」


 朝俊が花憐のせっかちぶりにツッコミを入れると、花憐は生まれたてのバンビよりもガクブル状態の直樹の肩をつかんだ。


「?」


 状況が吞みこめない可哀そうな直樹を抱きかかえ、花憐は目を光らせる。


「いっくよー! さいごのしゅだん! なおきミサーイル!」

「うわぁああああああ!?」


 花憐はその場で回転しながら、ジャイアントスイングのようにして直樹を投げ飛ばした。


 弧を描いて宙を舞う直樹。

 顔面から猛犬に迫る直樹。

 三年分の走馬灯を見る直樹。


 このとき、直樹はお母さんのおっぱいの味を思い出していた。


「ぐす、お母さん……」


 ベキグシャメキゴキガブガブぐるるるるるっ! ボカスカドカポンズザザザザ‼


「さぁみんな行こうよ! 直樹のぎせいをむだにしちゃだめだよ!」

「いいの!? ねぇあれいいの!?」


 直樹の悲鳴を尻目に駆けだす花憐。その背中に追いすがりながら朝俊は青ざめるが、花憐は止まらない。美涼は直樹の凄惨な光景に涙を浮かべながら逃げるように走り、雛実は、


「花憐ちゃんてわるい子だね」


 と、言いつつ直樹を見捨てて一緒に走る。

 花憐を先頭にした朝俊たちが家の裏側に回ると裏口があって、そこから小道を挟んでお隣の家の裏口が見えた。古めかしい木造の家で、悟理がその縁の下を覗いている。


「どうしたの悟理?」


 朝俊たちが到着すると、悟理は顔を上げて、縁の下を指で差す。


「ああ、ウサギがこの下に入ってな。オレじゃ体がでかくてうまく動ける自信がない」


 明らかに三歳児のセリフではないが、誰も気にせず朝俊が話を進める。


「じゃあ僕がなかに入るよ。みんなはウサギが出てきたら捕まえられるよう他の所にいて」


 朝俊の提案に頷くと、花憐、雛実、美涼、悟理は家を四方から取り囲むように移動した。


「よし、じゃあ僕はと」


 朝俊は四つん這いになって縁の下に潜り込んだ。縁の下は暗くて土の匂いがキツイのと埃っぽいのとでかなり不快な場所だった。


 でも奥の方に行くと、薄暗いなかに白くて丸いものが見える。


「ウサちゃーん、逃げないとつかまえちゃうよー」


 わざと朝俊が呼びかけると、思惑通りウサギは反対方向へと走り出す。

 ウサギは家を支える支柱の間を抜けて、日の当たる場所へと出て行く。同時に、大きな手にすくいあげられた。


「あれは、悟理かな?」

 朝俊が這いながら外に出る。案の定、ウサギを抱える悟理の姿があった。

「うわぁ、やっぱり悟理ってすごいね」

 あれだけみんなで追いかけても捕まえられなかったウサギを抱える悟理が、朝俊にはすごくかっこよく見えた。

「いや、作戦を立案したのは朝俊だろ? オレはただお前の作戦に乗っかっただけだ」

「えへへ、そうかな?」


 朝俊が照れると、花憐、雛実、美涼の三人も集まってきた。悟理はウサギを抱え直し、


「早く戻ろう。入園式がはじまっているかもしれない」


 うん、と朝俊たちが頷くと、雛実が朝俊の袖を引っ張った。


「ねぇねぇ。あたしたちってなんかわすれていない?」


 しばらくのあいだ沈黙が流れたのち、悟理が、


「そういえばお前ら、どうして直樹がいないんだ?」


 朝俊たちは思い出して『あっ!』と叫んだ。

   

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