辺境伯の三男坊は僻地に厄介払いされる。
「シンよ15歳になったのだから、開拓の一つでもやってもらおう。」
朝早くから呼び出された俺は父よりそう言われた。
「承知しました。」
願ってもない話だ。特に、この家にいること自体が苦痛となっている俺としては
本当にありがたい話だった。
「そうか、行ってくれるか、場所じゃが、この辺りに開拓村を作るが良い。」
そう言いつつ、地図を示した。領民どころか、ハンターギルドのギルド員すら
ほとんど近づかない、死の森に面した場所を開拓するように仰せつかった。
「本当にここでよろしいので?」
一応確認してみた。
「ここじゃ。」
「わかりました。これより、準備に入るので、これにて失礼します。」
そう言い、父の執務室を後にした。そこには長男と次男がニヤニヤしながら
俺を見送っていた。
「はあ、本気で殺したいらしいな。」
俺は部屋に戻り、ため息をついた。
「誰かに聞かれるとまずいのでは?」
傍付きメイドのアンナに窘められた。
「問題ないよ、ここまで来れる豚はこの屋敷にいないよ。」
アンナは顔を顰めた
「そんなことを言うものではないと思います。」
「まあ、気にするな。それにしても、何から準備するかだな。」
シンは思考を巡らすために、漆を塗った板とチョークを空中より取り出し机に置いた。
「いつ見てもシン様の収納魔法は便利ですね。」
「本当に便利だよね。何でこういうことを貴族連中は学ぼうとしないんだろうね。」
そう言いつつ、漆を塗った板にいろいろと記入していく。
「うーん、村の原型すら無い所を開拓しろとかどんな無理ゲーだよって感じだよな。」
独り言を呟く。
「人でもそうだけど、近くにある村が馬車で一日くらいかかる所だし、
そこを一先ず拠点にするしかないか。それに、住民とかどう考えているんだろう?
まあ、先ずは奴隷を活用するか。」
そう言いつつ必要な物資等を書き込んでいく。あらかた書き終えると、それを、羊皮紙に写す。
「こんな所だろうな。村を作るにしても、資材とか費用は出してくれそうにないよね。
仕方ない、在庫を処分するか。」
そう言ったときにノックされた。
「ローレンです、よろしいでしょうか?」
「ローレン?入って。」
ガチャリとドアを開けて入って来たのは老執事のローレンだった。
「あの地の開拓を任されたとお聞きしました。私めも連れて行ってください。」
ローレンはこの家の事のみならず、領地経営のアドバイザーとして、無くてはならない
存在だった。
「良いの?来てくれるなら、すごく助かるよ。でも、今の仕事はどうするの?」
ローレンは、
「大丈夫でございます。お暇をいただきましたから。」
「マジで?無理やりとかじゃないよね?」
そう、ローレンは有能すぎてこの家にはなくてはならない存在だと思っていた。
「もちろんでございます。はっきりと申し上げると、旦那様からも煙たがられておりましたし。
良い機会でしたし、老後はシン坊っちゃまの面倒を見て過ごしたいと考えておりました。」
良い笑顔でローレンは言った。
「そっか、あと、坊っちゃまはやめてほしいよ。でも、ありがとう。所で、アンナが来てくれないと
まともに生活できそうに無いんだけど。」
「私の居場所はシン様のお側です。」
「そこまで言ってくれるのはありがたいね。」
アンナとローレンは付いて来てくれるようだ。あとはいらないから大丈夫と言えば大丈夫だね。
「所で、この家の王国との借金って相変わらず?」
「以前より3割ほど増えております。水害がありましたゆえに。」
「なるほどね。ドラゴン1匹の素材で十分お釣りが来そうだね。」
「十分すぎるかと。」
「じゃあ、王都に行って話を付けて来よう。」
そう言って、部屋に一応鍵をかけた。
「さて行きますか、ゲート。」
そういうと、目の前に黒い扉が現れた。そのドアを開きその向こう側の様子を伺い、扉を潜った。
アンナとローレンも扉を潜った。そこはアルトニア王国の王都にあるハンターギルドの一室だった。
その部屋を出て受付カウンターの受付嬢のサラに声をかけた。
「お久、マスターと話がしたいんだけど、良いかな?」
「シンじゃない、久しぶりね。執務室で寝てると思うから叩き起こして来て!」
「了解、行ってくるよ。」
そう言いつつ、二階の部屋に入った。
「よう、頼み事あるんだけど。」
そこには机に足をあげ、アイマスクをした男がいた。
「何だ、シンかよ。起こすなよ。」
アイマスクを一瞬外したが、またつけて寝ようとした。
「いや、アランと話したいから、何とかしてくんね?」
「お前顔パスだろ、気にせず行けよ。お前なら会ってくれるだろ。」
「まあ、そうなんだけどな。そういうなら言ってくるわ。」
そう言って部屋を出て王城に向かった。
「さすがでございますね。」
「これでも、一応sランクハンターだからね。」
そんな話をしながら王城についた。門番にライセンスカードを見せ、
中に入る。そのあたりにいたメイドに、声をかけ、部屋に案内されしばらく待った。
「おう、待たせたな。」
アレンが入って来た。シンは立ち上がり、膝をついた。
「やめろ、気持ち悪い。借金の件で来たんだろ。」
そう言って、シンの前に座った。
「さすがに耳が早いですね。というより、親父から報告あったのですか?」
かなりフランクな感じだが、豪華な服を着ている事もあり、かなり立場が上の人間のようだった。
「まあな、そういう話はこの前の報告書にあったよ。開拓だろ、大変だな。」
「ですね。有難い事に高難易度のダンジョンのそばなんですよね。あんな所を開拓しろなんて、
運が悪ければ、高ランクハンターですら入って5分で死ぬこともありえるダンジョンですからね。」
「だからこそ、笑いが止まらないだろ。」