第八話
「絶対に上見ないでね。」
アンリが下にいるデモに向かっていった。
「おお。見ない見ない。」
「見たら終わりだからね。」
「終わりって、俺たち何か始めたのか?」
「終わりになるぐらいぶん殴ってやるって意味よ。」
アンリがデモの肩を踏んづける。
2人は肩車をしていた。デモの肩の上に、アンリが立っている。ギリギリ窓から中を覗ける高さだ。
アンリは中を覗いた。不良が6人、体育館の壁際に溜まっていた。6人のうち1人が刀を持っている。他の5人は手にナイフを持っていた。
マックが中に入る。不良が一斉にマックを睨みつけた。不良の1人が立ち上がり、マックに寄ってきた。
「あ?誰だてめぇは?」
男の声をうるさそうに聞いて、マックは男に言った。
「お前に用はない。うるさいからどっかいけ。」
マックが不良をどけて、刀を持っている男のほうに向かった。
「おい!!なめてんのか!!」
どかされた男がナイフを持って、マックに襲い掛かる。ナイフを振り下ろそうとした手を、マックは振り向きざまに掴んだ。掴んだまま男の腹を殴る。男はナイフを落とした。マックが男を蹴飛ばし、扉にぶつける。ぶつかった男はマックを見ようと顔を上げた。目の前にマックの手があった。マックは男の顔を掴むと、そのまま扉に叩きつけた。
男はそのまま崩れ落ちた。頭から血を流している。マックはナイフを拾い上げると、残りの5人に向かって言った。
「何見てんだ?一斉にかかってこいよ。面白くないだろ?」
マックがニヤけながら言った。刀を持った男以外のやつらが立ち上がる。手にナイフを持ち、声を上げてマックに襲い掛かってきた。
マックは木刀を片手で構え、突っ込んだ。一番最初の男の首元を叩く。すぐに男の後ろにいたもう1人に、ナイフを投げつけた。ナイフは男の肩に刺さった。横からもう1人がナイフを突き出してくる。男の手首を強打した後、あごを蹴り上げた。後ろからもう1人やってきた。ナイフの攻撃を避け、男の足を払う。よろけた男の後頭部を掴み、床に叩きつけた。
あっというまに3人戦闘不能になる。肩にナイフが刺さった男は、ナイフが刺さったまま、マックに襲い掛かってきた。マックは木刀を落とし、男の方に向かった。突き出されたナイフを避け、男の手首を掴み、刺さっていたナイフを、さらに奥へと押した。そのまま男を倒す。男が倒れると、刺さっているナイフを踏んだ。男の悲鳴が体育館に響く。
「こんなもんか。さて、あとはお前だけだぜ?」
「何なんだお前!?何しにここにきたんだよ!!」
刀を持った男が立ち上がりながら言った。マックは木刀を拾い上げる。
「敵討ち・・・ってとこだな。あのコンビニの。」
「坂の上にあるコンビニのことか?お前に何の関係があるんだよ!!」
「関係なんてないさ。ただ、子供の腕が落ちていた。まだ5歳にもならないほどの小さな子のな。」
「ああ。そういえば子供もいたな。腕を切られて泣き喚いていたよ。しかたないだろ?抵抗されたんだから。」
「そうか、しかたないのか。なら俺がお前らを殺してもしかたないな。抵抗されたんだし。」
「ふざけんな!!ぶっ殺してやる!!」
男は刀を振り回す。しかし、距離を置いていたマックには届かない。
「弱いなお前。このなかで一番弱いんじゃないのか?」
刀を避けながら、マックは挑発した。男が刀を振り下ろした。一歩後ろに下がり避けたマックが、男の手首を強打した。男が刀を落とすと、マックは一歩下がり、踏み込んで男の喉を突いた。男が壁にぶつかる。喉をつぶされた男は、マックを見上げ、声にならない言葉を発していた。刀を拾い上げ、マックが男のもとに寄ってきた。
「声が出ないようだな、喉を潰したから当然か。この刀は貰っていく。鞘を渡せ。」
男が腰に差してあった鞘をマックに渡す。
「よし、次はお前の首を貰うとしよう。」
マックが男の首に刀を擬す。男は泣いていたが、声がでない。
しばらく男を見ていたマックは、刀を鞘に納めた。
「と思ったが、お前の首を貰ったところで、何にもならん。あっちで倒れているやつらも死んじゃいない。もう悪さをしないというなら、お前らを殺さない。どうする?」
男は必死に首を縦に振った。マックがにやりと笑い、ポケットから塗り薬と包帯を取り出す。さっきの探索で見つけた物のようだ。塗り薬と包帯をその場に置き、マックは扉のほうに歩いていった。
扉の開ける。扉を閉める前に、マックが言った。
「虫がきたら逃げろよな?そこまで面倒みれんから。またどこかで会おうぜ。」
扉がぴしゃりと閉まった。
マックが中に入って、再び外に出てくるのに、5分とかからなかった。
その一部始終をアンリは見ていた。デモはもちろん、アンリのスカートの中を見ていたわけだが。
マックが外に出て、二人を見つけた。
「おつかれ。」
デモが言う。マックが二人の格好を見て言った。
「なにしてんだ?」
「アンリがどうしてもお前の喧嘩を見たいって言ったからさ。しかたなくこうしてね。」
そういいながらデモは上を見た。アンリと目が合う。
素早く下を向いたデモは、心の中でやばいと呟いていた。俺は死ぬのか、ここで。デモがそう思っていると。アンリがゆっくりと降りた。
しばらくアンリがマックを見る。デモが気づいたように言った。
「ん?どうしたんだ?」
アンリがデモの後ろに下がる。
「マック、今のあんたに近づいても大丈夫?」
わけがわからないという顔をしたマックはデモに聞いた。
「なにがあったんだ?てか何見たんだ?」
「お前の喧嘩してるとこだろ?なにしたのかわからんけど。」
アンリがマックのほうを見て言う。
「あんた、強いのはわかったけど、なんだか怖いのよ。」
「えー。マックは怖くないだろ・・・。」
「なんか相手に対して残酷なのよ。だいたい、中のやつら生きてるの?」
「殺しはしてない。生き延びるかはわからないけどな。」
「あそこまでやる必要あったの?」
「襲い掛かってきたのはあっちのほうだろ?正当防衛ってことでいいだろ。」
「そうそう。目には目と歯を、左の頬をビンタされたら両方の頬を殴れってね。」
アンリがデモの頬をつねる。
「どうゆう自論よ!!」
マックがくるりと後ろを向く。
「いいから、もうここには用ないだろ。さっさと行くぞ。」
そう言って歩き出した。
「アンリは考えすぎだって。ほら行くぞ。」
デモはアンリの背中を押した。
「ちょ・・・ちょっと!!自分で歩くわよ。」
デモの腕を振り離し、そう言った。
「それよりあんた、さっきスカートの中見たでしょ?」
きづいてたか、と思いながらデモが下を向いた。
「なんのことだ?俺はずっと前向いてたぜ?」
「じゃあなんで目が合ったのよ。」
「おいおい、いつお前と目が合ったんだ?」
「とぼけないで白状しなさい!!」
「俺がキュートな白いパンツを見たとでも言うのか?」
そう言ってデモは逃げるように駆け出した。
「待てこのバカデモ!!」
顔を赤くしながら、アンリがデモを追いかけた。
小学校を出るころには、走るデモをアンリが追いかけて、その後ろをマックがついていく形になっていた。
マック・・・