第三話
月明かりが照らす道を、二人の男が歩いていた。片方は足をやや引きずりながら、もう片方はしきりに前髪を上げている。街灯が灯らない道路を歩いてる二人の光景は、街頭のない田舎を歩いている少年たちのようだった。
「上見てみろよ。今日も星が見えるぜ。」
「明かりがないからな。ほんの3ヶ月前は全然みえなかったのに。」
「でも前の方が遥かにいいだろ。便利だし寒くないし。」
昼間かなり暑かったせいか、夜はひどく寒く感じた。学ランを着ているだけの二人にとって、この寒さは厳しい。
「学ランの保温性がどうたらっていってたけど、嘘だろ?」
「嘘なんかじゃない。ブレザーならもっと寒いはずだ。」
つまらない言い合いをしていると、急にデモが座り込んだ。
「もう今日は寝ようぜ。足は痛いし、腹は減ったしで・・・。」
「こんなとこで寝たら食われるぞ。」
「じゃぁせめて寝れる床に行こうぜ。もう今日は移動したくない・・・。」
「ここがどのへんかわからんのに、そんな場所が都合よくあるわけないだろ。」
デモの文句を軽く流しながら、マックは歩いていく。デモはしかたなく、マックの後についていった。
「どっかにコンビニはないのか?あそこなら食い物があるだろ。」
「コンビニなんていろんなとこにあるんだ。そのうち着くだろ。」
二人は坂道を登っていた。そこまで急な傾斜ではないが、足を擦り剥いているデモにとっては多少きついようだ。坂道の傾斜がやや穏やかになると、そこにはコンビニが建っていた。
「ほらな。コンビニあったぞ。」
先にコンビニの前に到着したマックが、遅れているデモに言った。デモが急いでマックのもとに駆け寄る。コンビニの駐車場に着き、二人は腰を下ろした。
「今夜はここで寝るか。コンビニのなかに入るのは朝になってからだ。」
「地べたで寝るのはちょっとな・・・。あのトラックの荷台で寝ようぜ。」
デモが指差した方向に、トラックが止まっていた。遠くから見ると傷がないように思えたが、近くから見るとところどころに凹みがあった。
「荷台で寝るのっていいよな。なんか憧れる。」
「こんな状況じゃなかったらな。それにしても、このビンなんだ?」
荷台には、大量にビンが詰まれてあった。ビンは無傷で残っており、中の液体が音を立てる。
「開けてみようぜ。」
そういうやいなや、デモはビンのふたを開けた。ツンとした匂いが鼻をつく。
「・・・酒だな。」
「ああ、酒だな。」
デモがトラックの外にビンを投げる。ビンが割れ、中の酒が流れ出る。
「酒なんぞ飲めるか!!」
「水なら良かったのにな。」
「もういいや、さっさと寝ようぜ。」
二人は荷台に横になった。空には星が輝いている。疲れきっていた二人は、そのまま眠りに落ちた。
何かの音が聞こえ、ふとデモは目を覚ます。同様に、マックも目を覚ました。
空がほんのり明るい。夜明けの少し前らしい。
「聞こえるよな?」
「ああ。」
デモとマックは小声で話した。トラックの周りから音が聞こえる。
「虫だよなぁ・・・。」
「だろうな。結構数が多そうだ。」
「この前のクモみたいなやつらだったら、俺逃げるぜ?」
「あんなのが大勢いたら、俺も逃げるわ。」
そういいながら、そっと体を起こし、トラックの荷台から周りを見た。
トラックの周りには、靴ほどの大きさの黒い物体が動いていた。昨晩デモが投げたビンの回りに集まっている。
二人は眼を凝らしてみる。ひしめき合っている物体の中から、触覚のようなものが見えた。
二人は確信した。
「蟻だな。」
デモがそういうと、マックはうなずいた。
「どうする?」
「あいつらがどっかにいってくれれば、それにこしたことはない。もし襲ってくるようなら・・・」
マックが言い終わる前に、マックの後ろに黒い物が現れた。反射的にデモは木刀で突いた。
木刀で突かれた蟻は、そのまま後ろに倒れて、動かなくなった。
「登ってくるぞ!!」
デモの声と同時に、二人は立ち上がった。蟻がトラックの荷台によじ登ってくる。
二人は木刀で登ってくる蟻を叩き落した。しかし、蟻は勢いは止まらない。
「結局こうなるのかよ・・・。」
デモが文句を言う。ふとマックがビンに手にした。ビンを蟻に向かって投げる。蟻はビンを避け、ビンは地面に当たって割れた。中から液が流れる。
「ビンを投げろ!!」
「おっけ!!」
デモもビンを投げた。ビンに当たった蟻は下に落ちていく。デモは登ろうとしている蟻に向かって、ビンを投げていた。しかし、マックは違っていた。わざと蟻に当てないように投げているように見える。マックは登ってくる蟻を木刀ではらい、地面にビンを投げつけていた。
「どこ向かって投げてんだよ、このノーコン!!」
「失礼な。俺のどこがノーコンだ。」
「かすりもしてねぇだろ!!」
言い争っているうちに、トラックの横からガソリンが流れてきた。蟻が食い破ったらしい。
それを見てマックが言った。
「トラックから降りるぞ!!」蟻がいない方向に飛べ!!」
「は?」
訳が分からないまま、マックの後に続いてデモがトラックから飛び降りた。
デモが地面に着地すると同時に、マックがライターを投げた。火がついたままのライターが、流れていた酒に引火した。
「ノーコンは撤回しろ。」
走りながらマックが言った。瞬間、トラックに火がつき、トラックごと蟻が燃えはじめた。
ガソリンに引火して爆発が起こる。蟻の手やら足やらが四方に吹き飛んだ。後ろを振り向いたときには、トラックの周りの蟻はすべて死んでいて、トラックは黒焦げになっていた。
「・・・はは、ははは・・・」
デモが力なく笑う。
「どうだ俺の作戦は?」
マックがデモの方を向いてニヤリと笑った。
「恐れ入ったよ。」
二人はお互いの顔を見て、声を出して笑い合った。
すでに日は昇り始めていた。辺りが明るくなると、二人はコンビニの中に入っていった。