第二話
季節は秋だった。しかし、日差しは夏のように2人を照らす。デモは暑さにバテてしまい、半ばのびていた。
「……マック、水ない?」
「ないな。」
「くそ・・・、水道も壊しやがって……。水ぅ…。」
デモがぶつぶつと小言を呟く。
「だぁぁ。ちったぁ静かにしろ!!こっちまで参っちまう!!」
怒ったマックを気にせず、デモは話題を変えた。
「いつまで高速道路歩いてるんだ?さっさとどっかに降りようぜ。」
「あほ。下に降りたら、いつ虫に襲われるかわかんないだろ?」
「でもこんな日差し浴びてたら……、俺死んじゃう…。」
「お前が死ぬかどうかは別として、確かにこの日差し強いな。」
「なぁ、下降りようぜ。なんの影響か知らないけど、植物も急成長してるんだし、俺らの姿も隠せられるだろ?」
「馬鹿やろ…。虫がどこにいるのかもわからなくなるだろ…。」
デモはマックがそう言うと、マックの目の前に立ち、提げてあった木刀を構えた。
「木刀は飾りじゃないだろ?虫が出ても大丈夫だって。」
ニヤリと笑いながらデモが言った。マックも呆れながら、ニヤリと笑った。
「・・・そうだな。何のために木刀持ってんだよって話だよな。」
そういうと2人は高速道路の脇にある階段から、下に降りていった。
高速道路の下には、ところどころひび割れているアスファルトの道路があった。道路の真ん中や脇には、無惨な車の姿があった。
「鉄でできる車も、巨大化した虫にとっちゃ紙くずなのかねぇ・・・。」
壊れた車の上に座りながら、デモが呟く。
「おい。さぼってないで手伝え。」
車の中からマックの声が聞こえた。マックは車の中を調べているようだ。
「だって汚いじゃん。」
「お前な・・・。3ヶ月も風呂とか入ってないだろ。」
そう言われてデモは自分の服装を見た。
「まぁね。いつまで制服着なきゃいけないんだよ・・・。」
「学ランの良さが分からんのか?」
「お前は高校から学ランだろ?俺は中学も学ランだったんだよ・・・。あぁ、愛しのブレザー・・・、どこにいったんだい。」
「馬鹿か。ブレザーなんて寒いだけだろ。保温性における学ランの性能は最高だ。」
「お前、今暑いだろ。」
「暑いのは学ランのせいじゃない。日差しのせいだ。」
デモが上を見上げる。あいかわらず日差しが照り続けている。ふとデモが気になったことを言った。
「てかさ、お前何してんの?」
「今更かよ。いいからお前も手伝え。何かいい物があるかもしれないだろ?」
「車に食い物なんてないだろ・・・。」
「まじめなやつが非常食を積んでるかもしれないだろ?」
手探りで車のシートの下に手を突っ込んだマックが、なにかをつかんだ。
「お?なんだこれ。」
マックの声に反応して、デモが窓から中を覗く。
「どったの?」
「なんか、奥に硬い物が。」
「めんどくさいな。手どけて。」
マックが下から手を抜いた途端でもがシートを蹴飛ばした。もともと壊れていたシートなので、簡単にどけることができた。
「ん?これって。」
シートの下から出てきたのは、銀色に輝く小さなライターだった。
「ライターか。まぁ、多少やくに立つだろ。他にはないか?」
ライターが見つかったことで、デモも探す気がおきたらしい。二人で約20分、延々と車の中を探していた。
「で?結局見つかったのは?」
「ライターに小銭、あとはカバンにうちわだな・・・。」
「使えるのあんまねぇな。うちわくれ。」
そういってデモがうちわをひったくった。うちわを扇ぎながら、デモは着ていた学ランのボタンを全部あけた。
「このカバンけっこうでかいぞ?持って行くか?」
マックがカバンを広げながら言った。
「持ち物なんてないけどな。一応もっていくか。」
うちわを扇ぎながら、デモは歩いていった。
「俺が荷物持ちかよ・・・。」
「細かいことは言うなって。」
「だいたいお前、自分ばっか扇いでないで、俺にも扇いでくれよ。」
「しかたないなー。貸しだぜ?」
「てめぇ、ふざけたこといってんじゃねぇよ。」
喧嘩しているような口調のまま、二人は道路を歩いていった。高速道路とはちがい、ひび割れたアスファルトから雑草が伸びていた。雑草は二人の背丈より低いが、それでも160cmはあるだろう。
「今何時だ?」
「太陽の位置でだいたいわかるだろ?」
「俺たちはいつの人間だっつーの・・・。」
「時計なんてないだろ。」
「そろそろ腹へってきたな。どっか探してみるか?」
「そうだな。適当な家の中に転がり込むか。」
そういいながら歩いている二人の右方に、レストランだったであろう建物が見えてきた。
「あそこはどうだ?絶対食べ物あるだろ。」
「レストランはゴキちゃんの巣窟だぜ?むざむざあいつらの餌になってたまるかよ。」
「あー、ゴキブリも大きくなってんのか。きもちわりぃ・・・。」
レストランに入らず、二人はレストランの反対側にあったマンションの中に入っていった。
「さすがにマンションは壊れてないんだな。」
デモが正面からマンションを見て言った。
「よく見ろ。外壁がえぐられてんだろ。」
「あ、ほんとだ。何があんなにえぐるんだろうか。」
「虫の顎は強いからな。俺らなんてガム食べるみたいな感じなんだろ?」
「じゃぁ鉄はリンゴか?」
「いや、スイカの皮だろ。」
「おそろしいねぇ。」
そういいながら、二人はマンションの中に入っていった。
自動ドアの前で、二人は立ち止まった。
「なぁ、この穴なに?」
自動ドアには、こぶし2つ分の穴が至る所にあいていた。
「たぶん、蟻だな。」
「うへぇ。蟻がこの大きさかよ。」
「たぶんな。」
二人は恐る恐る中に入っていった。内壁は崩れていて、多少歩きずらいが、二人はどんどん奥に進んでいった。
「上の階に行くのはまずいだろ。」
「そうだな。すぐに逃げれるようにしないと。」
二人は小声で話しながら、離れないように歩いた。
「なぁ、お前気づいてるか?」
「さっきから聞こえる変な音か?」
二人の頭上からは妙な音が聞こえていた。何かの上を渡っているような音でもあり、何かが擦れる音にも聞こえた
「そう。この音さ、俺なんかで聞いたことあるんだよな。」
マックは音の正体を知ろうと何度も上を向いたが、日差しが入ってこないせいか、暗くて見えない。
「俺も聞いたことある。なんだっけな・・・」
「64だよな?」
「お?お前もそう思ったか?」
二人の考えてることはだいたい一致していた。あとは何の音かわかればと、デモが呟く。
「あ。」
ふとデモが言葉を発した。
「どうした?」
「思い・・・出しちゃった・・・。」
「なんだ?」
「ほら。時オカのさ・・・」
「ときおか?」
マックが同じ単語を繰り返して質問し返したが、すぐに何が言いたいのかがわかった。
「・・・しゃがもうぜ。引っ掛かったら抜けだせん。」
「だな。」
二人は腰をかがめ、前に手を伸ばしながら、何かを確認しながら進んでいった。
「出口まであと少しだ。」
「気ぃ抜くなよ?」
「わかってるって。」
二人は慎重に、出口に向かって進んでいった。頭上からは音が聞こえなくなっていた。
「よし!!」
デモが出口から出る前に、手を伸ばした。その手が弾力性のあるものに絡まる。
「うお!!出口にもあった!!」
デモが急いで自分の腕を引っ張る。しかし、見えないものが腕に絡まる。
「馬鹿やろ!!クモの糸は頑丈なんだぞ。クモが人間ぐらいの大きさなら、ジェット機が突っ込んでも破れないらしいぜ。」
「冷静に語るな!!何とかしてくれ!!」
「あんま動かすな。振動が伝わってやつが来るだろ。」
マックはポケットの中からライターを取り出した。
「これで燃やす。」
「え?ちょっとまて!!熱いだろ!!」
「死ぬより、多少火傷したほうがいいだろ?」
そういうとデモの腕に絡まったクモの糸に火をつけた。火は瞬く間に広がっていき、出口を塞いでいた糸を燃やしつくし、二人の頭上にある糸を燃やしながら、マンションの中に広まっていった。
「あっちぃ。」
デモの腕の火は消えていた。学ランの袖の部分が少し焦げただけで、デモは火傷を負わなかった。
「逃げるぞ。」
マックがそういって外に飛び出した。続いてデモが外に出る。二人は後ろを振り向いた。さっきまで二人がいたところに、一匹のクモが落ちてきた。車ほどの大きさであった。クモは二人の姿を見つけると、追ってきた。
「おいおいおいおい!!あいつ追ってくるぜ!!しかもはえぇ!!」
デモとマックが全速力で走っていた。しかし、クモのほうが遥かに速く、あっという間に二人の後ろに来た。
「マックどうする!?」
走りながらデモが聞いた。
「逃げられないな!!いっちょ殺るか!!」
マックとデモが同時に振り返り、すぐ後ろに迫ってくるクモに向かって駆けた。同時に木刀を構える。マックがクモの前足の間接を叩いた。間接が潰れ、液体が出る。
それと同時に、デモもマックの反対側の足の間接を叩いた。
クモは体制を崩して地面に突っ伏す。しかし、すぐに立ち上がって糸を吐いてきた。
「うおっと!!」
デモが後ろに下がる。マックはクモの横に滑り込んだ。振り向き様に足を叩く。
「あと5本!!」
マックが叫んだ。クモが痛みを察し、マックの方を見る。その瞬間、デモが駆け出した。
デモが足を叩こうとした。瞬間、クモが足をあげデモの一撃を避けた。そのまま尖った足をデモに突き出す。
「やべ!!」
デモが木刀を立てて防ぐ。しかし、そのまま地面に叩きつけられた。
「ぐっ!!」
デモはすぐさま立とうとした。しかし、デモの頭上にクモの第二撃目が迫ってきていた。
デモはころがった。二度三度、クモの攻撃をかわす。その間、マックがクモの足を2本潰した。
「あと3本!!」
クモの動きはおかしくなっていた。バランスを崩し、地面に倒れることが多くなった。
二人は後ろに下がり、息を整えた。
「しぶといやつだな・・・。」
「足しか攻撃してないからな。それより、お前の足は大丈夫なのか?」
デモの足から血が出ていた。
「転がってるときに擦り剥いただけだ。あいつの攻撃なんて受けてねぇよ。」
クモが後ろを向いた。大きく膨らんでる腹を2人に向けた。瞬間、クモが糸を飛ばしてきた。
「うお!!」
糸はマックの足に絡まった。
「ありゃりゃ。どうすんだ?」
デモが笑いながら言った。クモがゆっくりとマックに迫ってくる。
「さっきお前の腕に火をつけたツケかな?」
マックは半ば微笑を浮かべていた。ポケットからライターを取り出す。マックは足に絡まっている糸に火をつけた。火は瞬く間にクモに届き、クモは燃え出した。
「あっちあっち!!」
マックは自分の足についた火を消していた。
「無茶するなぁ。」
デモは傍観している。
「お前、消すの手伝えよ。」
マックは火を消して文句を言った。
「いいじゃん。あっちは片付いたみたいだし。」
クモはピクリとも動かなかった。肉が焼けるにおいが漂う。
「うげ。くっせ。さっさといこうぜ。」
デモがそそくさとその場を後にした。
「おい。待てよ。」
マックがその後を追う。二人は逃げてきた方向に歩いていった。
空は赤みを帯びていた。夕日が二人を照らし、沈んでいった。