第十七話
当初の設定から大きくずれてる気がしてきた。。。
扉が開く音がする。机に向かって座っていた男が後ろを振りむいた。立派に蓄えられたヒゲが白くなっている。50過ぎほどの老人であった。
「・・・お前か。もう帰ってきたのか。」
「そんなに遠い距離ではありませんので。」
扉に立っていた男は机の近くにあるイスに座った。イスの横にはランプが吊るされていた。ランプの光を受け、男の金髪の髪が光った。
「研究の方はどうですか?私以外のほかに造ることができましたか?」
「成功したのはまだお前だけだ。」
机に向きなおした老人は、目の前にあるパソコンで作業の続きを行った。しばらくキーを打つ音だけが、部屋の中に響く。ふいに老人が上を向き、目頭を押さえながら言った。
「どうであった?」
「マックのことですか?」
「そうだ。会ったんだろ?」
「ええ。中々鋭い目をしてましたよ、親に似て。」
「そうか。それで、どうだ?」
「そこまで警戒する必要ないんじゃないですか?ただのガキだったし。」
「それなら早く連れて来い。」
男は笑いながら手を振って答えた。
「普通のカマキリじゃ相手になりませんでしたよ。まぁ、私が出張れば済むことですが。」
「だめだ。お前は唯一の成功例だが、まだ試作段階のようなもの。何が起こるかわからないんだぞ。」
「わかってますよ。今はおとなしくしています。ですので、あなたも早く、私の兄弟を造ってください。」
「簡単に言うな。耐えることができる優秀な人材がいないのだ。」
「だから今、生き残っている人間を片っ端から集めようとしているのですね。」
「そうだ。しかし、これには適当な年齢があってな。16〜22歳の人間がいいのだ。」
「高校から大学生ぐらいですか。」
「そうだ。その頃の肉体が、一番適応しやすいんだ。」
「ですが。私は25ですよ?」
「適応しやすいといっただけだ。ほかの年齢でも適応する。おまえだけだがな。」
老人は机の上のカップに茶を注ぎ、飲んだ。
「マックは優秀だったか?」
「ええ。そうだ、マックには他に3人、一緒にいる人間がいるのですが。そいつらも実験体にしてはどうですか?ただ殺すだけでなく。」
「他の奴らなぞいらん。そもそも、マックが欲しいのではない。あいつが持っているものが欲しいのだ。」
「持っているもの?刀なら持っていましたけど。」
「そんなものではない。もっと小さいものだ。形はわからんが、確かにあいつがもっているはずだ。ロニキスの息子だからな。」
カップを置いてまたキーを打ち始める。少し経ってから男が口を開いた。
「それはそうと、前から聞きたかったのですが、あなたの目的は何なのですか?私のような者を造りだして何をするつもりなのですか?」
老人は動いてる手を止め、イスを回し男の方を向いた。
「・・・生態系の頂点。今そこに君臨しているのは何だと思う?」
「それはやはり、人間・・・ですかね。」
「そうだ。人間は頭を使い、物を利用して、生態系の頂点に君臨した。しかし、人間は非常に弱い生き物だ。丸腰では何もできない。熊の方がよっぽど強いではないか。」
「まぁ、それが人間ですから。」
「自然の摂理は弱肉強食であるという。人間だけが、この摂理から逃れているような気がするのだ。だから私はお前のような者を造った。本当の弱肉強食の世界でも、頂点に君臨することができるお前を。頭を使い、物を利用して頂点に君臨する人間とは違う。お前は、頭を使い、物を利用せず頂点に君臨することができる。」
「では、私は人間ではないということですね?」
「もちろんだ。姿は人間だが、人間ではない。人間よりさらに優秀な生き物だ。人間という存在をなくし、お前のような者を頂点に君臨させる。それが私の夢だ。目標なのだ。」
老人の目は輝いていた。子供が将来の夢を語るように、老人は興奮していた。
「では、人間ではないとすれば、私は自分をなんといえばよいのですか?」
「うむ、そうだな。呼び方か・・・。お前はどんな呼び方がいいのだ?」
「そうですねぇ。やはりかっこいい呼び方がいいです。」
「なら、お前の造り方から、『異植者』というのはどうだ?」
「・・・そのまんまですね。もっといいのはないのですか?」
「ほかの呼び方は考えられん。」
「異植者・・・ですか。」
「そうだ。お前は私が造った最初の異植者。私の夢の実現の最初の一歩だ。そして、私の息子でもある。」
「息子ですか。なら私は、父の夢の実現のために最善を尽くすとしましょう。」
男はイスから立ち上がると、扉の方へ歩いていった。
「期待している。しかし、今はまだ動くなよ?」
「わかっています。」
扉を開けて外に出ようしたが、何か思いついたのか、足を止めて振り返った。
「そうだ、異植者はまだ私だけのようですが、そのうち人数が増えたときに互いの呼び方に困ります。異植者という呼び方とは別に、何か名前をくれませんか?」
老人は男の方に振り向くと、天井を見上げた。
「名前か・・・、そうだな・・・。」
老人が口に手を当てる。しばらくして手を離した老人が言った。
「お前の名前は・・・・・・。」
老人が男の名前を言う。男は満足げに頷くと、外にでていき、扉を閉めた。部屋の中を照らしていたランプの火が揺れた。