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第十六話

武道館の裏口に積まれている箱の後ろに、男女4人が隠れていた。

「なぁ、まだか?」

「デモ!!少し黙ってなさい!!」

アンリがデモの口をふさぐ。

「アンリ、あなたも声大きいわよ!!」

エーデルがマックの肩に手を置きながら言った。

「お前ら少し静かにしてくれ。それに耳元でしゃべるな。」

マックは目を閉じながら、じっとしていた。エーデルが自分の口を手でふさいだ。

その後ろではデモがアンリに口をふさがれたまま、上を見ている。

その時、武道館の中から笑い声が聞こえた。続いて、ガラスが割れる音がした。羽の羽ばたく音が聞こえると、4人は身動きひとつせず、息を殺していた。

羽の音が遠のいてく、完全に聞こえなくなってから、マックが立ち上がり、裏口の扉を開いた。扉を開いたままマックが中に入る。少ししてからマックが扉から手を出して、3人を呼んだ。

エーデル、アンリと中に入り、最後にデモが扉を閉めながら中に入った。

中に入るとすぐに、3人は鼻を覆った。

「うげ。何のにおいだ?」

「なにか焼けてるみたいね。競技場からしない?」

エーデルがそう言うと、デモは競技場への扉を開いた。中で何かが燃えている。

「あれ。さっきのカマキリか?」

デモが燃えているものを見ながら言った。マックも同じように見ていた。

「あの男が燃やしたんだろ。」

マックはそう言うと、階段のほうへ歩いていった。

「どこいくんだ?」

デモが聞く。マックは階段を上がりながら答えた。

「ちょっと確かめたいことがあってな。」

エーデルがマックに続いて階段を上った。デモがそのあとに続こうとすると、扉の前でとまっているアンリをみた。

「なにしてんだ、いかないのか?」

「あのまま燃えてていいの?建物に燃え移らない?」

「心配すんなって。すぐ出るだろ。」

そういうとデモはアンリの手を引いて階段を上った。


4人はマックを先頭に、丸くカーブしている廊下を歩いていた。いくつかの部屋を通り過ぎたが、誰も出てくる気配はしなかった。

「誰も出てこないな。」

「まだ寝てるのかしら?」

「あのカマキリが来た時の音でも誰も起きだしてこなかったしな。」

そんな話をしていると、いつの間にか建物を一周し、上がってきた階段の所に戻ってきた。

「ほんとにまだ寝てるのか?」

デモが階段の手すりに寄りかかりながら、マックに言った。

「見てみるか?結果はわかっているが。」

「なんだって?」

「この状況を見て考えられる結果はひとつしかないだろ。このままいても誰も起きだしてこないはずだ。いくら待ってもな。」

マックの言葉を聞き、デモは階段から近い部屋のドアを開けた。部屋の中をみたデモの顔が曇る。取っ手をつかむ手が震えていた。

アンリが続いて中を見る。部屋の中には誰もいなかった。しかし、部屋の至る所に血が飛んだ跡が残っている。壁にも、床にも、扉にも。床には血溜まりができていた。

アンリは口をふさいだ。デモはしかめっ面をしながら、扉を閉めた。2人は階段のとこに戻り、座り込んだ。

2人は何も言わなかった。ただ下を見ていた。マックは二人の様子を見て、黙り込んだ。エーデルも黙っていた。

「死体は、どうしたんだろ。」

デモが口を開く。しばらくしてからマックが答えた。

「虫に食わせたんだろ。」

「俺たち以外みんな死んだのかな?子供だっていたのに。」

「あいつらがそんな区別してるとは思えないな。」

「あいつは何したいんだ?お前が目的なんだろ?なんでほかの人も殺すんだよ。」

「俺に言うな。そもそも、なぜ俺が狙われるのかがわからん。」

「それは俺にもわからないけど。」

デモが黙り込んだ。そのまま時間が過ぎていく。ついにマックが立ち上がり、言った。

「出よう。」

マックはエーデルを連れて階段を下りていった。デモとアンリはしばらくしてから立ち上がり、階段を下りた。

扉を開き、外に出る。日の光を浴びた途端、エーデルが泣いた。マックの腕の中で、声を上げて泣いた。マックはエーデルの頭に手を置くと、目を瞑り、歯を食いしばった。

エーデルの泣き声はまだ外に出ていない二人にも聞こえた。その声を聞いた途端、アンリも泣き出した。声は出ないように抑えていたが、涙は止まらなかった。そんなアンリの姿を見ていたデモは、壁に自分の額をぶつけた。2度3度、記憶がなくなると思っているように、壁に額をぶつけた。額が切れ、血が流れる。血を拭かず、そのまま外に出ると、横にある箱に寄りかかりながら座った。しばらくしてアンリが横に来て座った。

太陽が真上に来るまで、4人は黙っていた。エーデルは泣きつかれて、マックに背負われて寝ていた。デモが箱を殴り、立ち上がる。

「よし、行こう。」

そう言うとそのまま伸びをして、マックを見て笑った。マックが片方の眉を上げて聞いた。

「ふっきれたのか?」

「責任がないと言えば嘘になるけど。いつまでもここにいるわけにはいかないだろ?お前の親父がいる研究所に行かなきゃいけないんだし。」

そういうとデモはしゃがんでいるアンリを立ち上がらせた。アンリは少し顔を上げたが、また下を向いてしまった。

デモが困った顔でマックの方を向いた。マックは苦笑し、自分の背中をあごで指した。

デモが大きく深呼吸をすると、アンリの視界に自分の背中が入るように足を曲げ、アンリの前に立った。アンリは顔を上げ、デモの頭を見たあとに、横で待ってるマックの姿を見る。

マックはあごでデモを指した。アンリは何も言わず、デモの背中に乗った。デモが立ち上がると、アンリの足は地面から離れた。

「よし、いくか。」

デモはアンリを両手でしっかりと抑えると、少し前のめりになりながら進んだ。

「まるで父親だな。」

デモの姿を見て、マックが言った。

「人のこといえるのか?」

デモが笑いながら言い返す。

橋を渡るころには、アンリも寝入ってしまった。

二人の男は先を争うように早歩きで進んでいた。アスファルトを照らす太陽がまぶしい。後ろで武道館が崩れる音を聞きながら、二人は背中に乗せている大切な人を起こさないように、歩き続けていた。日が暮れるころには、すでに起きた二人の声援を浴びながら、必死に坂を上るはめになってしまった。

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