第十三話
そろそろネタがない・・・
月が雲に隠れ、外は完全に真っ暗になっていた。
体育倉庫の中はろうそくの明かりで赤く照らされていた。アンリとエーデルがマットの上に寝転がり、話をしていた。
「ねぇあなた、マック様とはいつから一緒だったの?」
「そのマック様って言い方、やめなさいよ。」
アンリはそういうと、少し考えてからまた口を開いた。
「だいたい1週間ぐらい前かしら。」
「1週間?あなたたち、その1週間なにしてたの?」
エーデルが少し興奮気味に聞く。アンリがなだめながら続けた。
「だいたいよだいたい。それに、そのうちの4日ぐらいはバラバラだったんだから。」
「そう。」
エーデルは安心したように胸をなでおろした。
「あんた、何を心配してたの?」
「決まってるじゃない。マック様に変な虫がつかないか心配してたのよ。」
「それ、どういう意味よ。」
アンリが少し怒った声で聞いた。
「マック様は素敵な方よ。1週間も一緒にいたら惚れてしまうじゃないの。」
答えを聞いてアンリはあきれた顔をした。
「あんたね・・・。たしかにマックは強いし頼れるところがあるけど、近寄りがたいじゃない?」
「あら、あなたはマック様を知らないのよ。身を挺して私を守ってくれたマック様はすばらしかったわ。」
アンリの脳裏にマックが喧嘩をしていたシーンが映し出された。敵に対する非情な行為、そして、そのときの笑みを浮かべていたマックの顔。
アンリはぶるっと体を震わせた。エーデルがそれに気づく。
「寒いのかしら?」
「いえ、なんでもないわ。」
「それにしても、1週間もマック様といれたのに、マック様に惚れないなんて。もしかしてあなた、もう一人のほうのことが好きなの?」
「デモのこといってるの?」
「そうよ。」
アンリはぷっと吹き出してから言った。
「そんなことありえないわ。デモは強いか弱いか別にして、頼れないもの。」
「そうよね。頭悪そうな顔してるものね。」
二人は黙りこくった。しばらくして、エーデルが仰向けに転がり、歌を歌った。
夕日が沈む頃
あなたが私にいってくれた言葉
いつか二人で海を見に行こう
私はすぐに答えた
必ず見に行こうと
覚えているのかしら
二人で駆け回った丘
二足の靴のように育った私たち
あなたのために歌った歌を
あなたは覚えているのかしら
エーデルは歌い終わると、そのまま静かになった。アンリも重くなったまぶたを抑えることができず、そのまま寝てしまった。
エーデルの歌は、倉庫の近くで横になっていたデモとマックのところにも聞こえた。
エーデルの歌が止むと、マックが体を起こし、座った。
「どうした?」
デモは横になりながら、マックのほうを向く。マックがデモを見下ろしながら言った。
「おかしいとは思わないか?」
「なにが?」
「虫だよ。」
「あのハエのことか?」
「それもある。なぜ引き返したのか。まるで誰かを探しているみたいに。」
「おまえまさか・・・、誰かが命令してるっていいたいのか?」
「そのとおりだ。昼間俺のことを見ていた奴がそうかもしれない。」
「そんな馬鹿な話があるか。虫に命令するってことは、虫をコントロールするみたいなことだろ?」
「そうだ。そう考えると、今回のこの事故も、人為的なものだととらえることができる。」
「爆発事故のことか?」
「そう。虫が大きくなることも、全て誰かの計画だとしたら、最近虫の出現が減ってきていることにも理由つけられる。」
「ちょっとまてよ。そんなことして、そいつは何がやりたいんだ?」
「世界征服だろ?子どもの頃の夢を追い続けてるどこかの馬鹿がやったのかもな。」
「一人なわけないだろ?」
「これほどの規模だ。3桁の人数はいるだろ。」
「すると、昼間の男もか?」
「そうだ。もしかすると、ここの大人全員がそうかもしれない。だからここは無事だったのかもしれない。」
デモは考え込んだ。いままでの騒ぎが全て誰かの計画だとしたら、これ以上虫から逃げるだけの日々を送る意味がない。この騒ぎの犯人を見つけて、殴ってやらないと気がすまない。デモはそう考えていた。
「どうするマック?」
「もちろん、大人たちが起きる前に、ここから出て行く。」
「それは俺も賛成だが、黒幕を見つけないとだめだろ?」
「そのとおりだ、それをどうするか。」
マックは自分の服の中に手を入れ、首飾りを取り出した。細丸いアクセサリーの中には、マックの家族の写真があることを、デモは知っていた。
「俺の親父が、科学者なのは知ってるよな?」
「ああ。」
「親父なら何か知ってるかもしれない。今回の虫の異常成長。」
「でも、親父さんがどこにいるか知らないんだろ?」
「親父ならどこかの研究所にいるはずだ。薬品のにおいがするところに、虫は行かないだろ?」
「そうかもしれないけど、どこにあるかわかるのか?」
マックは力なさそうに笑った。
「それをこれから探し出すんだろ?」
デモとマックはお互いを見て、笑った。
「よし!!そうと決まれば、早速明日から行動開始だな。」
「ああ。」
マックが横になった。デモが背を向けて寝転がっている。
「そういえば。」
ふとデモが言う。
「おまえ、エーデルのことはどうするんだ?」
「もちろん、置いて行くさ。あいつを危険なところには連れて行けない。」
「でもあの子なら、ついてくるんじゃないか?お前のこと好きなんだから。」
「だからなおさら、連れて行けない。俺のために危険なことさせられないだろ?」
「そりゃそうだけどな。」
デモが仰向けになる。マックがにやりと笑いながら言った。
「お前はどうなんだ?」
「なんのことだ?」
「アンリのことだよ。」
「アンリがどうかしたのか?」
はぁ、とため息をつきながら、マックが続けた。
「アンリは連れて行くのか?」
「あー、どうしようか。ここならあいつも安全だしな。置いていったほうがいいのかな?」
「お前はどうしたいんだ?」
「なんで俺の意見が必要なんだ?」
「お前、あいつに惚れてるだろ?」
「な!?」
デモが起き上がった。横には笑いを堪えているマックがいた。
「なんで俺があいつのこと!!」
「隠さなくていい。見てりゃモロバレだ。」
「う・・・。そうだとしても、関係ないだろ?」
「連れて行きたいんじゃないのか?」
「ぐ・・・。」
デモは言葉が詰まった。いろんな思いが巡る。
マックが真剣な目でデモを見た。
「俺はエーデルを守る。あいつがもし、ついてくることになったとしたら、何よりもまず一番にあいつを守る。」
マックが断固とした声で言った。
「デモ、お前は俺が守るほど弱くない。だが、アンリはどうだ?俺がエーデルを守るとき、アンリを守れるのはお前しかいないんだ。」
デモは下を向いていた。
「いいか、アンリを連れて行きたいなら。アンリに降りかかる火の粉は全てお前が払え。アンリには傷ひとつつけさせるな。アンリを傷つける奴には、お前のやり方でそいつを始末しろ。」
デモが上を向いた。深青色の目が、決意を表している。
「絶対に、俺が守る。」
「その意気だ。自信を持て。」
二人は拳を合わせ、笑った。
雲が晴れ、窓から月明かりが差し込む。二人の男は、明日のために眠りについた。