第十一話
下水道の中はひどい臭いが充満していた。一番最初にマックがバシャンと音を立てて降りた。降りた途端に鼻を塞ぐ。しかめっ面をしながら、はしごの上を見て、合図をした。
続いてデモが降りる。下水道の水は、ほとんど涸れていたため、ズボンは濡れなかった。デモも鼻を塞ぎ、はしごから離れようとした。
「デモ!!」
アンリがデモを呼ぶ。すでに歩き始めたマックは後ろを振り向いた。デモがはしごから上を覗く。
「なにしてんだ?早く降りてこいよ。」
アンリははしごにつかまったままだった。手でこっちにこいと合図している。
「なにしてんだよ。」
「おぶって。」
「なんで?」
わけがわからないという顔をしたデモが、理由を聞いた。
「汚いから。」
「そりゃ下水道だからな。」
「だからおぶって。」
「なんで俺が・・・。」
「マックはカバン持ってるでしょ?あんたしか手が空いてないのよ。」
「だからって・・・」
デモが反論しようとしたが、下水道の向こうからマックが呼んでいた。
「ちぇ・・・。しょうがねぇな。」
デモは後ろを向いて、かがむ。その背中にアンリが飛び乗ってきた。
「っつ。もうちょっと優しく乗れないのかよ。」
「仕方ないでしょ?」
アンリをおぶったデモは、マックのもとに走っていった。
足音が響く。下水道が一本道でなければ、逃げた者を追うことができなかったはずだ。
マックのカバンの中はほとんど空なので、マックはいつもどおりの速さで走っていた。
デモも、アンリをおぶっているが、離されないようにマックに続いていった。
光が見えてきた。マックがスピードを落とし、出口の前で止まる。少し経ってからデモが追いついた。
出口から武道館が見える。武道館の周りは水があった。湖の真ん中にある島のように、武道館は建っていた。武道館に行くには、上にあるでかい橋をわたらないといけないようだ。
「上にいこう。」
マックがそういって近くのはしごから上に上っていった。デモがその後に続く。
マンホールのふたを閉じ、3人は武道館に渡る橋を通っていた。
橋の中程まで進むと、歌が聞こえた。
風を歌う旋律
絶壁の端の家は深緑色の屋根
ぐるぐる回る風見鶏
春の暴風雨のようだった4月
落ちた花びらが残していったしみ
ページの端に軽く押したような痕跡
風が残していった指紋のように
白いテラスに立ち
あなたが歌ってくれた歌
永遠に忘れることのできないあなたの微笑み
怒っても、あなたが好きだった
私を置いて去っていっても
あなたのことが好きだった
デモとアンリは立ち止まって聴き入っていた。マックだけが、渋い顔をしていた。
歌が止まり、3人は歌が聞こえた方に駆け出した。2分後、武道館の裏にたどり着いた。
武道館の裏には扉があった。その前に、女の子が1人座っていた。
金髪のショートカットが目に映った。端正な顔立ちをしている。年齢はまだ中学生ぐらいだった。
デモとアンリは女の子をじっと見ていた。マックだけが、下を向いている。
「あなたたち、誰?」
女の子が順番に3人を見る。マックの方を見た途端、顔が明るくなった。
「あ、マック様!!」
デモとアンリがお互いを見て、同じことを言った。
「マック…様?」
マックが渋い顔をして女の子を見る。そして一言言った。
「エーデル」
エーデルと呼ばれた女の子がマックに抱きついてきた。目に涙を浮かべて。
「会いたかったです。とても会いたかったです!!」
エーデルとは逆に、マックは困った顔をしていた。
デモとアンリは全く展開が読めず、ただ突っ立っていた。
マックの服を涙でぐっしょりと濡らし、泣き止んだのは武道館の中に入ってからだ。
武道館の中には、大人子供合わせて約30人ほどがいた。4人が入ってきたときは、皆一斉にこちらを向いたが、すぐに目を離した。
まだしゃっくりをあげているエーデルを座らせ、その横にマックを座らせた。対面するように、デモとアンリが座る。デモがきりだした。
「えと、その、お2人は、その・・・なんだ。あれですか?」
デモのわけのわからない質問をアンリが代わりに言った。
「つまり、2人はどんな関係なのよ?」
「そう、そう言いたかったんだ。」
マックが横目でエーデルを見る。少し言いづらそうに口を開いた。
「だから、俺らはその、あれなんだよ。」
デモと同じようにわけのわからないことを言っているマックを見て、エーデルがクスッと笑って言った。
「私たち、婚約者なの。」
「え?」
デモとアンリが同じ反応を見せた。
「婚約者って、あれか、フィアンセってやつか?」
「同じ意味でしょ。だからその、婚約者は婚約者よ。」
「何言ってんだおまえ。とりあえず落ち着こうぜ。」
「あんたこそ落ち着きなさいよ。」
デモとアンリが落ち着こうと努力しているのを尻目に、エーデルはマックの腕に抱きついた。マックが渋々言った。
「親が決めたことだ。」
「親が決めたって、いつのはなしだ?」
「俺が12歳のとき。こいつが10歳のときだ。」
デモとアンリが2人を見る。
「12歳といえば、小学校最後の年を謳歌している年齢じゃないか。その年に結婚だって?」
「だから親が決めたことなんだ。」
「年なんて関係ないわ。私たちは相思相愛なんですもの。」
エーデルがマックの肩に顔を置く。マックはあきらめたように動かない。
デモとアンリはお互いを見て、頷き、立ち上がった。
「じゃ、俺らあっちにいるから。」
「積もる話もあるようだし、ごゆっくりどうぞ。」
「あ、おい!!待て!!」
マックが止めようとしたが、2人はそそくさと手を振りながら、武道館の奥に駆けていった。
残されたマックは腕にしがみついてるエーデルを見て、ため息をついた。
歌の部分はかなりパクってますw