第十話
不良騒動から2日目、3人は新たな問題にぶつかっていた。
「おいおい。なんでもうなくなっているんだ?」
デモがカバンの中をみて言った。
「1日3食×3人で計算しなさいよ。あの程度じゃすぐなくなっちゃうでしょ。」
缶詰をあけながらアンリが言う。マックはカバンを担ぎ、立ち上がった。寝転がったデモがマックを見上げる。
「また探さないといけないわけだ。いつまでもここにいることはできない。」
3人がいたのは、町の真ん中にある公園だった。噴水からは水が出ていなかったが、水が溜まっていたので、何かと便利だった。
「だいたいアンタ達、この2日間何やってたの?食料も探しに行かないで。」
「おいおい、それをいうならアンリも同じだろ。」
「なにいうのよ。デモ、アンタなんかこの2日間、ずっと拾った汚いハーモニカ吹いてたじゃないの!!」
「ちゃんと洗ったぜ?汚いって言うな。」
デモがポケットの中に入っているハーモニカを取り出し、見せた。
「それにマック!!2日間ずっと探索してたのいいけど、何も見つからなかったの?」
「見つからなかったんだ。しかたないだろ?」
「俺らばっか責めてないで、お前は何してたんだ?」
デモがアンリに聞き返した。アンリは少しごもったあと、言った。
「アンタには関係ないでしょ。」
デモがにやりと笑う。
「俺知ってるんだぜ?おまえ、こっそり水浴びしてたじゃん。」
アンリの顔が赤くなった。
「な・・・なんで知ってるのよ!!」
「だって見てたもん。」
デモがさらりと言う。
「まさか、マックも?」
アンリがマックを睨みつけた。慌てて手を振りながらマックが言う。
「ちょ、ちょっとまて。俺は見てないぞ。ずっと探索していたんだから。」
アンリがデモの方を向いた。
「どっから見てたのよ。」
「木の上からー。」
「いつから見ていたのよ。」
「お前が最初に水浴びしたときからー。」
「なんで何も言わないのよ!!」
アンリがデモの頭を殴る。頭をさすりながら、デモが言った。
「言ったら今みたいに殴るじゃん・・・。」
「当然。でも言わなかったからもっと殴る。」
アンリが寝転がっているデモの上に座り、頭を叩き続けた。
「それくらいにしておけ。早く他のとこいかないと。」
「それくらいに?こいつ、あたしの裸見たのよ?許せるわけないじゃないの。」
デモが頭を抑えながら言う。
「あれはわざとじゃないんだって・・・」
「わざとじゃなければなによ!!」
アンリがデモの耳を引っ張る。
「痛い痛い!!ごめんアンリ、すいませんでした。」
「バカデモ!!」
アンリはデモの耳のそばで大声でそういうと、立ち上がった。
「おぉ・・・おおぉ・・・。」
解放されたデモが、声をあげる。
「もう済んだか?さっさといくぞ。」
マックがくるりと後ろを向くと、歩き始めた。アンリがデモの脇を蹴りデモを起き上がらせて、マックの後についていった。
「そういや最近虫見なくなったよな。」
歩きながらデモが言った。
「確かにそうだな。あのカマキリが最後だ。」
マックが相槌を打つ。
「いいじゃないの、虫がでなくて。平和でなによりよ。」
「でもなぁ、なんかこう、刺激がないっていうか。」
「あんたそんなに虫に襲われたいの?あたしはごめんだわ。気持ち悪いもの。」
「確かにでかくなったあいつらはキモいな・・・。特にお腹が。」
「わかってるじゃない。小さかったときもキモいのに、大きくなったらもっとキモいわ。」
2人は自分の虫に対する観点を言い合っていた。マックがふと止まり、アンリに言った。
「そういえばお前、ここの近くに住んでいたんだよな?お前の通ってた学校はどこにあるんだ?」
アンリがため息混じりで言う。
「近くには小学校しかなかったの。通ってた高校は他のところにあるわ。」
「どこらへんだ?」
「電車で1時間ぐらいかかったのよ。かなり遠いわ。」
「1時間?そりゃ大変だな。俺らなんてチャリで20分だぜ?」
「あんたたちの高校はどこにあるの?」
「あー。それが、まずここがどこだかわからんから・・・。」
「あんたたちどうやってここにきたのよ?」
「高速道路をチャリで走ってきたからな。途中で壊れたけど。」
「そうだったな、結構爽快だったぜ。」
ふとマックが思い出したように、アンリに聞いた。
「そうだ。アンリ、この近くにでかい建物はないか?小学校以外で。」
「えーっと、武道館があったわ。でもどうして?」
「俺がこの2日間、ずっと探索して思ったんだが、まだ相当数生きてる人がいる。」
「ほんとか?」
「ああ、いろいろと持ち出されていた跡があったからな。」
「あの不良達じゃないの?」
「あいつらじゃないな。量が違う。とりあえず、その武道館に行こう。俺の予想が正しいなら、そこに人がいるはずだ。武道館はどこにあるんだ?」
「あそこ、ほら見えるでしょ?」
アンリが指差した方向を2人は見た。
「・・・どれ?」
「あれよあれ。まるっこい屋根の。」
崩れかかった建物の間から、ほんの少し、丸い屋根が見える。
「あれか。結構遠いな。」
建物を確認すると、マックが歩き出した。デモがまだ遠くを見ている。
「なにしてるのデモ?さっさと行くわよ。」
「ちょっとまって。なんか見えない?」
デモが指差したのは、丸い屋根がある方向とは逆のほうだった。
「え?なにあれ?」
アンリにも見えたようだ。デモがマックを呼んだ。マックも訝しげな顔をして見た。
「こっちにきていないか?」
「この距離であの大きさって、かなりでかくないか?」
「あれ1匹なの?大勢に見えるけど。」
3人はそれぞれ自分が見ているものを言い合った。遠くにいる物体が近づいてきている。
「速くね?」
「逃げるぞ、明らかこっちにきてる。」
マックがそういうと武道館のほうに駆け出した。デモとアンリがその後を追う。デモが一番後ろを走りながら、後ろを見ていた。
「やばい、この速さだと追いつかれるぞ。」
「横にそれるぞ!!」
マックが細い道に入っていった。アンリ、デモとその後に続く。
道は行き止まりだった。デモが顔を出して外を見る。迫ってきていたのは、ハエの大群だった。
「うへぇ、ハエだ。」
「ここ見つからないの?」
「おまえら動くなよ?」
3人は息を殺して、動かなかった。羽の羽ばたき音が頭上を通り過ぎる。しばらくして、音が聞こえなくなった。
「いったの?」
アンリが聞いた。
「ちょっと見てくる。」
デモが顔を出そうとした。マックがそれをとめる。
「もう少し待て。みつかったら元も子も・・・」
マックが言い終わる前に音が聞こえた。なにかが動く音だ。3人は音がしたほうを見た。マンホールが動いていた。その向こうに、人の顔があった。
3人はしばらくその人を見た。その人は視線に気づき、ゆっくりとマンホールを閉めた。
3人はお互いを見る。
「人・・・だったよな?」
「あたしも人に見えた。」
「子供だったな。」
デモがマンホールを開く。下水道から、誰かが走っていく音が聞こえた。
「追おう。生き残った人だ。」
3人はマンホールからはしごを使い降りていった。