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久宝くんの本屋巡り(水属性の魔法使い風)

作者: 久宝 忠

まさかの短編新作です!

2021年3月10日、久宝くんの顔は、希望に満ちていた。


「ククク、ついに、日本全土が、我が足元にひれ伏す日が来た!」

なぜか魔王風なセリフになっているが気にしてはいけない。

そういう人なだけだ。


この日、久宝くん初の書籍が発売されたのだ!


この日のために、夜しか寝ずに頑張った。

この日のために、三食しか食べずに頑張った。

この日のために、毎日腕立て伏せもやったのだ!


全てが報われる日。



もちろん買うわけではなく、並んでいるのを見て満足感を得ようとしていただけ……。



まさに、意気揚々という言葉ぴったりに、久宝くんは最初の本屋に入った。

時間は、午前十時ちょうど。

ほとんど、開店と同時だ。


そして、ラノベスペースに直行する。

何度も通ったお店。

勝手知ったるなんとやら。


そして……。


「ない……」


久宝くんの初書籍は、並んでいなかった。

スマホを取り出して、日付を確認する。

「三月十日……間違いない」


だが、いくら探しても……ないものはない。



久宝くんは、失意のうちに店を後にした。



「まだです! こんな事で、僕の心を折ることなどできないのです!」


二軒目の本屋に向かった。

そこは、一軒目よりも、ラノベスペースが広い。


「ここなら、あるはず! さあ、見せつけるがいい!」


もちろん、心の中で叫んだだけだ。

本屋さんでは静かにしないとね。



「また……ない……」


そう、なかった……。

上にも下にも、右にも左にも……。

置いていない。



「もしや、新刊じゃない場所に……」

もちろん、なかった。


「文庫本と間違った可能性も……」

当然、なかった。


「ここは、コミックと一緒に置いてあるんじゃ……」

そんなわけ、なかった。



久宝くんは絶望に打ちひしがれ、お店を後にした。




とりあえず、お昼ご飯を食べる。



「は、早すぎたのかもしれない」

一つの結論に辿りついた。


そう、朝、早すぎたに違いないのだ。

きっと、午後になれば、並んでいるはず!


「覇業は午後に成る!」




三軒目の本屋さん。

ここは、全国チェーンな本屋で、一年前に建物全体がリニューアルした際に、本屋の隣にストバのコーヒーショップなどが入った、久宝くんちの周りで最も広いお店だ。

優雅にストバを飲みながら、本を読むことができる……都会から非常に離れた場所にあるお店とはとても思えない、とってもお洒落なお店。


「ここならば!」


再び、久宝くんの表情は、希望に満ち溢れたものとなっていた。



リニューアルされてから、初めて来たために、迷う。


ようやく、ついに、ラノベスペースに到達!

新刊も、かなりの数が並べられている!


だが……。


「やっぱり、ない……」


そう、ない……。


そんな馬鹿なことがあるだろうか?

午前中の二店なら、まだ分からないではない。

午前中だったし!


もう午後だ。

午後一時だ。


それなのに?



ここで久宝くんは、ふと思い出した。

お昼、久宝くんの元に、読者の方からメッセージが届いていた。

その方は、三店舗歩いて見つからず……店員さんに聞いたら、「まだ並べてない」と言われたと。


そう!


届いているけど、まだ並べられていない可能性!

それは大いにある!


もう午後一時だけど……それでも、あり得る!



前二店とは違い、久宝くんは打ちひしがれることなく、三店舗目を後にした。


なぜなら、最後、四店舗目には、確信があったからだ。

並んでいるはずだと。



なぜ、それほどの確信があるのか?

「なんと言っても、色紙を書いた店舗ですからね!」


出版社は、協力店舗に対して、作者直筆のサイン入り色紙を送るのだ。

多分、そこには直筆サイン入りの書籍も、一定数……。

協力店舗は、色紙を、本を並べる時にPOPの代わり的に置いたり、壁に飾ったりする。

これから向かう四店舗目は、その協力店舗!


都会から遠く離れた地方で、家のすぐそばに協力店舗があるという幸運、いや強運!

久宝くんは、信じていない神に、深く感謝した。



四店舗目は、三店舗目のすぐ近くにある。

ここは、それこそ、久宝くんが中学生の頃からよく通っていた本屋。

勝手知ったるどころか、目を瞑ってでも一番奥のラノベスペースに……。


足を打った。


ちゃんと目を開けて、ラノベスペースを目指し……到達。


ここは、久宝くんの書籍を出版してくれる出版社のラノベが、たいてい平積みされている。

さすが協力店舗!


すぐに見つか……見つか……見つか……らない……。


「ない……」


ついに、久宝くんは膝から崩れ落ちた。


全ての希望が(つい)えた時、人は、崩れ落ちるものなのだ……。

その瞳から、光るものが零れ落ちる……。


「なぜ……」


その呟きに答える者はいない。



いつでも、自らの問いかけに答え得るのは自らのみ。



「あれ? そう言えば、今日って、僕の本だけじゃなくて、あの人気シリーズも発売日だったよね」

久宝くんと同じ出版社から出ている、五十万部を超える人気シリーズラノベも、今日発売日なのだが、それも並んでいないのだ。


これは、どう考えてもおかしい。

久宝くんの、海のものとも山のものとも知れない、初出版作品が店頭に並ぶのを後回しにされた可能性はあったとしても、あの大人気シリーズを入荷したのにまだ並べていないなどということは……ありえない!



「そういえば……」

さらに、久宝くんは思い出していた。

昔見た、ある光景を。


それは、毎月、本屋に掲示されていたコミックの発売日一覧表。


そこには、必ずこう書き加えられていた。

『東京に比べて2、3日遅れとなります』


「まさか!」


そう、久宝くんは一つの可能性に思い至った。



遅れるのはコミックだけではなくて、ライトノベルもそうなんじゃないかと。



そもそも、生まれてこの方、発売日その日に、本を買おうとしたことなどなかった。

だから、久宝くんが住む地方において、ライトノベルの発売日が、発表された発売日よりも遅れるかどうかなど知らなかったのだ。


もし、そうであるのなら、全ての説明がつく!


「僕は、あやうく、筋違いにも本屋さんを恨むところでした」

久宝くんは涙を拭き、立ち上がった。


そう、誰も悪くなかったのだ!



前を向き、力強い歩みで、本屋を出ようとして、ふと右を向く。


「……あれ?」


違和感を覚えた。

魔法無効化の違和感ではない。


高い位置まで本が並ぶ壁……。


「あそこ、一面にずらりと色紙が飾ってあったはず……」

そう、一カ月前、久宝くんが書店向け色紙の研究のために訪れた時、その壁には、多くの作家先生たちの色紙が飾ってあったのだ。


久宝くんの書籍を出版してもらう出版社だけではなく、かなり多くの出版社の色紙も飾ってあったのだが……それが一枚もなくなっている。


そして、飾ってあった場所まで、新たな本が並べられている。



「なぜ……」


久宝くんは悲しくなった。

いずれは、自分の色紙も、そこに並べてもらえるはず、頑張ろう!

そう思って頑張ったのだが……もう、並べてもらえないという事なのだろうか……。


そして、自分が書いた色紙を思い浮かべる。


「字、あんまり綺麗に書けなかったし、いっか」


いや、待て。


久宝くんの名誉のために言っておくが、筆ペンで書いたから、難しかったのだ。

ラメが入った、ちょ~綺麗なブルーの筆ペン……。

小さい頃、習字習ってたしなんとかなるんじゃと思ったが、なんとかならなかった筆ペン……。

それでも、頑張りはした!



あれから、毎晩、少しずつ練習をしているのは内緒だ!



「本屋さんの本分は、本を売る事。一冊でも多く並べて、お客さんに買ってもらうのがお仕事なんだから……色紙を飾らなくなったのは仕方ないのかもしれない」

久宝くんは、自分の心に、そう折り合いをつけた。



そして、心から思ったのだ。

久宝くんのように、電子書籍でなく、紙の書籍が好きであるのなら、

都会から離れたところであるのなら、やはり予約しておくのがいいのだと。


久宝くんの出版社の予約であれば、出版社が運送会社に早めに預けて、期日指定でお客様の元に届くようにしてくれている。

だから、都会から離れた場所であっても、発売日当日に受け取れるに違いないのだ。



そして、久宝くんは、心に誓った。

「また明日、お仕事を抜け出して、本屋に見にこよう」




※一部、誇張した表現が含まれております。



挿絵(By みてみん)

やっぱり紙の書籍が好きな筆者……。

電子書籍派の方には共感していただけない可能性が大いにありますが。


うん、なんか書いてみたくなったのです。

初めての書籍が書店に並ぶなんて、一生に一度の経験じゃないですか?

その時に起きたことを、ありのまま(?)に、書き残しておこうと!


欲しい本があったら、予約するのが一番! というのが結論です。


お目汚しでした!

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