悪夢に勝利するには
「ただいま。」
ドアを開け、誰もいない部屋に向けて一言。やっと仕事が終わり、会社から徒歩で家に着くまで10分。今の時間は午後8時を回っている。最悪な一日だった。
僕は高校を卒業してすぐ、今の会社へ就職した。
そして最近、なぜか僕の高校時代の同級生ばかりが殺されるという、とても奇妙な事件が起きていた。
おかげで午前は葬式、午後からは午前の分も合わせて仕事をするという、かなり忙しくなっていた。
ここ3か月のことだ。昨日とうとう78人目が死んだ。
残るは僕ともう一人。いじめによって、高校3年になってから登校しなくなったあいつだ。
そしてなんの因果か、さっき覗いた我が家のポストに、あいつからの手紙が入っていた。4か月前に音信普通になっていたと聞いていたが、生きていたようだ。
封筒を開け、中の手紙を出す。そこには以下のようなものが書かれていた。
”やぁどうも親愛なる君。私だ。
さて、突然だけどここで一つ、私の悩みを聞いてほしい。実はここ一年程、ほぼ毎日同じ悪夢を見るんだ。どんな悪夢かっていうと、これがまた最悪でね。その夢の中での私は、イエス・キリストが処刑するときに使われた十字架に磔にされて、私の「友達」と呼ぶべき人たちのお面をかぶった全身黒タイツの何者か達79人(私の学友の人数と同じ。つまり君も含めてだ)に、銃火器で蜂の巣にされ続けるんだ。まるで私の体がミンチ肉のようになるまで。
だけどね、一回だけじゃ終わらないんだ。彼ら(性別がわからないので便宜上彼と呼称する)は、一度私の体がミンチ肉のようになったのを確認した後、どこからともなく新しい「私」の体を持ってきて、また銃撃を始めるんだ。
これが一晩中続く。え?全く意味が分からないって?大丈夫。私も正直よくわからない。でも、夢なんてみんなそんなものだろう?
あともう一つ。痛いんだ。尋常じゃなく。
痛みを感じるんだ。銃撃なんてされたことないからおそらく想像でしかないけど、まるで火箸を全身に何度も何度も押し付けられるような、熱くて、少し鈍い痛みをずっと味わい続けるんだ。
腕が吹き飛んだ。
足が千切れた。
鮮血と共に筋肉、骨の断片が飛び散った。
胸に大穴が開いた。
心臓が胴から飛び出し、実に弱々しく、ぴくぴくと脈打ち続けた。
腹部から臓物がはみ出した。
喉元に風穴があいた。
眉間に大穴が開き、脳が爆ぜ、飛び散った。
頭と胴体が「サヨナラ」した。
「私」構成していた大事な、唯一無二の、この世に二つとない「私」のパーツが、次々に破壊され肉片になっていく。
それが一晩に何度も何度も続く。おかげさまで寝ざめは毎日最悪だ。
朝一番に体を検める。腕は、指は、足は、胴体は、胸は、首は無事か。私は本当に生きているのか確認する。これが毎朝の日課になった。
夢だとはわかっていても、絶対私は無事であると確信していても、欠かすことはできない日課となった。
それが2か月ほど前、とうとう一年の大台に乗った。乗ってしまった。おそらく、これからもこの夢を見続ける限り、変わることのない日常になってしまうのだろう。
この先、人間がみな100年ほど生きるとするならば残り80年ほど、毎日欠かすことのできない習慣になってしまうのだろう。
最近では「誰がどの銃を使って銃撃してきたか」を覚えてしまった。それはそうだ、一年毎日同じ夢を見るんだもの。彼らの名前を明かさなくても、多分君には通じると思うから、「1」から「79」の番号順に挙げていこうと思う。
1番はSIG P220を使っていた。
2番はAKS47を使っていた。
3番はFN-F2000を使っていた。
4番はM16A1を使っていた。
5番はベレッタM92Fを使っていた。
6番はコルトM1911を使っていた。
7番はFN-FNCを使っていた。
8番はM60を使っていた。
9番はGalilを使っていた。
10番はSIG 552を使っていた。
11番はレミントンM870を使っていた。
12番はHk MP5A5を使っていた。
13番はAK74を使っていた。
14番はSCAR-Hを使っていた。
15番はAN94を使っていた。
16番は三八式歩兵銃を使っていた。
17番はニューナンブM60を使っていた。
18番はMG4を使っていた。
19番はGlock 18Cを使っていた。
20番はワルサーP38を使っていた。
21番はレミントンM700を使っていた。
22番はPython.357を使っていた。
23番はモスバーグM590を使っていた。
24番はS&W M29を使っていた。
25番は二十六年式拳銃を使っていた。
26番はデザートイーグルを使っていた。
27番はM40A5を使っていた。
28番はM4A1を使っていた。
29番はM249を使っていた。
30番は64式小銃を使っていた。
31番はUZIを使っていた。
32番はKar98Kを使っていた。
33番はMP7A1を使っていた。
34番はMk.18を使っていた。
35番はFR-F2を使っていた。
36番はAEK971を使っていた。
37番はモーゼルC96を使っていた。
38番はS&W M500を使っていた。
39番はバレットM82A1を使っていた。
40番はラインメタルFG42を使っていた。
41番はワルサーWA2000を使っていた。
42番はキャリコM950を使っていた。
43番はUMP45を使っていた。
44番はスプリングフィールドM1903を使っていた。
45番はHK33を使っていた。
46番はFN-FALを使っていた。
47番はM16A4を使っていた。
48番はMP38/40を使っていた。
49番はP90を使っていた。
50番はMagpul Masadaを使っていた。
51番はモシン・ナガンを使っていた。
52番はM134を使っていた。
53番はG36Cを使っていた。
54番はステアーAUG A3を使っていた。
55番は89式小銃を使っていた。
56番はC7Eを使っていた。
57番はPx4を使っていた。
58番はARX160を使っていた。
59番はMAC11を使っていた。
60番はHK416を使っていた。
61番はウルティマラティオ へカートⅡを使っていた。
62番はウィンチェスターM1912を使っていた。
63番はKAC SR47を使っていた。
64番はBizon PP19を使っていた。
67番はM14を使っていた。
68番はブローニング・ハイパワーを使っていた。
69番はCz805を使っていた。
70番はHK417を使っていた。
71番はK1A1を使っていた。
72番は56式自動歩槍を使っていた。
73番はSKSを使っていた。
74番はSCAR-Lを使っていた。
75番はチェイ・タックM200を使っていた。
76番はStG44を使っていた。
77番はL85を使っていた。
78番はRPKを使っていた。
79番、つまり君は、SA58を使っていた。
皆それぞれ、個性的な銃をてんでばらばらに使っていた。
そしてそれらを使って、私をとことん殺す。殺しつくす。肉の一片、骨のひとかけらさえ残さぬように気をつけながら、余すところなく殺しにかかってくるんだ。
すごく怖いし、私はすごく痛い。何度許しを乞いたって、何度泣き叫んだって、彼らは問答無用だった。
何も言わずに私を殺す。マシーンのように思えた。けれども、私は運んでこられるたびに、人の温かさ―つまり彼らの体温を感じた。実に心地の良い温度だった。
そこで私は思ったんだ。どうにかしてこの悪夢を克服したい、この夢に勝ちたい、と。
彼らから体温を感じられるということは、すなわち彼らも「生きている」ということだ。たとえ夢の中だとしても、ね。勝機は必ずどこかにあると。
でもね、夢の中で何度も何度も挑んだところで意味はなかった。
そこで私は閃いた。閃いてしまったんだ。
「夢の中で勝てないのであれば、現実で勝負すればいいじゃないか」と。
君と、そして私の友達と呼ぶべき人たちが最近次々と死んでいるだろう?本当に、大変心を痛めている。残されたのはとうとう君と私だけになってしまった。
けれども、実はあれはね、
私 が や っ た の だ よ。
1番から順に、78番まで殺した。こうして順に手紙を出してね。
効果は覿面だった。夢の中で私を殺す彼らも、とうとう最後の一人だ。
やっとあの悪夢から解き放たれる!!そう考えただけで絶頂ものだよ、君。
これは私の復讐だ。悪夢と、そして君たちに対する復讐だよ。
それでは最後に、私のために死んでくれ。
もう私はすぐそこにいる。
では、ごきげんよう!”
気味が悪くなった。こんなものでたらめだ、と思った。
だが心のどこかでは、これが真実だろうと確信していた。
そして振り向けばやっぱり、
あ い つ が い た。
END




