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003

「ところで、もう日が暮れるが、宿屋は決めなくて良いのか?」


 ブラスマイヤーが聞いて来る。


「宿屋か、そうだな、何時までもこんな所で話をしていてもしょうがない。落ち着いた所でゆっくり話を聞かないとな。で、宿屋って何処にあるんだ?って言うか、食事まだなんだけど?」


「食事は宿屋で食える。この世界の常識も覚えないといかんな。宿屋はここだ。」


 そう言うとエイジの頭の中に地図と矢印が現れる。何気に便利な機能だな。矢印の方向へ向かって歩いて行く。


 冒険者ギルドの並び500メートル程先に宿屋はあった。『灼熱の竈亭』と書いてある。どう言うネーミングセンスなんだろう?


 中に入ると若いと言うか幼い女の子が迎えてくれた。


「いらっしゃいませ。食事ですか?泊りですか?」


「とりあえず1泊食事付きで頼む。」


「食事付きだと銀貨1枚と大銅貨2枚だよ。」


 エイジはポケットから小袋を出し、銀貨1枚と大銅貨2枚を渡す。


「名前は?」


「エイジだ。」


 そう言うと宿帳を書いてくれた。文字の書けない泊り客も多いのかな?


「食事はすぐ出来るか?」


「大丈夫だよ。空いてる席に座って待ってて。」


 そう言われたので左手にある食堂を見渡し、空いている席を探す。カウンターが空いていたのでそこに座った。


 席に座ると宿の女将らしき女性が食事を出してくれる。肉料理と炒め物それにパンと飲み物だ。この世界でもフォークとナイフを使うらしい。ナイフで切り分け肉料理を食べるとハーブが効いていてなかなか美味い。しかし、何の肉だろう?牛や豚では無さそうだ。聞くのは止めて置こう。炒め物はこちらの世界の野菜だろうか、シャキシャキとしていて歯ごたえが面白い。パンはちょっと固めだが麦の香りが強くなかなか食べ応えがある。これなら十分お腹いっぱいになるだろう。飲み物はフルーティーな香りがするビールの様な物だ。多分エールと言う奴だろう。不味くは無いが温いのが欠点だ。


 食事を終えると、美味かったと声を掛けてから、受付カウンターの所へ行く。先程の女の子がカギを渡してくれる。一番奥の右の部屋だよ。と後ろから声が掛かった。手を上げて了解の合図を出す。


 部屋に入ると鍵を掛けてからベッドに横になる。寝る訳では無いが、疲れたのでこうしている。


「そう言えば、この世界には風呂は無いのか?」


 ブラスマイヤーに問いかける。


「ある事はあるが、普及はしていないな。基本庶民は入らない。」


「じゃあ、汚れたらどうするんだ?」


「さっきのギルドカードのスキルに生活魔法ってあっただろう?」


「ああ、そんな物があったな。」


「指先に魔力を集中して『クリーン』と唱えてみろ。」


 ん?こうかな?『クリーン』。そう唱えると体がほぐれて風呂上がりの様な感覚になる。


「なんだこれ?」


「生活魔法と言うのは名前こそ魔法だが、実はスキルだ。このスキルは生活に必要な魔法3つで構成されている。クリーン、着火、ライトの3つだ。クリーンは今体験した通り体や物を綺麗にする魔法だ。トイレの後にも使う。着火は薪に火をつける事が出来る。ライトは短時間灯りをともせる。」


「ほう?便利だな。誰でも使えるのか?」


「普通6歳までに覚えると言われている。早い子は3~4歳で使える。レベル1で覚えるスキルの1つだな。」


「話は変わるが、こうして話をしているが、会話以外の意思疎通方法は無いのか?外でやったら変人扱いだぞ。」


「無い訳では無いが、今のお前では無理だな。」


 無いのかよ。つーか、何か方法を考えないといけないな。


「じゃあ、もう一つ、僕は何で死んだんだ?」


「ん?覚えていないのか?」


「あー、夜中にチャリでコンビニに向かった所までは覚えている、そこから先の記憶が無い。」


「チャリ?コンビニ?良く解らんが。お前の世界の出来事を俺が知っている分けないだろう?」


 よく考えてみたらこれって異世界転生って奴だよな?最近流行ってるって聞くが詳しくは知らない。中学生の頃RPGは遊んだことがあるが、あの世界に入り込んだ感じかな?最近はバイトが忙しくてアニメもゲームも遠ざかってたからなぁ。


「解った。とにかく金が必要だ。冒険者として稼げるようになりたい。どうすれば良い?」


「金を稼ぐのはそう難しい事では無いな。実践で教えてやろう。」


「助かる。じゃあ今日は寝る。」




 翌朝7時に起こされた。例の女の子だ。食事の時間が7時から9時までなので早めに降りて来いと言われた。


「朝7時って夜中じゃん。」


「どんな生活をしてたんだ?」


 ブラスマイヤーに突っ込まれた。


 下に降りると食堂が賑わっている。冒険者などは早めに食事を取ってギルドの依頼掲示板を見に行くらしい。また、ここは宿屋だけでなく食堂もやっているので、近所の職人なども食事に訪れる。


 昨日と同じ席が空いていたので座る。女将さんが顔をちらりと見て食事を出してくれる。泊り客の顔は覚えているらしい。今日のメニューは卵と何かの野菜の炒め物とサラダとパン、そして何かのジュースだ。


 恐る恐る食べてみるが、意外に食える。と言うか美味い。この世界に醤油や味噌は無い様だが、それに代わる調味料があるのだろうか?不思議な味だが懐かしさを感じる味だ。最近はコンビニの弁当や外食ばかりしていたので、温かみを感じるここの食事が美味く感じるのだろうか?


 食事が終わったら一旦部屋へ戻る。荷物は無いが、ブラスマイヤーと相談する為だ。


「次はどうしたら良い?」


「次は装備だな。装備無しで冒険者は務まらない。ストレージからショートソードと皮鎧を選択して装備しろ。取り出す必要は無い。装備出来ない物は出て来ないから色々試してみると良い。」


 ストレージを唱えると装備と言う項目がある。それを選択すると現在装備できる物がリストアップされる。とりあえず、ショートソード+1と言う奴と皮鎧+2と言うのを選択してみる。すると、自動的に装備された。


「便利だな。着替える必要が無いのは助かる。正直鎧なんて着た事無いからな。」


「次は冒険者ギルドへ行き。『常時依頼』と言うのを引き受けろ。内容は何でも良い。」


「常時依頼ね。解った。」


 1階に降りて受付の女の子に、もう一泊頼むと言って金を渡す。女の子の顔が二パッと言う感じで笑顔になる。


 冒険者ギルドに着くと掲示板に人だかりが出来ている。それを素通りして受付の列に並ぶ。


 5分程で順番が回って来る。どうやら受付嬢によって人気の差があるらしく列が長い所と短い所がある。エイジは1番短い列に並んだ。


「Gランクで受けられる常時依頼ってあるか?」


「Gランクだと薬草の採取くらいですが、よろしいですか?」


「構わない。」


 そう言うと受付嬢は1枚の紙をくれた。ポーションの材料の薬草の採取らしい。常時依頼には達成できない時のペナルティが無いらしい。更にどれだけ大量に採取しても買い取ると言う保証もあるらしい。


「正直こう言う地味な依頼は受けてくれる人が少ないんですよね。」


 受付嬢がぼやいている。エイジは礼を言ってその場を後にする。


「依頼を受けたぞ。依頼には南の平原に行けと書かれている。」


「では、まず南門を出よう。話はその後だ。」


 領都には東西南北4つの門がある。全ての門が何処かの町へと続いている訳では無い。南には町が無い、なので南門を利用する者は少ない。


 無事南門を出て少し歩くと平原がある。ここまで来ると人は殆ど居ない。


「で、これからどうすれば良い?」


「依頼の薬草だが、それは無視して良い。平原を抜けて森へ入れ。」


「森へ入ってどうするんだ?」


「魔物を狩るに決まってるだろう?」


「いきなり魔物と戦えと?」


「お前のステータスなら問題無い。で、薬草を取りに行ったら魔物に襲われたと言ってその魔物の素材を買い取って貰え。」


 何その適当な計画。しかもブラスマイヤーさんは戦闘では役に立たないって言ってませんでした?


「心配するな。最初は弱い魔物に誘導してやる。慣れて来たら少しずつ強い魔物に挑戦すればよい。」


 心配するなって安心できる要素ゼロなんですけど?



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