022
朝食を食べてから、ミスリル鉱山へ転移する。ブラスマイヤーが送って来たイメージは森の中の様だ。
「ここにミスリルがあるのか?」
あたりを見回すが木ばかりで何もない。
「ああ、ここの地下にある。ちなみにここはさっきまで居た王国から少し離れた場所にある島だ。だから、幾らミスリルを掘ろうが文句を言う奴は居ないぞ。」
「ほう?それは助かるな。さすがブラスマイヤー。で、どの位掘れば出るんだ?」
「10メートルは無いだろう。」
「えっと、土を掘る魔法って言うと土魔法で良いのか?」
「そうだ、ピットフォールとかで掘ればすぐだろう。」
ピットフォールって落とし穴じゃないのか?
落とし穴を掘る魔法って?どう言うイメージだ?良く解らないのでショベルカーをイメージして掘ってみる。大きなショベルカーだ。
大地に大きな穴が開いて行く。5,6メートル掘った所で岩盤にぶつかった。かなり固い。
困ったぞ、岩盤をぶち抜く魔法って何だ??
ダイナマイトかな?そのイメージで魔法を使ったら地下から大量の土砂が吹き上がった。
「お前は何をやってるんだ?ピットフォールのイメージだと言ったろう?」
「ピットフォールのイメージが判らないから困ってるんだよ。」
「土の中から不要な部分を転移で飛ばす様なイメージだ。」
そんな事を言われてもね。って言うかもうかなり掘れてるんじゃね?
「これ、あとどの位だ?」
「お前もサーチの魔法使えるだろう。ミスリルは魔法銀だからサーチで簡単に判るぞ。」
なるほど、そうなのね?ってもうミスリルまで辿り着いてるじゃん。穴の中にフライでゆっくり降りてみる。
手で、土を避けると鉱石が顔を出す。青白い光。間違いないミスリルだ。
「おお、あった。この間の魔鉱石みたいに採取して行けばよいの?」
「それでも構わんが、手を触れてストレージに入れてみろ、この量なら入るかもしれん。」
ん?この量ならって量が判るの?まあ、いいや、ストレージに入れ!って入ったよ。入ったは良いがそこにあった物が無くなる訳だから当然、落下するよな。転移しなきゃと思った時には遅く、穴の底に叩きつけられた。
「痛っ!」
あれ?前に空から落ちた時より痛いぞ。無事だけど。
「そう言う時はフライを使いながらストレージに入れる物だ。」
言うのが遅いよ、とぼやきながらフライで地上を目指す。
地上に出るとかなり大きな穴が開いている。
「これって元に戻した方が良くない?」
「ここに来る人間などこの先1000年は居ないだろう、それでも埋めるか?」
そう言われるとなんか馬鹿らしくなってくるな。
「む?ちょっと待て、何か居るぞ。」
「魔物か?」
「もっと弱い波動だ、だが小動物ではないな。」
「どっちだ?」
頭の中に矢印が浮かぶ。右か?ゆっくりとサーチを掛けながら近づく。
5メートル程歩くと僕のサーチにも引っ掛かった。大きさから行くとゴブリン?
さらに進むとそれが見えて来た。人間?子供か?
「ここって無人島じゃ無いのか?」
「そのはずだ、この世界の航行技術では他の島に渡る事などできぬ。」
更に近づくが、相手は身動き一つしない。よく見ると女の子だ。幼女と言っても良いだろう。幼女がこんな森の中で一人なんて不自然過ぎる。
もう、5メートルを切っている、幼女の格好はボロボロの布1枚だ。服では無く布を巻いているだけ。足も素足だし、どうやら怪我をしている様だ。
近づいて回復魔法を掛けようとすると、ブラスマイヤーが止めた。
「まて、そ奴人間では無いぞ。」
「え?亜人とかって事?」
「いや、おそらくはドラゴンだな。人間に変化できるとは、かなりの高位のドラゴンだな。」
また、ドラゴンですか?たまには違うの出て来て下さいよ~
「そうは言っても怪我してるし。放っておけないでしょ?」
そう言って回復魔法を掛ける。念のためにハイヒールにして置いた。
「助かった。ヒドラとやりあったのだが、倒したが良いがこちらも深手を負ってしまった。消耗を最小限に抑える為この体で休んでいた。まさか、人が来るとは思わなかったよ。」
「それで君の正体は?」
「暗黒竜ルシル」
「ブラスマイヤー、暗黒竜ってどういう存在?」
「暗黒竜とは黒龍の上位種だな。存在としては精霊に近い。」
「悪い奴では無いんだね?」
「まあ、こんな所に住んでいるのだから人を襲うドラゴンでは無いだろう。」
急に会話を始めた僕たちを見て、ルシルが吃驚している。
「2人居るのか?」
「まあ、そうだ。説明するのは面倒だから今度にしてくれ。」
「まあ、こんな所に来るくらいだから変わった人間だとは思ったが、想像以上だな。で、我をどうする?今なら殺す事も隷属する事も出来るぞ。」
「いや、どうもしないぞ。帰れるなら帰って良いぞ。」
「すまんが、体力の消耗が激し過ぎて自力で動けんのだ。」
「さっき、回復魔法かけただろう?」
「傷は塞がったが、魔力機関に傷を負った様だ。回復までに時間がかかる。」
「魔力機関ってなんだ?」
「ドラゴンは他の生物と違い魔力機関で生命を維持している。その為他の生物よりも寿命が長いのだ。」
ブラスマイヤーの説明によると、初めはドラゴンも普通の生物の様に心臓から流れる血液で生命を維持しているが、彼女の様に精霊にまで至ったドラゴンは魔石を核とした魔力機関が心臓の役割をするのだそうだ。
「で、どの位でその魔力機関は完治するんだ?」
「まあ、20年もあれば治るだろう。」
「おいおい、なんか手早く治す方法無いのか?」
「無いな。」
「じゃあ、放って置いたら、その辺の魔物にやられて死んじゃうとか?」
「そこまで弱くは無いぞ。体力さえ回復すれば普通のドラゴン程度の力なら出せる。」
「ちなみに体力を回復する手段は?」
「人間と変わらんよ。食事を食べて一晩ぐっすり眠れば体力は回復する。」
「ちなみに服は持って無いのか?」
「人間になるのは今回が初めてだ。」
ストレージを探って、幼女が着られそうな物を探す。何故か、子供用の平服が入っていたので取り出す。男児用だが仕方ないだろう。
「これを着てくれ。」
そう言うと幼女はボロ布をはらりと地面に落とし、着替え始める。おいおい、羞恥心とか無いんだろうな。
着替えが終わるとなんか違和感が半端ない、何と言うか王女様が庶民の服を着た様だ。顔が整い過ぎているんだろうな。
「これから飯を食わせてやる。頼むから暴れるなよ。」
「解っている。お主に迷惑は掛けん。」
転移で王都へ飛ぶ。行った事が無い食堂が良いだろう。適当に探して食堂へ入る。
「いらっしゃいませ。2名様ですか?」
「ああ、今日のおすすめはなんだ?」
「今日はブラックバッファローのステーキですね。」
「じゃあ、とりあえずそれを2人前とエールを1杯くれ。」
相手はドラゴンだからな、ステーキ1枚じゃ足りないよな?
食事が運ばれてくるとルシルが美味そうに食らい付いている。僕も食べてみるがなかなか美味しい。ボリュームも結構ある。
「どうだ?足りるか?」
「済まんが、もう一皿欲しい。」
「解った。」
追加でステーキをもう一皿頼んで、僕はエールを貰う。
これ以上この場で幼女がステーキを食いまくるのは流石におかしいだろうと考えて、テイクアウトでステーキを5人前頼んだ。
「ふぅ、お腹いっぱいじゃ。助かったぞ。」
あれ?ここは大食いキャラ登場の場面じゃ無いの?
「結構少食なんだな。」
「そうか?基本ドラゴンは魔素で生きているからな。食事はこんなものだぞ。」
家計に優しいドラゴンってどうよ?
「じゃあ、次は家に行くぞ。一晩寝れば回復するんだろ?」
「うむ。世話になるな。」
テイクアウトのステーキをストレージに入れて。店を出ると、周りの人通りを確認してから、屋敷に転移する。
屋敷に入ると執事のルーメンさんがすぐに現れる。料理人がやっと揃ったので明日の朝から食事が家で摂れるとの事。メイドがまだ、半分程足りない事などを報告してくれる。
メイドを一人呼んで、この子を風呂に入れてくれと頼む。ルシルが風呂に連れていかれる。
「済まないが、あの子が着れる服を一通り揃えてくれないか?」
「畏まりました。」
ルーメンがメイドに何か指示している。
俺は自室に戻り、ブラスマイヤーと話をする。
「さて、またドラゴンで人生が変わりそうだぞ。」
「お前も物好きだな。しかし、あの子は拾い物かもしれんぞ。」
「ん?どう言う事だ?」
「Sランク冒険者との戦いで落胆したのだろう?あの子と模擬戦をしたら、お主では勝てんぞ。」
「魔力機関が壊れてるんだろう?模擬戦とかして大丈夫なのか?」
「精霊化したドラゴンはそんなに軟では無いぞ。」
あれ?連れて来たの不味かった?




