020
家に帰り装備を外してベッドに寝転がった。思いっきり自己嫌悪だ。やらかしちまった。シスターに八つ当たりって最低だ。
「おい、どうした?ドラゴンを倒したのに倒す前より元気が無いじゃ無いか?」
「教会に頭に来てたのでつい、女の子に八つ当たりしてしまって落ち込んでる最中だ。」
「だから関わるなと言ったろう?」
「こうなったら、僕が新しい宗教を立ち上げるってのはどうだ?」
「それはやめておけ。宗教ってのはどんな崇高な理念を持っていても組織が大きくなるにしたがって腐敗する物だ。」
「そういう物なのか?」
「それにな、良くも悪くも現状の2つの勢力でバランスが取れている。そこに3つ目の勢力が現れれば争いの種になる。」
「なるほど。」
なんか徐々に冷静になってきた。
「バランスは取れているって言うけど、どちらも腐敗してるんだろう?」
「ああ、腐敗してるな。だが、こう言う場合は外からではなく内部から修正しなければ意味が無いのだ。」
「内部からねぇ。そう言う者が現れるのか?」
「極稀にな。」
「期待は出来ないか。」
「だから関わるなと言って居る。」
「僕は貴族になったから、向こうから来るんじゃないかな?それでも関わるなと?」
「そこはお主の知恵次第だな。」
「こう、神の威光みたいな物とか出せないの?」
「今のお主では無理だな。」
「なんか、ドラゴン退治したのに、理不尽さしか残らないぞ。」
「そうだ、ドラゴンを退治したのなら解体してみろ。」
「解体?」
「ああ、ドラゴンの解体は楽しいぞ。嫌な事も忘れられる。」
ストレージを開き、ドラゴンの解体を始める。ドラゴンは捨てる所が無いって良く聞くけど、実際はどうなんだ?
ドラゴンの表示が消えて、素材の表示がどんどん増えて行く。
ほう?血液が万能薬になるのか?目玉も?肝臓はエリクサーの素材?この世界エリクサーってあるの?骨や牙、爪なんかは武器になるんだな。鱗は防具か、皮も使えるんだな。
「確かに捨てる所が無いな。」
「だろう?特に肉がお勧めだ、美味いぞ。」
「え?ドラゴン美味いの?」
「俺が冒険者だった頃はドラゴンは肉の為に狩っていたな。」
「その他の素材は売っていたのか?何が高く売れるんだ?」
「そうだな、このサイズのドラゴンなら鱗が高値が付くな。後は牙や爪が高いかな。」
「この、ドラゴンの血液×40000ってなんだ?」
「血液は50CCで1本になる。それが40000本あると言う事だ。」
「なるほど、50CCで万能薬として効果があるんだな。1本幾ら位だ?」
「金貨1枚位じゃ無いかな。」
「マジか?血液だけで金貨4万枚とか凄いなドラゴン。」
「丸ごと一匹売れば白金貨70枚位にはなるだろうが、こうして解体して売ると白金貨100枚以上になるぞ。ただ、売り先を持って無いと面倒だがな。」
「内臓とかも売れるのか?」
「ああ、内臓も貴重な薬の材料になったり、食料になったりするぞ。」
「ほう?内臓も食えるのか?美味いのか?」
「処理の仕方で美味くなるぞ。だが、おすすめは断然肉だ。」
肉は食いたいが、今、この屋敷には料理人が居ないぞ。どこかで調理して貰えるかな?
「肉は普通に焼けば良いの?ドラゴンの料理をした事がある料理人なんてそうはいないだろう?」
「普通に焼くだけで美味いぞ。腕は関係ないな。」
じゃあ、止まり木亭にでも行っておっちゃんに料理して貰うか。
そんな事を考えているとストレージが停止した。解体が終わった様だ。
「なあ、胆のうとか、歯とかも素材なのか?」
「ああ、胆のうからは若返りの秘薬が作れると言われている。歯は削って装飾品にしたり、腕輪を作ったりするな。属性竜の場合。その属性の防御効果がある。」
若返りの秘薬とかあるんだな。そう言うのを聞くと異世界に来たって実感するな。ってドラゴンが居る時点で色々とおかしいけどね。
まあ良い、気分転換になったし、飯を食いに行くか。
今日は転移で止まり木亭に行ってみる。上手くいった!指輪の効果かな?
中へ入るとそれなりに客は居るが混んでいると言う程では無い。混むのはこれからだろう。カウンター席に座り、料理人の店主を呼んで貰う。
ドラゴンの肉を10キロ程どんと出して、交渉だ。
「これでステーキを作って貰えませんか?僕の分は250グラムもあれば十分です。残りは差し上げますので、どうでしょう?」
「こいつは、見た事の無い肉だな。ワイバーンに似てるが、もしかして。」
「はい、ドラゴンです。」
「やっぱりか、ドラゴンを扱うのは初めてだが、良いのか?売ればかなりの金になるぞ?」
「一杯あるので問題無いです。家族で食べても良いし、売り物にしても良いですよ。」
「解った。飛び切り美味いステーキを焼いてやる。」
結論から言うとドラゴンは美味かった。塩とガーリックのみと言う味付けだったが、何と言うか次元の違う味だった。黒毛和牛とかA5ランクとかそう言うのとは桁が違う。何せ食ってから家に帰ってくるまでの記憶が無い。
「友達が居れば一緒に食って、この味を共有できるのになぁ。ボッチは辛いぜ。」
そう言えば前世でも友達少なかったしなぁ。コミュ障とまでは行かないが。彼女も居なかったし、女の子と喋るのはバイトの同僚位だったな。
なんだ?ドラゴンの肉を食べたら彼女が欲しくなって来た?
「ブラスマイヤー。この世界ってハーレムあるの?」
「ハーレム?良く解らんが、この国は一夫多妻制だぞ。」
おお一夫多妻制なのか?スローライフ止めてハーレムに計画を変更するか?
いやいや、スローライフなハーレムだってあるはずだ。
「お主何と葛藤しておるのだ?」
「いや、普通さ、貴族とかって見合いがどうのとか、許嫁がどうのとかって話が出ないか?」
「そもそも、お主が貴族だって知ってる物が少ないのでは無いか?」
そう、それだよ!なんで僕は貴族なのに、誰も知らないの?
「って言うか、僕が知ってる貴族って王様と公爵と宰相だけだぞ。」
「下級貴族なんて、何か事を起こさないと誰も相手にして貰えんのでは無いか?」
「それは、商売でも始めて、他の貴族とパイプを持つって事か?」
「それも一つのアイデアだな。後は貴族の集まりそうな場所に出向いてみるとかはどうだ?」
貴族の集まりそうな場所?パーティーとか結婚式とか?招待状来ないけど?
「公爵家の令嬢に相談してみてはどうだ?」
「いや、無理!」
相手は上級貴族だぞ。話をする切欠さえ無いわ。
「ドラゴンの肉を贈ったらどうだ?」
むむ?それは案外、いや、行けるか?いやいや、下手な行動をすればあの公爵の事だから強制的に結婚させられそうだ。
「なんかさぁ。王様と公爵と宰相が何か企んでる気がするんだよね。」
「確かにお主を公の場所から遠ざけている気はするな。真意は判らんが。」
「でしょ?勝手に動いたら不味いんじゃないかな?」
「では、どうする?このまま奴らの掌で踊るのか?」
それも面白く無いんだよね。
「冒険者ギルドでSランクの試験を受けるのはどうかな?エイジ・フォン・ゼルマキア子爵の名前で。」
「お主、ギルドには『エイジ』で登録しているだろう?Sランクになっても名前は変わらんぞ。」
あら?駄目なの?
「しかし、Sランクになるのは悪く無いかもしれない。今度のSランクは子爵らしいぞと噂を流せばよい。」
「なるほど、噂ね。よし、明日Sランク試験に挑戦する手続きをして来る。」
翌日冒険者ギルドへ行き、窓口でSランクの昇級試験を受けたいと話をする。
「えっと。Sランクの試験は他の試験と違って定期的には行って居ません。」
「ん?じゃあ、どうするの?」
「申請があればその時その時で対応します。申請なさいますか?」
「お願いします。」
「解りました。ではギルドカードを提出して下さい。」
受付嬢に言われるままにカードを出す。謎の石板を通して何かの処理をした様だ。
「申請は受け付けました。この後ギルドマスターの面接がありますので、少々お待ち下さい。」
ん?面接があんの?
暫く待つとサブギルマスのホークさんが来た。頭を下げると。久しぶりだねと声を掛けてくれた。ギルドマスターの部屋へと案内してくれる。
ギルドマスターのビクセンさんだったかな?が椅子に座って待っていた。
「まあ、座りな。オークションはまだ先だぞ。今日は何の用だ?」
「えっと、Sランクの試験を受けたくて来ました。」
「ああ、ドラゴンを退治する位だから、Sランクになりたいわな。」
「なんか、面接があるとか?」
「あるけど、知らない間じゃ無いしな。そう言えば爵位は貰えたか?」
「お陰様で、爵位と家名を頂きました。」
「そうか。実はギルドのマスターってのも爵位持ちなんだぜ。これでも一応男爵だ。」
おお、貴族の知り合い居たじゃん。
「で、Sランクの試験って何をするんですか?」
「Sランクの先輩冒険者と模擬戦をして貰う。まあ、模擬戦自体はあまり評価とは関係ない。問題はそれ以前の面接になる。つまり、ここで今、こうして話をしてる時点で合否は大抵決まっているのさ。」
「それって話して大丈夫な内容なんですか?」
「普通は駄目だな。だが、おまえさんは実績もあるし、貴族だ。まず落ちる事は無い。」
「って事はSランク冒険者って貴族が多いんですか?」
「いや、そんな事は無いぞ。ただ、時々地位を利用して試験を受ける貴族が居るのは事実だ。そう言う時は模擬戦でボコボコにして落とすがな。」
「あれ?じゃあ、僕の場合は?」
「模擬戦では手を抜いてくれって言うお願いだ。Sランク冒険者のプライドを傷つけない程度で構わない。」
「解りました。日程は?」
「決まったら連絡するよ。連絡場所を教えて置いてくれ。」




