019
そう言えばこの世界の宗教ってどんな感じなんだろう?なんか病院が無くて教会が病院代わりらしいが、教会があるって事は、宗教があるって事だよな?
「ブラスマイヤー。この世界の宗教って、やっぱり神様を祀っているの?」
「基本は神だが、我らを崇めてる訳では無いぞ。人間が作った架空の神だな。」
「あれ?なんで神様たちは知られてないの?天啓とか聖剣投げたりしたんでしょ?」
「いや、俺は天啓とか出した記憶が無いな。確か最初の文明崩壊の時に原初の神が天啓を出したはずだが、それ以降は誰も天啓を与えて無いな。」
「原初の神?」
「この世界の誕生と共に生まれた3人の神の事だ。それ以外の神は人間から神に至った者になる。」
「そう言えば神様って基本見てるだけって言ってたもんな。って事はこの世界の宗教ってどうなってるの?」
「この世界には2つの宗教がある。正教と新教だ。どちらも創造神を祀っているが、創造神と言う神は居ない。あえて言うなら全員が創造神だな。」
「じゃあ、この世界の宗教って実体のない神様を祀っているの?」
「そうなるな。」
あら?なんか急に教会が怪しくなって来たぞ。神の力で人を治癒したりするのが教会だと思って居たのだが違うらしい。
「もしかして、正教と新教って派閥争いとかしてるのか?」
「その通りだ。貴族と一緒だな。」
「じゃあ、正教と新教の違いって何?」
「大司教の名前だな。」
ブラスマイヤーさん容赦ないね。まあ自分を騙られている様なもんだから実質被害者になるのかな?
「ところで教会って何をする所なの?」
「6歳の洗礼が1つ、15歳の成人の儀式が1つ、あとは病院の代わりがメインかな。」
「それで、儲かるのか?」
「貴族は子供の儀式の時に大金をお布施として納める。更に、教会は貧しい人の為に炊き出しを行ったり孤児の保護をしたりする。それに対し、貴族は寄付をする義務がある。」
「それって、実質貴族に寄生してるって事では?」
「まあ、そうだな。実際、同じ治療を受けても庶民と貴族では治療代が違うらしいぞ。」
ああ、これは駄目な奴だ。教会とは関わらないのが吉だな。
いや、待て、孤児の保護をしていると言ってたな。確か孤児院と言うのが別にあるはずだが?
「なあ、孤児院ってあるよな?それなのに教会が孤児の保護をするのか?」
「ああ、孤児の保護は教会の仕事だ、保護された後、孤児院へ送られる。孤児院は独自で孤児を受け入れたり放り出したりは出来ないんだ。」
「それってさ、間に人身売買が絡んでるんじゃないの?」
「ほう?良く解ったな。女児はシスターとして育てられ。貴族に売られたりするのが教会の収入源の1つになっている。」
なんだろう無性に腹が立つぞ。暴れたい気分だが、そうもいかないよね?
「ブラスマイヤーは神の名の元にそう言う事が行われていても何も思わないの?」
「愚かだとは思うが、特に何かをしようとは思わんな。」
「ちなみに天罰ってあるの?」
「いや、そのような物は無い。基本神は人の罪も罰も関知しない。」
「もしかして、結婚式や葬式も教会の管轄?」
「ああ、そうなるな。」
「それって、死んだ人成仏できないね。」
「成仏ってなんだ?」
ああ、そう言う概念が無いのね。なんかしてやりたいが、シスターが悪い訳じゃ無いしな。司祭とか簡単に会えないだろうし。
王様なら何とか出来るのかな?でも、いきなり教会が無くなったら皆困るよな。こう言うのを必要悪って言うのかな?
ああ、なんかむしゃくしゃするな。狩りにでも出るかな?
「ブラスマイヤー。ドラゴン狩るぞ!」
「何だいきなり?」
「いや、教会の事を聞いたらむしゃくしゃするので思いっきり暴れたい。」
「それで、ドラゴンか?ドラゴンも災難だな。」
「どこかで暴れてるドラゴンとか居ないのか?」
「そんな都合の良い奴が、居たぞ。」
「お?居るのか?」
頭の中に地図とイメージが入って来る。イメージが鮮明になった所で転移発動。
山と村の中間に出た。って、村がもう既に半壊してるし、村と言っても家の数は20軒も無い。暴れているのは赤いドラゴンだ。
「レッドドラゴンだな。見てわかると思うが火属性のドラゴンだ。」
「とりあえず、こっちに気を引くぞ。」
ウインドカッターで攻撃してみるが、傷一つ付かない。が、ドラゴンの気は引けたようだ。
レッドドラゴンがこっちに向かって来る。途中でいきなりブレスを吐いた。思ったより早い。ギリギリで転移して避ける。
「レッドドラゴンは前に倒したグリーンドラゴンとは桁が違うぞ。ランクで言うならグリーンがAならレッドはSだ。」
「ほう?面白い。」
動きはさほど早くは無い。問題は固い装甲とブレスだな。向かって来るドラゴンの目の前に転移してショートソードで切りつける。切りつけると同時に転移して元の場所に戻る。
ドラゴンの鱗は想像以上に硬く傷一つ付けられなかった。
「ブラスマイヤー、普通はどうやって倒すんだ?」
「俺なら今の攻撃で首を落としてたぞ。」
「それって、僕の剣技が駄目って事?」
「駄目駄目だな。魔法で行くか?」
「魔法だと素材が駄目になるだろう?」
「じゃあ、剣を変えるか?」
「それは負けた気がする。」
「じゃあ、どうする?」
「ドラゴンを切るイメージを僕に見せてくれないか?」
そう言うと頭の中にイメージが入って来る。ドラゴンのブレスを掻い潜りスパッと首を切り落とす。
「なるほど、こう言う感じか。」
「出来るのか?」
「試してみるさ。」
ドラゴンに向かい駆け出す。徐々にスピードを上げる。ブレスの兆候、軌道を読み掻い潜る。ここまでは完璧。あとは、首をこう下から切り上げる感じでスパッと切れた?
って半分かよ。逆に転移して反対を切り落とす。なんか締まらないな。
レッドドラゴンの死体をストレージに仕舞い。村に近づく。怪我人がかなりいる。
「そう言えば回復魔法覚えて無いんだけど?」
「ああ、回復魔法はイメージが特殊なんだ。」
「特殊?」
「うむ、時間を戻すイメージをする者も居れば、逆に時間を進めるイメージをする者も居る。まったく違うイメージをする者も居る。」
そうか、この世界には医学が無いんだっけ?僕が現代医学のイメージで回復魔法を使えばどうなるんだ?
「回復魔法はヒール?キュア?」
「どっちでも構わん要はイメージだ。詠唱は関係ない。」
とりあえず、近くの怪我人に駆け寄り、ヒールを掛けてみる。イメージは現代医学だ。
どうやら効果はある様だ。今度は別の怪我人で試してみる。今度のイメージは魔法の治癒だ。
これも効果がある。ん?どっちが効果が高いんだ??
次の怪我人は足が千切れかけている。これは足が元に戻るイメージをすれば良いのかな?
って戻った。千切れかけていた足がカメラの逆回転の様に元に戻った。これは時間を戻したのか?イメージは病院の縫合なんだけどな。
治療魔法は現代医学と言うより、魔法のイメージの方がよさげだ。下手に現代医学を再現するより魔法で治療する方が効果もスピードも速い。
そんな事を考えていたら後ろから声が掛けられた。
「あなた、何をしているんです?治療は治癒師の仕事です。勝手な真似をしないで下さい。」
振り返ると若いシスターが居た。
「あなたは?」
「この村の教会のシスターです。」
「勝手な真似って、見殺しにしろと教会は言うんですか?」
「そんな事は言ってません。治療は治癒師に任せなさいと言って居るのです。」
「何故?」
「それが神の教えだからです。」
「いや、治癒師間に合って無いし。死んだら責任取ってくれるんですか?」
「神に逆らうのですか?」
「話にならないな。エリアハイヒール!!」
その場に居た数十人の怪我人が一斉に治る。
「あなたの神は人を殺せと命じる様ですね。僕の神は人を救う様に命じます。僕は自分の神を信じます。」
「あなたは異教徒なのですね?」
「異教徒?神が何人も居るのですか?」
確か、この世界の宗教は唯一神だったよな?
「何を馬鹿な事を。」
「じゃあ、異教徒って何ですか?あなたが言ったんですよ?」
「あなたは私を愚弄するおつもりですか?」
「いやいや、ドラゴンに襲われてたので助けたのに余計な事をするなと言う、あなたにその真意を聞いているだけですよ。」
「ドラゴンに襲われていたのを助けて頂いた事は感謝します。でも、それ以降は教会の仕事です。手を出さないで頂きたい。」
「それ、おかしいでしょ?だったらドラゴンも教会が倒して下さいよ。」
「それは・・・」
「そもそも、ドラゴンを退治しなければ皆さん死んでましたよ。もちろんシスターあなたもね。」
あれ?ちょっと言い過ぎたかな?顔を真っ赤にして震えてるし。
「良い機会です。一度教会について考えてみたら如何でしょう?教会の仕事とあなたは言いました。教会は仕事をする場所なのですか?死にかけてる人を助けてお金を貰うのが正しい事なのでしょうか?」
「そんな事言われなくても分かっています。でも、私は教会のシスターなんです。」
ああ、なんかシスターに八つ当たりしてるみたいになってきた。帰ろう。
転移で家に帰る。突然消えた僕にシスターは吃驚しているだろう。
なんか自己嫌悪に陥りそうだ。シスターは多分悪く無いんだろうな。悪いのはその上に居る司祭だろう。自分が神なのに教会と喧嘩してる僕って一体・・・




