011
翌朝、7時に起きてすぐに食事をし、ギルドへ向かった。この時間帯ならまだ混んで無いだろう。そう思ったのが間違いだった。王都のギルドは早朝から激混みだった。とりあえず一番短い列に並んで順番を待つ。
30分程で順番が回って来た。
「依頼ですか?登録ですか?」
エイジはブレイルのギルマスからの手紙を出し。これをなるべく上の方に渡して下さいと言った。
「これはブレイルのギルドマスターからの手紙ですね?分かりました。ギルマスに直接渡しますので、そちらのソファーに掛けて暫くお待ち下さい。」
そう言って右手を指さす。どうやら、来客用のソファらしい。あれ?なんか待遇が良いぞ。そう言えばブレイルのギルマスって元Sランクって言ってたな。何か関係があるのだろうか?
15分程すると背の高い神経質そうな男が現れた。
「サブギルドマスターのホークと言います。こちらへどうぞ。」
そう言われて2階へ連行された。
「ここがギルドマスターの執務室です。」
そう言ってノックをして入って行く、僕も付いて行く。
「ギルドマスターのビクセンだ。冒険者時代はブレイルのギルマスと同じパーティーに所属していた。」
「へぇ。って事はビクセンさんもSランクだったんですか?」
「まあな。それより、この手紙に書かれている事は事実か?ドラゴンにミスリルリザードとあるが、証拠は?」
とりあえずミスリルリザードを1匹ストレージから出して見せた。
「本物だな。これは大騒ぎになるな。」
「ここでも買い取りは無理ですか?」
「これほど見事なのは無理だな。金はあるが、あちこちから苦情が殺到する。オークションに出すのが一番面倒が無い。」
「そういう物ですか?あと、爵位とお金を貰えるって話なんですが、そっちはどうなってます。」
「ああ、もう1通の手紙の件だな。」
ブレイルのギルマスは2通手紙を書いてくれたのだ。
「こっちに関してはギルドは橋渡しだけだ。手紙を書くから時間のある時にでも王城へ行け。」
そう言って、その場でサラサラと手紙を書いて渡してくれた。
「ドラゴンとミスリルリザードについては、この後地下の解体場へ行って受け渡しをして貰う。ちゃんと証文を渡すから安心しろ。オークションは来月だから、まだ20日程度時間がある。落札の結果が出たら知らせるから居場所を常に教えて置いてくれ。オークションには手数料がかかるが、それを差し引いても普通にギルドに売る倍位の値段が付くはずだ。楽しみに待ってろ。」
「そう言えばなんでドラゴンは買い取ってくれないんですか?」
「グリーンドラゴンが市場に出回るのは50年ぶりくらいの事だ。多分、王家が先に欲しがると思う。その場合はオークションにかけず王家に譲る事になる。どちらにしてもお前さんは大儲けだ。」
「ちなみにまた、ドラゴンを狩って来た場合は買い取って貰えます?」
「物に寄るな。状態が悪ければギルドでも買い取れるが、状態が良ければオークションになるな。」
「そういう物なんですか?じゃあ、王都で高値で買って貰える魔物を教えて貰えませんか?」
そう言うとギルマスがサブギルドマスターをチラリと見た。サブギルドマスターは心得ましたと言う雰囲気で話し出す。
「基本、魔物の値段は素材の価値です。ドラゴンが高いのは無駄が無いからです。血や骨に肉や角、牙、捨てる所がありません。そう言う点ではドラゴンの亜種ワイバーン等は高く売れます。また肉が美味い魔物は高値が付きますね。グレートバッファロー等は取れる数も少なく狂暴なので希少価値も付いて高値で取引されています。」
「なるほどワイバーンにグレートバッファローですね。覚えました。」
「あとはその時々で値段が上がる魔物も居るので受付嬢に聞くのが良いだろう。」
「解りました。ありがとうございます。」
「では、地下倉庫へ行こう。」
ギルマスの部屋を出て地下へ向かう。サブマスターが居るので顔パスでどんどん奥へと進んで行く。一番奥に倉庫はあった。広い兎に角広い。ここならドラゴン2体くらいは出せるだろう。
「ブレンダン居るか?」
「ほう?珍しいね旦那がここに来るなんて。」
「例のドラゴンとミスリルリザードの件だ。」
「ほう?坊主が狩ったのか?状態を見たいからここに出してくれ。」
「良いですけど、鮮度が落ちると価値が下がるんですよね?」
「心配するなチェックをしたら、ここの備品のマジックバッグに入れてオークションまで安置するよ。」
じゃあ、と言ってミスリルリザードから1匹ずつ出す。出すたびに数人いる職員から歓声が上がる。
「ミスリルリザード3匹か、これは大騒ぎになるな。しかも状態が凄く良い。次にドラゴンを出してくれ。」
言われた通りにドラゴンを出す。部屋の中央にドカンと出し、首だけ元合った場所の近くに置いた。
「これも凄いな。もしかして1撃で倒したのか?」
「ですね。首をスパッと。」
「これだけ見事なドラゴンの死体を見る機会は滅多に無いぞ。やはりこれは王家行きかな?」
「手っ取り早く金にしたいんですけどね。」
「そう言うな。こいつはグリーンドラゴンにしては大きいからな。白金貨50枚位にはなりそうだ。」
ん?今、白金貨50枚って言ったか?日本円で5億円だぞ。
「ミスリルリザードはどうなんですか?」
「こいつも状態が良いからな。博物館なら白金貨15枚位は出すかもな。」
おお、こっちも億越え。これは褒美もあるし、一気に大金持ちになれるかも、諦めかけてたスローライフの夢が帰って来た?
等と考えていると職員がマジックバッグに一つずつ丁寧に仕舞って居る。ブレンダンさんは何やら書類を書いている。
「ほら、これが証文だ。換金の際に必要になるから失くすなよ。」
「ありがとうございます。」
「また、珍しい物獲ったら持って来いよ!」
倉庫を後にして宿屋に戻ろうと考えたが、あそこは引き払ったので、受付で飯の美味い宿屋を紹介して貰った。
ギルドの斜め前にある『止まり木亭』と言う宿屋だ。なんか久しぶりにまともなネーミングを見た気がする。
宿屋の扉を開けると幼女が居た。やはりこの世界宿屋と幼女はセットらしい。
「1泊頼む食事付きで。」
「食事付きですと、銀貨1枚と大銅貨2枚になります。」
お、ここは安いぞ。まあ食事を食べてから判断しないとな。
頼むと言って銀貨1枚と大銅貨2枚を渡す。食事はすぐ出来ると言うので貰う事にする。
エールも頼む。エールは銅貨3枚だった。王都の相場らしい。
「氷魔法で冷やすと美味いぞ。」
エールを呑もうと思ったら左腕からボソッと声が聞こえた。氷魔法ってまだ練習してないんだけどな。
冷凍庫をイメージして魔法を発動したら何とか発動はするが、完全には冷えない。もう一度重ね掛けをしたら良い感じに冷えた。
確かに冷えたエールは美味いな。向こうの世界で何度かビールを飲んだ事があるが、苦いだけで美味いと感じた事は無かった。エールは苦みが少なくフルーティーだから飲みやすいのかもしれない。
そんな事をしていると食事が運ばれてくる。皿の上にスライスした肉が乗っている。これはシュラスコとかケバブの様な料理かな?なんかたれの様な物が掛かっているのでフォークで刺してそのまま食べた。美味い。これはパンに挟んだら美味そうだ。続いてパンとサラダの様な物が出て来たのでパンにナイフで切れ目を入れて肉を挟んで食べてみる。やはり美味い。パンが若干固めだが、味がしっかりしているので、肉の存在感も負けていない。もう一個のパンはサラダも挟んでローストビーフサンドの様にして食べてみる。これもイケるぞ。ふと周りを見たら僕の真似をして食べてる人が居て。笑ってしまった。パンと肉と野菜が並んでいて、誰も思いつかなかったのか?
食事に満足したし、値段も安い。暫くはここにやっかいになろうかな。そう思いつつ幼女から鍵を受け取り部屋へ向かう。部屋は何処も似た様な物だ。基本寝るだけなので不満は無い。
明日は王城へ行ってみるつもりだ。果たして本当に褒美が貰えるのだろうか?




