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第七話 槌矛

再度、悪役令嬢が出てきます。

※なろう運営からの警告によって一部分黒塗り措置を施しています。

 執念を燃やすように、ゴブリンバスターは鋭い眼光を放つ。

 しかし情けなく逃げる指揮官コマンダーの姿を追うでなく、ゴブリンバスターは焦らず、やはり一匹ずつ丁寧にゴブリンを叩きのめす。

 戦士の任務はあくまでゴブリンの殲滅せんめつである。この巣に出口は一つだけだということを、ゴブリンバスターは知っていた。巣の構成を任務遂行前に調査把握することはゴブリン駆除の基本である。


 ――逃げるがいい。いずれお前の番がやって来る。


 そう思いながら戦士は目の前のゴブリンへ槌矛メイスを振るう。


 ホブゴブリンはガルムの奥の手だった。当たりさえすれば一撃で仕留めることができるパワーにガルムは惚れていたのだ。それなのに……丸太のような棍棒を一振りもせず、ホブゴブリンはほうむられてしまった。

 ガルムは巣の苗床に逃げ込んだ。ここは██(ようたい)となった███████████。

 █████、██が入り混じる部屋。


「もうすぐ侵入者が来るギャ! オラ! お前、魔術師だろ!? 手足が使えなくとも、魔法で奴を攻撃するんギャ!」


 魔術師の女性を蹴り上げる。しかし魔術師は動かない。言葉が解らないということもあるが、そもそも意識は朦朧もうろうとしており、思考はとうに停止している。死にたくても死ねない体から、魔法など出ようものか。侵入者でも誰でも良い、彼女は自分を殺してくれる存在の登場を願っていた。


 ザッザッザッ……


 足音が近づいてくる。

 もう後がない。


 ザッ


 ガルムの前に、ゴブリンバスターが現れた。

 何匹のゴブリンをほうむったのだろうか、槌矛メイス柄頭つかがしらはもうこれ以上吸えぬと言わんばかりに、ポタリポタリと血がしたたり落ちていた。

『血を流さぬ武器』とは誰が言い出したのか。


「お前らが最後に逃げる場所はいつも苗床ここだな」


 ゴブリンバスターはガルムに話かける。ゴブリンは人間の言葉が理解出来ることを戦士は経験的に知っていた。だからえて話しかけたのだ。

 戦士は過去、幾度となくゴブリンを駆逐して来た。その度、巣の主はいつも仲間を捨てて逃げ、そしていつも苗床にやって来る。典型的な行動をガルムもなぞってしまっていた。ゴブリンバスターにしてみれば今回の任務も、いつもの討伐クエストに過ぎなかった。


「一、二、三……ん?」


 ギルド報告の為いつも通りに被害女性の人数を数える。その最中さなかいつもと違うことが一つだけ有った。人間の女性七名に混じり、メスゴブリンがいたのだ。噂に聞いたことはあったが、彼自身がメスゴブリンを見るのは初めてだった。

 その姿……驚くと同時にあわれんだ。

 何故なら人間の██(ようたい)と同じくメスゴブリンもまた手足の自由を奪われて、ゴブリンの子を産むだけの存在になってしまっていたからだ。


 ――酷い。同種でも女の扱いは同じなのか。救いがない。


(ガウガウ……)


 声帯が傷つけられているのだろうか、酷くしゃがれた声をしている。にも関わらずメスゴブリンは力なくゴブリンバスターに話かけた。

 ただでさえ、人間はゴブリンの言葉を理解出来ない。

 しかしこれだけは理解できた。


ガウガウ(殺して)……)



 槌矛メイスメスゴブリンの望みを叶えた。







 ――どうする? 考えろ!


 扉を硬く閉め、ガチャガチャと鍵をかけた。

 ガルムは苗床のさらに奥、幼児の為の小さな部屋、育児室に逃げ込んでいた。それでも安心できない。こんな薄い扉、直ぐに突破されるだろう。

 吹き出る冷や汗を拭い、焦るガルム。生きた心地がしない。ここから脱する方法を考えなければならないが、その気持ちが余計に焦りを生む。

 と、無邪気にヨチヨチと近寄る子ゴブリンども。


「チッ、うぜえ! 近寄るな!」


 子ゴブリンの一匹を、思い切り蹴飛ばした。子は「ギャン!」と短くき、そのまま動かなくなった。それを見た残りの子ゴブリンはガルムを避けるようにお互いに身を寄せる。我が子に暴力を振るったところで、事態が好転する事はない。


「イヒヒヒ、随分と焦っていらっしゃるのね」


 ――この笑い声!


 育児室の奥、暗闇から現れたのは令嬢ゼティア。

 ガルムは急いで駆け寄る。


「頼む助けてくれギャ!」


「助ける?」


「そうだギャ、お前のクリスタルを使ってここから別の場所へ転移するギャ!」


「あら? どうして私が貴方を助けなければならないの? 物件に居座り、約束を破り……これ以上に望むものが? 理解し難いですわ」


「ややや約束を破ったのは悪かったギャ! 謝る。ッそうだ! これからは██████。家畜もだギャ! 約束する! だから頼む!」


 生への執着。ガルムは必死にゼティアに懇願した。生き続けられるなら、約束は守ると、この時ばかりは本気で思っていた。だがゼティアは見抜いていた。ガルムの懇願は子供の約束と同じもの。例えその瞬間は本気で思っていても、また同じ過ちを繰り返す。やはりゴブリンは馬鹿なのだ。


 ガン! ガン! バキ!


「出てこい。そこに居るのは分かっている」


 扉を打ち破ろうと、ゴブリンバスターが槌矛メイスを激しく打ちつける。


「もっとも、出てきたとこで結末は同じだがな」


「やばいギャ! 早く! なんでもするギャ!」


「ん? そこまでいうなら……いいでしょう。あなたの生への執念にぴったりのご提案を致しますわ」


 ゼティアは右手を大きく上げ、ガルムを指差した。

 ダ――――――—ン!


「ギャアアアアア……」


 バキ! バキ! バタン!


 ゴブリンバスターはついに扉をこじ開けた。


「さあて、どこにいる?」


 探すという行動が取れるほど広くない、そんな小さな空間の育児室。だが六匹の子ゴブリン以外は何も見つからなかった。


 ――腑に落ちない。


「ギャン!」

「ギャオン!」


 ゴブリンバスターは子ゴブリンを駆除しながらそう思った。たしかにこの育児室に司令官コマンダーは逃げ込んだ筈だ。なのに痕跡を残さずに姿を消した。こんな経験は初めてだった。

縦書きPDFはこちらから

https://ayano-narou.blogspot.com/2019/03/blog-post_5.html

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