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第六話 慢心

ゴブリンスレイヤー みたいなやつが出てきます

 深い森の中の、さらに奥にある洞穴にゴブリンバスターはやって来た。入るなり、彼の視界が奪われる――筈だった。

 しかしときは夜。入ってしまえば暗闇の、洞穴攻略にいて昼も夜も関係ない。ゴブリンバスターは目が暗闇に慣れる夜を好んで洞穴の中に入る。


 ゴブリンの駆除を専門に請け負う冒険者を『ゴブリンバスター』と呼んだ。人や家畜がゴブリンに襲われる――残念ながら、それは大して珍しいことではない。

 通常はクエストの依頼にもならないほど小さな出来事に過ぎない。村への襲撃といったような目立った被害が出て初めて、ギルドに討伐依頼が来るようになる。ただ依頼者の大半は貧乏な村民であることが多く、ゴブリン退治の報酬は大抵、安価である。故に専ら新米冒険者用のクエストとして掲示板へ掲載される。

 そんなゴブリン退治のクエストに、破格の報酬がつけられたこの依頼には、ゴブリンバスター以外にも沢山の冒険者達の受注要望が殺到した。こういった事態を調停するのもギルドの役目である。クエストは達成確度が高いゴブリンバスターに割り当てられた。


 即座、背後から襲う影。

 ゴブリンバスターは振り向くことなく体をひるがえし、その勢いを利用して、が短く改造された槌矛メイスを叩きつけた。

 ゴパッ

 頭蓋骨が割れる音。

 即死である。


 ――典型的。


 ゴブリンバスターが抱いた巣の感想だ。

 闇に紛れて背後から侵入者を襲う。新米冒険者であれば、ゴブリンの手痛い洗礼を受けるだろうが、彼にその手は通用しない。


「侵入者が来たようだ」


 斥候せっこうのゴブリンがガルムに告げる。


「! 来たか」


 いつかこの日がやってくることを想定し、ガルムは準備を進めて来た。迎え撃つ準備も気概も十分だ。一つ誤算があるとすれば、相手は新米冒険者ではなくゴブリン退治が生業なりわいのゴブリンバスターであることだ。だがその誤算にガルムはまだ気づいていない。


「数は?」


 ガルムは侵入者の情報を正確に測ろうとした。


「一人」


「一人!? たった一人でゴブリンの巣へギャ?」


 そこに続報が届く。

 剣戟けんげきを主体とした第二部隊、壊滅。

 毒矢を主体とした第三部隊、壊滅。


「第三部隊までもがやられたギャと? 高かったんだぞ!」


 ガルムは癇癪かんしゃくを起こす。


「そウイえば、聞いたことがある」


 同じく部隊壊滅の報告を聞いていたホブゴブリンは口を開く。


「顔ガ見エない無骨なかぶと。使い込まれるも動きやすい鎧。毒矢を防ぐだけの軽い木の盾。そして聖職者クレリックでも無いのに槌矛メイスを装備し、たった一人でゴブリンの虐殺を繰り返している戦士が居ると……」


 大抵の新米冒険者はロングソードを振り回す。

 それは、アーエール王国に伝わる『勇者の伝説』の影響が強いからだろう。

「聖剣を持ち、勇者は魔王をやっつける」

 物語の絶頂を子供の頃から聞かされて、いつしか勇者と聖剣は、憧れの対象となる。晴れて冒険者になったからには聖剣に似たロングソードを装備して、強い魔物を討伐し、名を上げたい。自らが勇者と呼ばれることを夢見て。


 しかしくだんの戦士の装備からは、そんな自尊心を微塵も感じさせない。

 顔が見えなくば名を上げられまい。

 使い込まれた鎧では格式が保てまい。

 何より槌矛メイスという武器は、血を流さぬ武器として聖職者クレリックが好んで使うが、聖職者クレリック以外が使う姿は人間から怪訝けげんに思われよう。


 名声などは必要ない。

 格好などどうでも良い。

 勇者などには憧れぬ。

 大量に湧くゴブリンどもを殲滅させるという、ただひたすらに強い意思のみが読み取れる。


「ふーむ。噂のゴブリンバスターかギャ」


 ガルムもホブゴブリンが話す戦士を噂で聞いた事があった。

 そいつに狙われたが最後、生き残ったゴブリンは居ないとか。


「上等だギャ」


 ゴブリンバスターを討って名を馳せよう。ガルムはその程度に考えていた。


 巣は奥に歩みを進めると、必ず広間に出るように作られている。巣の広間は群れの総力戦を行う場所となっており陥落することは許されない。ガルムはそこで待ち伏せる。広間での戦闘が得意なホブゴブリンと多数のゴブリンを引き連れて。


 ザッザッザッ


 程なくして、聞きなれない足音が聞こえてきた。足音と呼応するかの様に、松明たいまつの明かりが近づいて来る。夜目が利くゴブリンに松明たいまつなど無用のものだ。明らかな違和感の連続。


 ――間違いない侵入者だ。


 侵入者は躊躇ちゅうちょすること無く広間に足を踏み入れる。

 一歩、二歩、あまりに遠慮なく大胆に。

 松明たいまつに照らされ浮かび上がるその姿、ガルムは自らの目で確認した。

 使い込まれた装備に身を包み、手には槌矛メイス


 ――コイツが、ゴブリンバスター!


 瞬間に、ガルムは「ガウウウウウ!」と一つ鳴く。

 それは敵を一斉に襲えとの命令を意味した。

 命令に従い、即座に襲いかかるゴブリンども。


 ガキン!

 ゴパッ!


 戦闘の音が響き渡る。


「ギャイ――――――――ン!」


 聞こえてくるのは人間の悲鳴ではなくゴブリンのものばかり。


「ぐヌヌヌ、何をやっているんだ雑魚どもが!」


 ホブゴブリンは怒りを募らせる。


「待て。そうキレるなギャ」


 ガルムはゴブリンバスターの戦闘手法をよく観察していた。奴は広間に入ったと見せかけて、自身が通ってきた狭い通路で戦っている。敢えて広間にズカズカと入り己の姿を晒し、大量のゴブリンをおびき寄せ、直ぐに後ろへ引いたのだ。そして狭い通路を利用してゴブリンを一匹一匹、仕留めていた。

 ならば……と。


「お前ら! 入り口から離れるギャ!」


 ガルムはそう言って、ゴブリンどもに声を掛けた。


「ピュイ!」


 口笛を吹く。

 程なくゴブリンバスターは、狭い通路からゴロンと前転しながら飛び出てきたではないか。その直後、多数の火炎魔法ファイアが通路から次々と噴き出た。


「うオット! 危ない」


 ホブゴブリンは火炎魔法ファイアを避ける。


「ギャッハッハ! 流石のゴブリンバスターも沢山の火炎魔法ファイアには逃げるしかないようだギャ。第四部隊は魔法部隊。奴の後ろに多数のゴブリンシャーマンを配置したんギャ。火炎魔法ファイアを避けるには、今のように広場へ逃げ出るしかないからな」


 事が思い通りに運び、痛快だったのだろう。ガルムが御託ごたくを並べているに、ゴブリンバスターはホブゴブリンの足元へ素早く近寄る。


「な、早イ!」


 思い切り、槌矛メイスを両腕をって振りかぶり、巨体のすねを渾身の力で打ち付けた。

 ゴンッ!

 骨が砕ける鈍い音。


「ぐオオぉおおおおおおお!」


 堪らずホブゴブリンの巨体がひざまずく。足下にはゴブリンバスター。巨体に比例した大きな顔が戦士に近づいてくる。


「ふんっ!」


 ザシュ!


 突き上げる剣が巨体の喉を貫く。剣は他のゴブリンから奪ったもの。

 ホブゴブリンはゴポゴポと血の泡を吹きながら死んだ。


 ――異常事態!


「ガウウウウウ!」

 ガルムは一斉攻撃を再度命じた。

 命令通りゴブリンバスターを襲うゴブリンども。

 命令とは裏腹に広間から逃げるガルム。

 ゴブリンバスターはその姿を見逃しはしなかった。


「逃さんぞ……」

縦書きPDFはこちらから

https://ayano-narou.blogspot.com/2019/03/pdf-httpsdrive.html

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