第三話 苗床
ここら辺から、グロくなっていきます
※なろう運営からの警告によって一部分黒塗り措置を施しています。
――この幸せは出来るだけ長く持たせたい。
知能が低いゴブリンですらそう願う。幸せを求めるのは理屈ではなく生物の本能なのかもしれない。雄ゴブリンにはガルムという名が有った。同じゴブリンだからであろうか、ガルムと雌ゴブリンの相性は非常に良く、二匹の間に子が宿るまで時間はかからなかった。程なくして雌は第一子を出産する。
子を産んでみて分かったことだが懐妊期間は二週間だった。これは人間を孕袋にした場合の半分の期間で済んだ計算になる。
ガルムは満ち足りていた。ゴブリンだけで子孫繁栄が出来る幸せを噛み締めていたのだ。……とはいえガルムはホブゴブリンを雇う準備を進めていた。結果的にゼティアとの約束通り、人間を襲うこと無く生活を送っていはいたが、冒険者の襲撃はいつか必ず来るだろうと想定していたからだ。
ガルムはホブゴブリンに会うために、巣から離れたある洞窟へと足を運んだ。人間らはその場所をダンジョンと呼び、滅多に近づかない。ダンジョンにはゴブリン以外にも様々な魔物が棲息しており、深い階層へ行く程に強力な魔物が棲む。最深部には一体どんな魔物が潜んでいるのか、ゴブリンには検討もつかなかった。と言うより、そんなことには興味がないと言った方が正しいか。
然りとて、お目当てのホブゴブリンはそれ程深い階層には居らず、道中、何匹かのゴブリンから情報を得ることで、労せず遭うことができた。
厄介なオマケも一緒にだが……。
「でやぁああああ!」
威勢の良い掛け声がダンジョンに響き渡る。
――冒険者!
ガルムは急いで物陰に隠れ、この厄介な状況を把握する。
比較的視野がひらけたダンジョンの広間。
前衛に男女で剣士が二人。
後衛に女魔術師一人、女僧侶一人……。
四人構成に対するはホブゴブリンただ一匹。
「ぬン!」
ホブゴブリンは、丸太のように大きな棍棒を打ちつける。男剣士は咄嗟に反応するも避けそびれ、左足に棍棒が直撃した。
「ぐああああ!」
通常では曲がらない方向に左足が折れる。
「ゼノ!」
女剣士は男に近寄る。
「お……俺は大丈夫だ!ミーファ、治癒魔法を頼む……」
「承知いたしました!」
そう言うと女僧侶は目を閉じて詠唱を始める。
「その体を包むは優しき深緑の木漏れ日。健全なる体へと傷を癒せ、治癒魔法」
女僧侶が詠唱をしている間に女剣士はホブゴブリンに声をかける。
「やいホブ野郎!よくもゼノをやってくれたわね!こっちよこっち!」
あからさまな挑発にホブゴブリンは乗ってしまう。女剣士を仕留めようと、ちょこまか動き回る残影を夢中で追いかける。しかし、ホブゴブリンの棍棒は虚しくも地面に無数の穴を開けるのみで、女剣士を捉えることができない。
「火炎魔法!」
――後方からの魔法!
女魔術師が放った火炎魔法がホブゴブリンへ直撃した。熱波は物陰に隠れていたガルムにまで届く。
魔法は例外なく詠唱が必要となる。詠唱が有るからこそ、精霊の力を借りて、奇跡を起こすことができるのだ。反面、詠唱中は完全に無防備になるため最大の弱点でもある。女魔術師は女剣士に気を引かせている隙に詠唱を完成させていたのだ。
「ぐヌヌぬぬぬ……」
火炎を振り払うホブゴブリン。
そこに、治癒が完了した男剣士のロングソードが襲い来る。
「さっきは痛かったぞ!我が剣の錆びとなれホブ野郎!」
――ダメだ。
如何に体格の大きなホブゴブリンと言えども一対四では分が悪い。
一党のチームワークも無駄がない。
「グォオオオオー!」
不利な状況にか関わらず、ガルムは堪らず吠えた。
ホブゴブリンとはいえ同じゴブリン。同種を見殺しには出来ないと言う思いがそうさせたのだろうか。
「なに? ゴブリン!?」
ガルムの咆哮は男剣士を怯ませる。
「やばい仲間が……どんどん増えていく!」
咆哮はダンジョン内に轟いた。そしてそれはフロア内のゴブリン達をガルムの元へと導いた。どこからともなくやってくるゴブリンは、あっという間にダンジョンの広間を埋める。数にして100匹、いやそれ以上。
「数が……多すぎるわ」
「ひぃ、火の精霊よ、わ。我が命により……」
「ギャウウウウ!」
女魔術師の詠唱を邪魔するように、集まったゴブリンが次々と襲いかかる。
「だめだ! 詠唱が間に合わない!」
言い捨てながら男剣士はゴブリンどもを薙ぎ払う。
「ゼノ、無理だ逃げよう!」
「ああ……でも、ゴブリンに囲まれて逃げ場がない!」
一党は完全にゴブリンに囲まれていた。
ゴブリンどもが、ジリジリと迫ってくる。
もう後がない。
「だから! 私はダンジョンに潜るのは反対だったのです。早すぎたのですよ、力試しだからって安易に!」
「今更そんなこと言っても仕方ないでしょ! ……っていうかパーティー参加時の契約要項に、ダンジョン攻略は書かれていたわよね? 合意の上じゃないの?」
痴話喧嘩を背中で聞いていた男剣士は痺れを切らし、後ろを振り向く。
「おい! 今仲間割れしている場合じゃな、ピぎゃ」
男剣士は、ホブゴブリンの棍棒に叩き潰され、無残にも赤い華を咲かせる。
砂糖に群がる蟻のように、群れたゴブリンは飛び散った血と桃色の肉片を啜る。
「ゼノ! 嫌ああああ!」
「キャ――――――――ッうボびゅうぅ」
悲鳴を挙げた女僧侶の口を、ゴブリンは短剣で斬り裂く。僧侶は治癒魔法を使うため、まず仕留めたい標的だ。一撃で倒すことが出来なくとも、口を斬り裂くことで詠唱を阻止出来る。
女僧侶の口からは、ビュッビュッと鼓動に合わせて血が飛ぶ。
「あ、あああぁ……。死ぬんだ私。う、おぇええ」
「ち、ちょっと、ルク! ゲロ吐いてる場合じゃないわよ!」
女剣士は戦意喪失した女魔術師に活を入れる。彼女は気丈に振る舞ってはいたが剣を持つ手はガタガタと震えていた。
一斉に襲いかかるゴブリン。
女剣士の太刀筋は良く、一斬りでゴブリンを次々と仕留めた。このダンジョンに入り、ゴブリンどもを容易く仕留めることが出来るということは、それなりに経験を積んだ冒険者なのだろう。
だが数の前には、なす術がない。
「てやぁ! ……ハアハア」
徐々に奪われる体力。
「……ぐ! あああ!」
善戦の甲斐なく、女達はゴブリンの餌食となる。
「痛! あ、足が……」
ゴブリンどもは女達に留めを刺さない。執拗に四肢を攻め、致命傷を与えず、ただ機動力を奪っていく。
「ぅご! ぶ……おぇ」
頃合いを見て腹を殴り、怯ませ、身につけていた装備を剥がす。
「嫌! 嫌あああ! ひぎぃいいいい!」
ゴブリンは統率力を発揮する。女達を押さえつけ、股を割り、強引に挿入する。
それは、100匹全てのゴブリンが満足するまで終わらない。
結果的にこのパーティーの女達は死にはしなかった。だがゴブリン達の玩具にされ、ただ子を産むだけの孕袋にされてしまった。彼女らにしてみれば、殺された方がマシだったかも知れない。
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