第二話 契約締結
いきなり400ヒット超えしててびっくりした
※なろう運営からの警告によって一部分黒塗り措置を施しています。
ゼティアが案内した物件は到底物件とは言い難いものだった。
深い森の中の、さらに奥にある洞穴そのものが物件だと言うのだ。
「ほう……悪くないギャ」
洞穴を隈なく見て回ったあと、ゴブリンは満足気な言葉を漏らした。そう、人間にとっては只の洞穴であっても、ゴブリンにとっては良い物件となるのだ。
洞穴は入るなり途端に闇に包まれる。何故なら太陽の光を早く遮るよう、入り口は狭い作りになっている為だ。ゴブリンの天敵といえば専ら新米冒険者。故に、気をつけなければならないのは新米冒険者の奇襲となる。急激に暗くなる入り口は、そんな冒険者の視界を奪うことが出来る。夜目が効くゴブリンにとって暗さは好都合なのだ。
「気に入って頂けたようね」
ゼティアは一度見た場所を何度も見直すゴブリンに、声をかけた。
「ああ、予想以上だギャ。俺たちゴブリンの好みをよくわかっているな」
洞穴は暗いだけではなかった。ゴブリンの小さな体に合うように、洞穴自体が適度に狭い。もしも愚かな新米冒険者がロングソードを降り翳そうものなら、天井にあるむき出しの硬い岩に当たり、剣は後悔の火花を散らすことだろう。
また洞穴は、単純に狭ければ良いというものでもない。ゴブリンの戦闘手法は主に集団戦である。そのため一人の冒険者を多人数で襲うある程度の広さも必要だ。
ゴブリンは巣を構えた後、ホブゴブリンを雇うつもりであった。ホブゴブリンは人間程度なら片手で持ち上げてしまうほどの怪力を持つ。それだけに大きな体格の持ち主で、成人男性と比較しても、1・5倍は大きい。そのホブゴブリンが戦える程度の大きな部屋も必要だと考えていた。洞穴は、『狭い』『広い』のメリハリが肝要なのだ。
おっと、攫って来た人間の女どもを██にする苗床も忘れてはいけない。この洞穴には、そういったゴブリンの要望が全て揃っていた。
「イヒヒ、良かったわ。早速契約に移りましょう」
「ああ、早くしてくれ。今すぐにでも引越して来たいギャ」
「いつお越し頂いても良いわ。存分に使って結構よ。ただし……」
「ただし?」
含みを持たせた言葉に、ゴブリンは少し身構える。
「契約の前に一つ約束して欲しいの。この物件を使い続ける限り、決して人間とその家畜を襲わぬと」
「はぁ?」
「簡単でしょ?」
「馬鹿を言うな」
ゴブリンは突き返す。
それでは種を増やすことが出来ないではないか。何の為にここへ来たのか。何の為に全財産を叩いたのか——。ゴブリンの困惑は止まらない。
ゼティアはゴブリンに向かってゆっくりと歩き出す。
「ゴブリンはどうして人間の女性を襲うのでしょう? 答えは簡単、ゴブリンは全て雄だから。つまり雌のゴブリンは存在致しません。そのため誰かを孕ませなければ種が絶えてしまう……」
「何が言いたいギャ?」
ゼティアは、ゴブリンの目の前で歩みを止める。
そして侮蔑の笑みを浮かべ言い放つ。
「人間を襲わなくても種を増やすことは出来るでしょう?」
ゼティアの指摘は正しい。
ゴブリンは繁殖能力が高く、どの様な生物でも██させることが出来る魔物なのだ。牛でも山羊でも何でもいい。とにかくなんでも█ませることが出来る。ゴブリンは子を宿した状態の生物を██と呼び、出産以外の自由を奪うのだ。
それでも人間を好んで襲うには訳があった。人間は他の生物に比べてゴブリン懐妊の期間が短いのだ。期間にして一ヶ月程度で子ゴブリンを出産する。これは全ての生物の中で、懐妊期間が最も短いという訳ではない。基本的に大きな体の生物であればあるほど懐妊期間は短くなる。しかしそれではどうにも効率が悪いのだ。人間の女性は非力であり、容易に██することが可能である。人間よりも大きな体の生物となると襲うのも一苦労。弱くて体の大きな雌の生物。それが人間の女性なのである。
「断るギャ。人間の女が一番効率良く種を増やすことが出来るギャ」
拒絶されているにも関わらず、ゼティアはまたもニヤリと笑う。
「そう言うと思いましたわ。なので是非とも、ご紹介したい方がいらっしゃるの」
パン、と手を叩くと彼女の背後から見たことがないゴブリンが、ひょっこりと顔を出した。
「!?」
「イヒヒ、驚くのも無理はないわ。この方は雌のゴブリンでいらっしゃるからね」
「あ……ありえないギャ。今までそんな話、聞いたことがない」
雌ゴブリンは身長こそ雄と同じ位なものの、胸と尻は膨らんでおり、筋肉質である雄の体格とは対照的に、丸みを持ったボディラインをしていた。
「ふむ。貴方には先ずアーエール王国の国章が何故青薔薇なのかと言うところから教えなければならないようね。青い薔薇はこの世に存在しないのはご存知? 転じて青薔薇は不可能の象徴でもあるの。それを国章にする意味……。それは我がアーエール王国に不可能は無いと言うこと。それを世界中に顕示しているのよ。雌ゴブリンを探し出すことなんて我がアーエール王国の力を持ってすれば造作もないこと」
雌は、ゼティアを離れると雄に近づき体をすり寄せる。
「あ〜ら、おアツいこと」
ゼティアの冷やかしが届かぬほど、雄と雌は惹かれ合う。
「なるほど。人間よりも相性がよさそうだギャ。いろんな意味でな、……ククク」
「そう、それは良かったわ。でもくれぐれも忘れないように。人間と、その家畜を決して襲ってはならないことを」
そう言うとゼティアは雄ゴブリンの額に人差し指を軽く押し当てた。
「血と肉と魂の契約は今ここに締結せり」
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