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5億年ボタン押したら異世界だった件  作者: 伏見ナリヤ
リオニア編
9/36

望み、叶え給へ

いつかのエピソード

 ここじゃないどっか。

 今じゃないいつか。




 神秘的な揺らめきを発するその空間には三人の人影があった。

 内二人は三対六枚の翼を生やした紛う事なき天使。

 だが、一人は燃え盛る焔で包まれた女。

 もう一人はプリエストのような格好をしている男、という違いはあるが。

 そして、決定的なものがもう一つそこにはあった。

 

 最後の一人。

 一見ただの人間の男にしか見えないが、醸し出すオーラは別格の一言。

 全てを呑み込んでしまいそうな威圧。

 全てを包み込んでしまいそうな包容力。

 そのどちらもをその身に備えている。

 そして、一人玉座の様なものに腰を掛け、すべてを睥睨するかのようにふんぞり返っているのである。

 二人の天使のどちらもその男には遠く及ばない。

 そのことは女の天使を侍らせ、男の天使をもひざまづかせていることから明白であろう。

 やがて、重々しくもその男は口を開いた。


「なんだ、アズラーイール。我に文句でもあるのか?」


 男の声はそこまで大きくはないはずなのに、不思議と響き渡るその声は、込められた非難の()で、聞いたもの総てを等しく断罪するかのようであった。


 それに答えるのは膝まづき頭を垂れる男の天使。


「か、神よ。今こそ賢明になるべきかと。これ以上の恩寵を熾天使(セラフィム)様に授けるのは、恐れ多いながら、賢明ではないかと存じ申し上げさしていただきます」


 何を指すのかは何一つさっぱり分からなく、回りくどいことこの上ない謎のセリフ。

 だが、神と呼ばれたその男はすべてを理解したかのように頷きを返し、ただ一言を告げた。


「お前は駒にすぎん。お前が賢天使(ケルビム)であるという事実()()が必要なのだ。あまりでしゃばるなよ?」


 冷たく突き放すようなその一言は、これ以上の発言を許しはしないことを明確に突きつける。

 はじめから聞くきなど微塵も無かったのであろう冷徹な切り返し。

 これには賢天使(ケルビム)と呼ばれたその男も言葉を詰まらせてしまった。

 その間隙を突いて、男は立ち上がった。


「それでは、時は満ちた。プランを実行する」


 宣言。

 自己完結かつ完全完結。

 故に返事を必要とはしない。

 そして、一言。


「さぁ、こい」

 

 それに反応したのは、今まで側に控えていた女。

 熾天使(セラフィム)と呼ばれた、焔に包まれた天使だ。


「仰せのままに」


 それを満足げに頷き返す男。

 神と呼ばれた男。

 この場で圧倒的な支配権をもつこの男。

 一瞬その顔が変化し、なんとも言えない表情を浮かべる。

 さながら感情の奪い合いだ。


「お前が傷つくことが二度とないよう、力を与えよう。この世界を自由に出来る力を。誰にも脅かされることのない力を。お前がお前であり続けられるための力を」


 何かの呪文のように。

 誰かに言い聞かせるかのようでありながら、自分に語りかけているような奇妙な感覚。

 そんな雰囲気を醸し出しながらも、大仰に、かつ静かに語りかけると、神は一度目を瞑った。

 

 暫しの時間が流れ、再びその目を開けたときには、纏うオーラが気のせいだろうか濃密になっていた。

 瞳に迷いも躊躇いもいっさいがっさい見られない。


「アズラーイールよ、覚悟はいいか?」

「……くっ、英断を……」


 最後に一言と言わんばかりに賢天使(ケルビム)と呼ばれたその男は絞り出すように、言葉を伝える。


 だが、神に聞く気は(はな)からなかったのか、淡々と作業を開始しただけであった。

 反応もなければ、もちろん返事もしなかった。

 その代わりに、


「コード1001111100000011110000110111111

にアクセス」


 謎の文言が神の口からペラペラスラスラと紡がれていく。

 その呪文が完成していくにつれ、賢天使(ケルビム)の体は光輝いていき、身動きも遂にはとれなくなってしまう。

 呼吸も荒く、さらには、存在が少しばかり希薄になったかと思うと戻ったり。

 と明らかにぶれ始め、普通ではない。

 顔は驚くほど真っ青で、生きているとは到底感じられなかった。

 それでも神は続ける。

 躊躇うこともない。


「続いてコード1110110011010110110000110101001000101010110111100000101を分離(セパレイト)記憶(メモリー)濾過(フォートレイト)


 そうして、男の手に握られるのは光る何か。

 この世のどんな物体にも当たらない、形容しがたいナニカ。

 その瞬間だった。

賢天使(ケルビム)、と呼ばれたその男は、遂に糸の切れた操り人形のようにガクッと倒れたかと思うと、ピクリともしなくなってしまった。


 それを横目でちらっと見やった男は今度は熾天使(セラフィム)と呼ばれた女に向き直る。

 その瞳は一切の感情に揺れてはいない。

 ただたた女だけを見つめている。

 そして、ひっそりと一言を呟く。


挿入(インサート)


 だが、それで十分。

 何かを変えるのには十分だった。

 その瞬間、女の中でも同じような輝きが生まれた。

 そうかと思うと、突然男の手にしていた光とリンクし始める。

 幾つものメビウスの輪で繋がれた二つの輝きは明滅を繰り返していく。

 幻想的でどこか悲しい雰囲気を彷彿とさせるその光景に、果たしてどんな意味があるのかは誰も知らない。

 知るよしも必要もない。

 

 そして、遂に一際大きな輝きが放たれたかと思うと、その光はいつの間にか消えていた。

 何事もなかったように綺麗さっぱりと。

 だが、その代わりに、


「【世界種】No.72とNo.58の連結を確認」


 どこからともなく聞こえる謎の声。

 男とも女とも付かない不気味なその声はこれまた謎の内容をアナウンスする。

 だが、ここまでは想定通りなのか、その声を聞いても男は満足げに頷いているだけだ。

 続けて、


「【包括的事象改変能力】の発現を新たに確認、その他様々なアクセスを確認。承認」


 そして、その瞬間。

 あろうことか、神は屈託のない笑みを見せた。


 始めて、見せたその顔。

 女に向ける、その瞳。

 

 だが、そこにあった感情は。


 恋慕。

 

 ただ、それだけ。


 どこまでもどこまでも、激しく激しく渦巻く恋慕。

 

 そう、この神ははじめからこの感情しかなかったのだ。

 神にあるまじき、感情。


 だから、過ちに気づかなかった。

 知らず知らずのうちにどうしようも無いことになっていたとは、つゆほどもしれず。

 それでも、現実は訪れる。

 雨を嫌ったって雨雲は止まってくれたりしないように。

 エンドロールは既に流れていたのだ。

 止めることも出来ない。

 既に手遅れ。


「全ての情報を整理。完了。

 宣言。【神】の出現を感知しました」


 神の顔がギチリ、そんな音をたてそうなほど不自然に固まった。

 揺れる瞳。

 そこに見えるのは動揺。

 無理解。

 ワカラナイ。

 そんな感情。

 自分の()()()、いや、()()()()()()()、誰が書いたのかわからないけれど、ずっとたよりにしてきた。

 そんな計画表。

 命綱。

 それに無いことが起きたから。

 分からないから。

 困惑する。

 考える力などはじめからちっともなくて。

 どうすることだって出来なくて、あがくことすらできなくて。

 諦めることもできなかった。

 そんな、哀れな神は思考を停止した。


「宣言。世界の【異常】を感知」

「宣言。【異常】事態、識別番号1……」


 


「【神の複数存在】を感知」


 





「宣言。【世界】の【再構築(リセット)】を開始します」

 


 突如歪みだす【世界】。

 神も女も全く関係ない物も、全てを呑み込んで。

 【世界】は崩壊を開始する。

 誰にも意味がわかんなくて、誰にも止めることはできなくて。

 誰にも理由は分からない。 

 それでも誰も教えてくれない。 

 知っているのは【世界】だけ。

 だけど、それでも教えてくれない。

 ただただ世界を崩壊させるだけ。

 ヒントも何も与えてはくれやしない。

 それこそ何回だって何十回だって何百回だって、はたまたそれ以上……

 何度だって繰り返す。

 何度だって【世界】を壊し。

 何度だって【世界】をやり直す。

 何度だって……


「【再構築(リセット)】時期……」


 何度だって崩御するこの【世界】で、果たして【世界】は何も思うのか。

 答えは誰だって知らなかった。

 そう、誰だって……

 ………

 ……

 …


「ジージージジー……【世界種】……No.42に……異常が発生……ただちに……分離(セパレイト)……を開始します……」


 やがて物語はうつろいだす。

 新たな物語へと。

 今度こそ何かが変わるのだろうか?

 変わってくれるのだろうか?

 そんな思いが歪み()を生み出した。

 歪みであって鍵でもある。

 どうなるかは誰も知らない。

 不確定要素。

 安心とはほど遠い。

 確信とはほど遠い。

 だけど、いつだって世界を変えてきたのは、()()()

 そうだった。



 


 新たな世界で、生まれた。

 柴田詔矢が。 

  


 再び。

 

 

こうして本編に繋がった。

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