第五話 非行少年にお仕置きを──虚──
最初は主人公の思考だけで、なんか無機質だったんで、ちょいちょい解説つけときました。
朦々と立ち込める砂塵の中、僕はそこをじっと見詰めていた。正確には、その中のゴミカスを見詰めていたのだけれど。
そして、砂塵が薄れてきた時、遂にクツクツと笑いが漏れ始めた。我慢していた笑いが。
「ふはっ、ふはは!はははは!!何て力だ!!」
すごい、余りにもすごい!
未だに自分がこんな力を手に入れたことに実感が無いけれど、聖槍を握り締めた手がビリビリと震えているのだ。この心地よい痺れこそが、僕の力の強大さを教えてくれる。本当にすごい!
ほら、皆だって僕のことを尊敬している。アルベルトさんだって!
やっぱり僕は槍の勇者なんだなぁ。本当に嬉しいよ!
ゴミカスと一緒にラジーナちゃんも消えちゃっけど、まあいっか!
だって、こんなに凄い僕ならばきっと他にもたーくさんの可愛い子を見つけられるさ!
うふっ、あのゴミカスの悔しそうな顔が浮かんでくるよ。
なんだ、彼もラジーナが好きだったのか!まあ、死んじゃったけど……そう、死んじゃっ
「クククク……フフフフ……アハハハハ!!弱いよ!余りにも弱いよショウヤくん!そして、本当にダサいよ!お腹が痛くて堪らない!……ハハハ!どう責任取って『こうやってだよ』」
えっ?
なんで?なんでこんな声がするの?
そう、※※※の声が。
そして、ハッと後ろを振り返る。その瞬間──
「ぶっ飛べ」
「グボォッ!」
痛い!痛い!なんで?
なんで僕は地面に倒れているんだ!
いや、なんで蹴られたんだ!?
頬がズキズキとするけど、顔を上げる。パラパラと砂が落ちる。
本当に屈辱だ。誰だ、こんなことをしたのは。絶対に許さない。殺してやる。殺して、殺して、殺しテ……殺ス!
お前は、誰ダ!
そして、僕は見た。
禍禍しいあちら側からやって来た死神を。
~~~~~~~~~~~~~~~~~
ふー、何とか助かった。
正直あれが直撃していれば、俺の四肢はバラバラに吹っ飛んでいただろうが、それどころか今はこちら側から攻撃できた。
後ろに控えさせていたラジーナも回収したところで、【ゲート】を閉じる。
「ちくしょう、痛いよ、痛いよ」
ボロボロと涙を溢すカリドを見て、瞬間アルベルトの空気が替わった。
「貴様というやつはっ!」
アルベルトが一瞬でこちらに迫ってくる。恐らく何かの体術だろうが、まともに食らってやるつもりもないので、防御に講じる。
丁度試してみたいことがあったんだよな~
「はっ!」
剣を抜き振りかぶろうとしたところで、
「【ゲート】」
カギィンと耳障りな音を立てて、アルベルトの剣が跳ね返される。「チッ」と毒づきながらもそこは流石に熟練者、追撃を許さぬバックステップで待避した。
「なー、やっぱりか」
そこで確信を得た俺は、この戦いは勝てると踏んだ。
──虚──
……呻く人間が三人。
勇者以外のゴミカス達だ。
【ゲート】のテレポーション能力でちゃちゃっと処理してやった。次期に死ぬだろう。
そして、残るはカリド一人のみ。
「……アルベルト、さん?」
無駄だ、さっさと死ね。
「【ゲート】」
ザシュッ
「ウワァァァ!!ろ、ろ、ろ、【聖槍】ぅ!」
「【ゲート】」
ザシュ
「【ゲート】」
「【ゲート】」
「【ゲート】」
「【ゲート】」
ザシュザシュザシュザシュザシュザシュ……
「……ぅぅ」
……呻く人間が四人。
訂正、一人。他三人は死んでいた。
「……」
「……」
無言でカリドに歩み寄る。
……にしてもすごいな、こんなにボロボロになってるのに、聖槍を手放す気配すらない。
大事そうに握りしめている様は、なんというか……子供だな。
「……死ね」
ナイフを、掲げる。
ボロいナイフ、ゴツいナイフ、盗賊のナイフ。
だが、殺せるんだよなぁ。
「……ろん……ぎ……す……」
「え、なんだって?」
血だらけでひび割れた唇が何かの音を紡ごうとするが、上手く音にならない。
「……ろ、ろん……【聖槍】!」
「ぇは?」
閃光が足を貫いた。
「ちょまっ……痛っ」
脚が弾けとんだ。思わず地面に崩れ落ちる。
「……痛っ……ぁぁ」
痛い痛い痛い痛い痛い痛い……だが、カリドはすぐそこ。
すぐそこに倒れ伏している。
俺の負傷は脚一本、それに比べてカリドは全身。
「今なら……やれる!」
その瞬間、カリドの顔が恐怖で歪もうとする……が、そんな力も残っていないのか、すぐに呻きだす。
「……ぁぁっ!」
這いずる。後一メートル。
這いずる。後三十センチ。
這いずる。後十センチ。
這いずる。着いた。
そして、殺す。
「……うわぁ!」
心臓に、ナイフを突き立てた。
その瞬間、意識が遠くなる。
その、遠くなっていく世界で俺は思った。
……世界ってこんな無機質だったか……?
──そんな訳が、ないだろう?
カリド編(仮)、次が本番です。