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5億年ボタン押したら異世界だった件  作者: 伏見ナリヤ
リオニア編
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第四話 勇者と不良は紙一重

更新が不定期ですいません。

「今から、モンスター討伐を行ってもらう!」


 は?

 頭大丈夫かこいつ?

 ここは、古代ギリシャのスパルタじゃないんだぞ。時代と地図見ろよ。


「モンスター討伐か。おいシバタ!それは楽しみだな!」


 あぁ、君までどうしてしまったんだい?カリド君! 君までおかしくなってしまったら、僕は一体どうすれば良いんだい?

 

「異論は無いようだな?」

「……」

「よし」


 おいおい待てよ!

 よし。じゃねぇよ!

 (自分が返事しないからなのですが……。)

 どうしてみんなそうやって冷静でいられるんだい?

 ここは七十五歩譲って、モンスターがいると仮定しよう!

 異世界だしな、いてもおかしくは無いかもしれない。

 だがな!

 どう考えたって、モンスターとかいう物騒な奴と闘うなんて危なそうじゃないか!

 君子危うきに近寄らず。ってな!


「ちょ、ちょっと待って下さいよ……」


 勇気を出して、教官に抗議する。


「なんだ?嫌なのか?それなら帰ればいいでないか?」


 くっ!

 出ました!

 だったらやらなければ良いじゃないか戦略!

 確かに正しいのかもしれないが、人間そうやって逃げられることなどほとんどないんだよ!


「戦闘経験も無い自分達に、モンスターの討伐は少々重みに過ぎるのでは無いですか?」

「全く持って、大丈夫だと約束しよう。私が君達を全力でサポートする。万が一に備えて一切の抜かり無い準備もしておるのだ!」

「だってよ、シバタ!どうせ冒険者になるんだから、モンスター討伐は本分だろ。その経験が、早いか遅いかでしかなくないか?ましてや、教官のサポートを受けて初めての討伐をする方がよっぽど安全だと思うが」


 全く持って正論だが、ここでもって、常に安全という檻で囲まれてきた現代日本人代表、シバタ・ショウヤという男の不甲斐なさが露出する。


「確かにそうだが、だが……」


 痛てっ!


 急に頭痛が俺を襲い、急に思考が何処か遠くに流された。

 今まで何かの話をしていて、何かに怯えていた気がするのだが、何の話だったか全く思い出せない。

 (本人は全くもってふざけてません。)


「すいませんけど、何の話でしたっけ?」 

「は?モンスター討伐の話だろ?今話してたじゃないか」

「あっ、そうですよね」


 ……モンスター討伐の話だったのか。

 あぁ、そんな気がするな。

 でも、何で怯えていたのかは今だ分からない。

 そんなもの、チートを与えて貰った俺ならば瞬殺だろうし、盗賊だってやっつけた。

 余裕だろうに……。

 自分が何を考えていたのか分からない……。

 (本人は全く……後省略。)


「分かりました」

「あ、あぁ。了解してくれたなら何よりだ」


「では、改めて。今から、モンスターの討伐を行ってもらう!まずは役職決めだ。その参考に現在の保持スキルとコストを教えてもらえればありがたい。先に言っておくが、スキルプレートは、『スキルオープン!』で開く。書いてあるだろうが、一応コストの上限は全員100だ。分かったな」

「「「了解!」」」


 へー、あれはスキルプレートっていうのか。


「カリドはスキルプレートを見たこと無いのか?」

「あぁ。冒険者とか以外は基本スキルの見方を知らないからな」

「そうなのか?俺なんか、前に適当にやってたら開けたぞ」

「は?」


 カリドは何か聞いてはいけないことを聞いてしまい、結果なかった事にしようと因果律をねじ曲げようとした奴と全く同じ顔をしているが、いい子なカリドくんに限ってそれはないだろう。……あれ、知らぬ間にどんどん皆スキルを言っていっているぞ。


「【フレイムフレア】 、コスト35よ!」

「【身体強化小】、コスト10だな。」

「【聖光(ディスティル)】 、コスト50です」

「【聖槍(ロンギヌス)】、コスト……80……?」


 へー、スキルコストも言っていくパターンなのか。

 ……次は俺の番だ。しっかりと教官の目を見て言った。



「【雲隠れ】、コスト100」


 その瞬間、教官が吹き出した。

 その後ゲホゲホとしばらく咳き込み、涙を浮かべた目で俺を見る。そして、また笑いだした。


「っは!馬鹿か貴様は……何だって、スキルコストが……100?寝言は寝て言い給へ……くふっ、くふふ!」


 何だ突然に失礼な奴だなと思って回りを見てみると、皆一様に怪訝な表情を浮かべていた。そう、痴呆を見るかのような表情を。まじで理由が分からないでいると、


「……くくっ……はぁ、ごほん!……いいか?シバタ・ショウヤ君……くはっはは!……スキルのコストはそのままスキルの強さに直結するんだぞ?因みに現在最高のスキルは、勇者シャルル様の【聖剣(デュランダル)】の85と言われている。それを踏まえてもう一度問うぞ?……本当に、スキルコスト100なのか?もしもそうなら、本部に来てもらおう……ってクハハハハ!もう耐えきれん!まさかこのマニュアルを読み上げる日が来るとはな!……ククククッ……フハハ!」


 何て失礼な奴なんだ!こいつ常識というのを身に付け忘れたんじゃないのか?酷すぎて目眩がするわ!


「ふん!」

「……ちょ、おまっ?な、なにを…………!!!」


 教官の頭を掴み、しっかりと俺のスキルプレートを見せてやった。すると、流石に気づいたか。



「……嘘だろ!!コスト100のスキルが存在する訳が!!な、ない!断じてない!あってはならない!絶対にあってはならないのだ!!」


 未だに認めようとしない教官の男は、目を皿のようにして俺のスキルプレートを睨み付けている。そして、急にホッとしたような顔をした。


「な、なんだこの弱そうな能力は。うんそうだ、きっと弱いのだ。はは、何て事だ!きっとこれは表示間違いだぞ?そうだ、そういうことにしよう!貴様のスキルコストは……能力を鑑みれば、40といったところか……まあ、なんだ?十分高いからな!がっかりするなよ?」


 ……ここって猿の惑星だっけ?

 この世界こんなんで大丈夫なのか?どう見たってスキルコスト100って書いてあるのに40?

 判断力の欠片もない彼に乾いた笑いしか出てこない。

 そして、それを納得したように見つめている他の奴等も同様だ。



「……こほん!取り乱してすまない。重ねてすまないが、シバタ・ショウヤ以外のスキルの情報が全て頭からぶっ飛んでしまった。もう一度頼む」


 マジかよ。

 このおっさん。

 忘れるとか無いだろ普通。


「【フレイムフレア】 35」

「【身体強化小】10」

「【聖光(ディスティル)】 50」


 もう皆、言い方が適当だ。そして、


「【聖槍(ロンギヌス)】 80」


 ………

 ……

 …


聖槍(ロンギヌス)!!なんだって!!」


 二度忙しい人だなぁ。

 ここまでくると他の皆も苦笑いしている。


「えっ!なんか問題でも?」


 心配そうにカリドが問いかけた先、そう教官は──突然土下座した。


 

「す、すみませんでした!!愚かな男の茶番劇に気を取られて、スキルを聞いていなかったなど、断固道断!本来ならば極刑に値しますが、どうかお許しを!!……か、カリド様!ぼ、冒険者ギルド・リオニア本部教官、アルベルトの名において、──槍の勇者の地位を保証致しますので、どうか、どうかお許しをぉ!!」


「は?」


 おいおい!本人もビックリしているが、こっちだってビックリなんだぜ。俺のスキルで一通り騒いだ後でこれなんだから当然だ。何度こいつの頭がおかしくなったと思っただろうことか。


「あ、ああ!説明がまだでございました!本当にすいません!!では、説明させてもらいますと、【聖剣(デュランダル)】【聖槍(ロンギヌス)】【聖弓(フェイルノート)】の御スキルの保持者様には、それぞれ剣の勇者、槍の勇者、弓の勇者の地位が授けられてきたのです。そして、これが勇者様の本質であって、それは庶民が知ることはありません。また、これは既にお分かりの通り、その権限は一国の君主をも超え、この世界の要といっても差し支え無いほどであります。それほど、【聖剣(デュランダル)】【聖槍(ロンギヌス)】【聖弓(フェイルノート)】のスキルは強力であらせられ、保持者様は尊いのです!」 


 沈黙。



「勇者ってあのシャルル様、ブラディオ様、マリキューリ様達のことですか?」


 そして、始めに口を開いたのはカリドだった。


「そうです」

「俺が、それに?」

「はい。先代槍の勇者・ブラディオ様がつい先月、儚くなられたので、その際に他の人に宿ったであろう【聖槍(ロンギヌス)】をずっと探していたのです。それが今代槍の勇者のあなた様だったということです」



 どうやら凄いことらしいな、勇者とやらは。

 カリド君も相当に驚いている。

 この教官もそれらしき説明をつけているので嘘では無いだろう。

 だが、それだと俺のコストの異常性がますます際立つような気がする……。

 やっぱりチートなのか!?

 でも性能がな……。

 もっとパァーとしたやつが欲しかった。


 「お望みになることがあれば何なりとお申し付けください。このつまらない検査など受けなくても宜しいのですよ」


 自分の職業に誇りとか無いのだろうか?

 気づけば、教官はあからさまに媚を売りに行っていた。

 そんな残念教官を眺めながら、果たして勇者とやらがどこまで強いのか考えていた。

 奇しくも、その疑問は解消されることとなる。


「ちょっと話が追い付かないんだけど、俺ってこの国の王様とか他の国の一番偉い人より偉いってことになっちゃったわけ!?」

「当たり前でございます」

「マジか!それって最高じゃね!なあ、シバタ!」

「そうだな」

「なんだよ、つれないなぁ!……でも、どうしよっかな!」


 カリド君は何か考え込んでいるようだ。

 俺なら今すぐ何かをするってことはないと思うが、果たしてこの場で何がしたいのだろうか?

 まぁ、何なりとお申し付けくださいって言われたら、考えたくもなる……か。


 考え込んでいたカリド君は、急に何かを思い付いたように顔をあげる。

 そして、


「ねぇ、そこの緑の髪の娘、そう、君だよ!名前を教えてくれないか?」


 どうしてそんなことを聞く必要があるのだろうか?


「……ラジーナ」

「ラジーナか。かわいい名前だね」


 そこで、カリド君は満面の笑みを浮かべる。


「なっておくれ、僕のものに!」


 あまりに唐突過ぎるそのセリフには、明らかに愛の告白を含んでいた。

 

 だっさ。

 特に言葉選び。


「ラジーナ様に婚姻を申し込むのですね」


 アルベルトが無駄な補足をつけてくれる。

 後に敬意を示す相手になるだろうということを考慮してのことか、しっかりと様付けだ。

 ただ、意味がわかったところで……。


「おい!カリド、唐突過ぎないか?お前らはまだ、会ったばかりなんだろう?」

「シバタ、僕はラジーナちゃんに聞いているんだよ?」


 一蹴されてしまった。


「どうなんだい?ラジーナちゃんは?」

「……嫌」

「何だって?全然聞こえないよ」

「嫌!」

「どうして?」

「嫌なものは嫌!」

「はぁー、しょうがないなぁ。それじゃあ」


 諦めたのだろうか?


「ねぇ、アルベルト?」

「はい」

「僕って槍の勇者だよね」

「はい」

「王様とかより、よっぽど偉いんだよね?」

「はい」


 一拍


「ラジーナちゃんが断れるのっておかしくない!?」


 怒気を孕んだ声が辺りに響く。


「あっ、はい……。断ることはできないかと」


 教官もつい、ビビってしまったようだ。


「だそうだよ!ラジーナちゃん!」

「で、でも……。嫌な物は嫌!」

「君に断る権利なんて無いんだよ!何回言ったら分かるんだ!」

 (一回しか言ってないです。)


 そう言って強引にラジーナの手を掴む。


「おい!」


 遂に堪忍袋の緒が切れた俺は、ラジーナからカリドの手を引き剥がす。


「何をするんだ!」


 何がするんだ、じゃない!

 こいつは、浮かれポンチになって、人としてやっていいこととやっていけないことの区別がつかなくなってきている。

 そこをしっかり教えなくては。


「カリド!ラジーナは嫌がっているじゃないか!止めてやれ!」

「なんだい?そうやって人が成功者になった途端、嫉妬して邪魔をし出すのかい?そうか、そうか、つまりきみはそういうやつなんだな!」

 

 エー○ールか!


「ふざけるなよ、何が成功者だ。お前は努力など全くしていないじゃないだろ。笑わせてくれるな」

「ひっどいなあ。天が努力してきた僕を選んでくれたんだよぉ。それによって得られた権利を使うなんて当然じゃないかぁ。口を出すなよぉ、何も分かってはいないくせにぃ」

「おいおい、いい加減にしろよ。百歩譲ってそうだったとしても、、人としてやってはいけないこともあるだろ」


 威勢良く啖呵を切ったのは俺だけで、他の奴はまるでゴミを見るかのような目をしている。


「アルベルト!勇者に楯突く奴は処分していいのかなぁ?」

「勿論でございます」


 アルベルトも糞だ。


「だってよぉ、シバァタ君!僕の『聖槍(ロンギヌス)』を食らってどこまでその威勢が続くのかなかぁ?楽しみだなぁ!」

「このアルベルト、全力で協力させてもらいます!」

「「私たちも協力させてもらいます、槍の勇者様!」」

「可哀想だよぉ。僕だけでも過剰戦力なのにぃ」


 他の二人も糞だ。

 糞しかいない。

 権力に怖じ気づく糞が。


「そっちこそ、使ったこともないスキルに過信して大丈夫なのか!」

「なんだよぉ、モンスター討伐にビビっていたのは何処の誰でしたっけぇ?」

「ちっ、糞が!」

「お前も協力してくれるか、ラジーナ?」 

「……はい」


 流石にラジーナは協力してくれるようだ。


「どうしちゃったのかなぁ?返す言葉もなくて困ってるのかなぁ?」

「あれぇ?ラジーナちゃんはそっちにつくの?まぁ、直ぐにその屑から取り戻してあげるよ! 待っててね!」


 スキルについては昨日の町に行くまでの道中で、散々調べ尽くした。

 こんな馬鹿野郎に負けるスキルではない。

 腐ってもコストフル使用の、ブッパスキルなのだ。

 使い方によっては最強だ。

 世界を味方に着けるのだからな。

 

「見せてあげるよ!槍の勇者の力を!【聖槍(ロンギヌス)】!」


 始まった。

 カリドがスキルを発動した瞬間、眩い光と共に俺が知っているかの有名なフォルムの槍がその手に握られていた。

捻れ、二股に別れた先端、など完全に再現されているその【聖槍(ロンギヌス)】を腰を落とし、此方に向けて構えるカリド。

 

 その瞬間。


「消えて無くなれぇ!」


 轟音!!


 カリドのつきに応じて、槍から伸びてきた光の本流が直撃し凄まじい爆発を引き起こした。





━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━





 *世界百科辞典*

 file4「勇者」

 基本的にこの世界において、勇者と言うのはユニークスキル聖剣(デュランダル)、【聖槍(ロンギヌス)】【聖弓フェイルノート】を持つ三人の総称である。

 それぞれ剣の勇者、槍の勇者、弓の勇者として、一国の君主よりも強大な権力をもつ地位を与えられる。

 彼らが世界を守っているとされ、民衆からも絶大な信頼を得、尊敬の対象になっている。

 スキルの強さ(コストの大きさ)の順番は剣>槍>弓である。

 また、このスキルは保持者が死んだら新たな者に宿るが、新たな者に宿って最低五十年は他の者に宿らない。

 このスキルを持つ人間はこの世界に同時に二人は存在しない。

 これが、ユニークスキルの本質である。



剣の勇者、槍の勇者、弓の勇者ときて、……あれ?

ってなった人すいません!

勇者ってあんな感じなんで……。

察して下さい。

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