第三話 冒険者ギルドはなかなか小綺麗
主人公にはご都合主義の犠牲になってもらって、ちゃちゃっと話を進めさせます。
眩しい日差しが部屋に差し込む。
この町には大きな時計塔があるがこの部屋から見るに、6:50を指している。
「って、朝食の時間に遅刻するぅ!」
今更ながら遅刻の可能性に気づいた俺は、急いで手櫛で髪を整え部屋を飛び出す。
俺は学校で遅刻したこと無いのが自慢なんだよ!
「おわぁ!」
部屋のある二階から、朝食をやっている一階へと降りる階段
その途中で、転びそうになる。
小さい頃、地下道から落ちた苦い経験がフラッシュバックしているが、無視だ、無視。
イグノアぁ!
「今日のメニューはとコラッチュア、ババレロだよ」
慌ただしく降りてきた俺に、給仕係が今日のメニューを伝えてくれる。
うん。
ありがたいんだけどね……。
うん。
何言ってるのか分からない……。
取り敢えず空いている席に座ったら、隣の男が話しかけて来た。
ゆっくりさしてくれよ、遅刻しそうになったってのに。
あんまりイベントは放り込みすぎるとついキレやすくなっちゃうだろ?
「珍しい格好してるな。この町は初めてか?」
「はい」
「俺はこの町に住んで二十年になる。分からないことがあったら何でも聞いてくれていいぜ」
だからどうしたの?
何?ベテランぶりたいの?
ちょっとぶっ飛ばしてやりたかったが、ここは視点を替えて我慢しよう。
有用な情報交換の場、だとな。
うんうん、そうだよな?
そうだろ、そういうことだ。
「では、早速一つ聞いてもいいですか?」
「おう!」
「この町には大きな時計塔が有りますよね?あの建物は、誰が建造したんですか?」
正直ずっと気になってたことをさりげなく聞いてみる。
この情報は正直個人的に気になるんだよな。
前の世界とも通じていることがありそうだし。
「おいおい、にいちゃん。そんなことはこの町に来たことない子供でも知ってるぜ。俺が聞けって言ったのはそんなことじゃない。それなら俺じゃなくても答えられる。……って、まさか聞いたことないのか、大天使アリエル様にまつわるお伽噺を?」
少し残念な人を見るような男の視線に、多少イラッとしながらも、ましで、そんな常識レベル?、と驚愕する。
アソパソマソ並み?
「残念ながら」
こう、答えておくしかないか……
「しっかりしてくれよ!まぁ、今回は話してやるよ。サービスだ」
……。
こうして男の話を聞いたんだが、所謂大天使アリエルがこの地を平定したっていう英雄譚であった。
その話によると、アリエルがこの地を去るときにあの大きな時計塔を据え付けた、らしい。
要するに、あの時計台があるからこの町はこの地で発展できているわけか。
ついでに朝食は旨かった。
見た目だけで判断するとパンとシチューという無難な感じだったが、材料を邪推するのは止めておこう。
ますます気になったんだが、この世界の住民はアリエルとだけ深い関係があるのは確定だろう。
俺の世界で知られている他の大天使が登場する気配がしない。
俺の世界で言うミカエルやガブリエル等を差し引いて、アリエルだけが存在するのは考えにくい。
あまりにぶしつけかもしれないが、有名度という観点からすると残念ながらこれらにアリエルは遠く及ばない。
その辺のことも踏まえて、一応聞いてみよう。
「大天使様ってアリエル様だけなんですか?」
「あったり前だよ」
即答。
「ミカエル様とか、ガブリエル様とかはご存じないですか?」
「なに言ってんだか。大天使様はアリエル様一人だけに決まってるだろ?お前のその考えの源泉が全く分かんねーよ」
「あはは……」
これで、疑問が確信に変わった。
おかしいやつだと思われたようだが、報酬はデカイ。
この世界の人は基本的にアリエルしか知らないのだ。
これがどういうことを意味しているのかはよく分からんが……
その後も談笑を続けた。
ここでは、良い情報収集が出来たとだけ伝えておこう。(疲れたのかな?)
あぁ、朝食は中々に量があったので昼は必要ないだろう。
「今日は何をしよっかな?」
取り敢えず宿を出てみたが、なにもすることがなくてすぐに困ってしまった。
ゲームがしたいなぁ。
現代日本がどれだけ恵まれていたかを思い知る。
とにかく考えて……
「あ!昨日冒険者ギルドの地図を貰ったんだった!」
俺の頭が都合よく思い出してくれたので、目下最大の懸念は払拭されたようだ!
グッショブ!
地図を見るに、冒険者ギルドは町の中央にある。
ここは町の東に当たるから、西だな。
少し遠くてめんどくさいが、だからといって他にすることもないので行くしかないか。
そうして、町を歩きながら物の相場を調査しておく。
ぼったくられたり、騙しとられたりするのは、私の性に合わん!
って、どっかのネオジ〇ンの大佐が、言ってたことをもじってみたのだが……
(ちょっと何言ってるのか分かんないですね。)
そんなこんなで、屋台を見て回って日常品の相場は大体把握した。
銀貨は銅貨に替えておいた方が使いやすそうで、香辛料の類いがちょっと高いかなぁって感じだ。
予想範囲内だ。
そうこうしているうちに、遂に目的の建物が見えてきたようだ。
「おお!」
そこに聳え立つのは、俺のちっぽけな想像力を嘲笑うかのように存在する超弩級の建物だった。
まるで王宮のような佇まいは、冒険者ギルドの時の権力を誇示しているようだ。
冒険者ギルドと言いながらも、実際はデップリ太った戦闘力ゼロのオッサンが支配しているのだろうか?
そう思わせるほど、その外見は冒険者というイメージからかけ離れているように見えた。
だが、所詮一大衆である俺がそれを確認する術は無いのだよ。
とにもかくにも、人混みに紛れて建物に入ってみる。
常に人の流れがあるので、俺一人が入ったところで全く違和感がないのが僥倖だな。
入って正面にはたくさんのカウンターがあり、裕に二桁に届くだろう数の受付嬢が冒険者らしき者達の相手を忙しそうにこなしていた。
ならず者のイメージがある冒険者だが、この世界では規律正しく並んでいるし、応対にそこまで無礼さを感じさせる者もいない。
なので、揉め事とかは無さそうだな!
良かった……
(どっちかって言うと、すぐに盗賊殺しちゃったりする主人公の方が……)
並びながら辺りを見渡すと、冒険者の服装はやはりというか革鎧に毛皮が多く、ギュルハネのような金属製のような鎧は見当たらない事に気づいた。
やっぱ、がち勢だな。あのおっさん。
ドラゴンとか倒せんのかな?
おおっと!順番が来たようだ。
これ以上はよそ見禁止だな!
「依頼の受注ですか、要請ですか?」
「いえ、冒険者ギルドに新規登録をしたくて、ここを訪れたんです」
「あっ、はい!新人さんですね。了解しました。それでは此方の用紙に必要事項を記入して下さい」
この世界にも紙はあるんだな。
そんな少々不躾なことを考えながらも、書き終える。
人に迷惑を掛けない男なのだ!(8割方)
「名前はシバタ・ショウヤ。歳は28で男、ですね?確かに承りました。仮登録が完了しましたので、適正検査があります此方にお向かい下さい」
そう言って指示されたこの建物の中にあるらしい別部屋に赴いている最中だった。
見知った顔を見かけた。
ここに居るって言ってたしな。
あちらも此方に気づいたようで、近づいてくれる。
「おぉ、お前か。来てくれたんだな。感謝する。冒険者ギルドはもう登録したか?」
「いえ、まだです。今から適正検査を受けなければなりません」
「そうか、頑張れよ」
そして、会話を始めた俺達に近づいて来る男達。
一人はもちろんギュルハネだ。
というか、それ以外に知り合いがいない。
注釈:だが、見た目チャラいのがくっついてる。
「会長、また新人ですか?サポートするのは良いですけど、過労で倒れないようにしてくださいよ」
「大きなお世話だ」
「あの、貴方は?」
「あぁ、ごめん、ごめん。僕の名前はミドハト。冒険者連盟の副会長さ。宜しくね」
そのように名乗ったこのチャラ男も、良さげな防具に身を固めている。
決して重装備ではないが、滲み出る高価さは打ち消すことができないな。
「此方こそ。そろそろ、適正検査に向かわなくてはならないので、また今度ゆっくりお話しましょう」
「あぁ、そうだな。頑張れよ」
「頑張ってね」
二人の声援を背に受け、一人俺は会場に向かう。
***
「適正検査は十時からだ。それまでここで待つように」
会場に着いた途端こう言われた。
なので、おとなしく待つことにした。
待てる大人として、会社で調教された俺には問題なし!
だが、同時に待たせない訓練もされたがな!
理不尽だ……
そんなことを言っても仕方がないが、周りにも同じく待機を言い渡された同胞達がいる。
自分を入れて、男3人女2人の計5人だ。
皆黙っていたが、やがて男の一人が話しかけて来た。
茶髪で活発そうな少年?だ。
「どうして、冒険者になりたいんですか?」
馴れ馴れしい奴だ。
目上を敬え。
あぁ、それはそれで問題がある考えだと偉い人が……
なんか、前もそんなこと考えてなかったか?
まぁ、どうでもいいか。
あぁ、そういえば何の話だってかな?
冒険者になりたい理由か……
あぁ、なんでだろ。
考えたことなかったわ。
異世界に来てから今まで、何となく流されるままにやって来たが、思考が単調になってないか?
異世界=冒険者、みたいな……
あぁ!もう!考えても仕方ないや。
ここは必殺の常套句で押し通す!
「何となくかな?」
「何となくですか?まぁ、何となく冒険者ってかっこいいですよね。分かります。自分もそんな感じですから。ギュルハネさんを見て憧れてしまいました」
なんか、いけたみたいだ。
チョロい。
攻略難易度2ぐらいだったらしい。
「あぁ、ギュルハネさん。確かにかっこいいですよね」
「折角なんで、こんな堅苦しくせずに気楽に話しません?」
「と言うと?」
「敬語は無しで!」
「あ、はい……。分かりまし…分かった」
「そんな感じで」
もとの世界だったらこんな馴れ馴れしいやつは一瞬で無視決定、後にバイバイフォーエバーだが、ここは異世界。
知り合いは多い方がなにかと役に立つだろう。
そう考えて我慢する。
学生ではキャッキャウフフ系ではなかったからな。
え?僻んでるって?
五月蝿いな、馬鹿にするな!これでも一応も何もないが、立派な社会人なんだぞ!
「名前を教えてくれないか」
「俺の名前はカリド。そっちも教えてくれないか」
「俺はシバタ・ショウヤだ。宜しく」
「こっちこそ」
別に聞きたくもなかったが、一応名前を聞いておいた。
おおっと、また口の悪いことを言ってしまった。
だが、勘違いしないでおくれ、本当は優しいんだよ!
小学生の頃から通知表には、本当は心優しい子です、って書かれてたから間違いなし!
「よし!十時になったぞ。適正検査を開始する。着いてこい!」
そう言って、教官が言い放ち、建物を出てどこかに向かい始める。
外でやるのか。
なんか、こういうのって楽しみだな。
ちょっとダルイが……
「今日ってなにするんだ?」
カリド君が聞いてきたが、こっちとて知らんな!
逆にこっちが色々聞きたいくらいだ!
つい、昨日この世界に来たと言ってやりたい。
まぁ、そんなことを言う勇気もないが……
「俺も知らないな」
「そうか」
「あのさ、あの緑の髪の娘かわいくないか?」
おい、話変わりすぎだろ。
ちょっとは、話の流れを吟味しやがれってんだ。
それでも、それらしき人を探してみる。
親切なんだ、俺は。基本的に。
んー、どれだろう?
あぁ!確かに居るな、緑の髪の娘が。
待合室では、気にしてなかった。
というか誰も気にしてなかった。
……うん、大人しそうだが確かにあれは可愛いの分類に間違いなく入る。
悔しいが、カリド君と同意見だ。
「そうだな。共感する」
「やっぱそうだろ!ははは!」
そんな笑うことか?
そう言えば、他の3人はさっきからずっと黙っている。
緊張してるのか?
なんか、話しかけてみたいようでめんどくさい。
それが俺の性分だ。
その後も俺達は進み続け町を出てもさらに進み、森を前方に控えたところで遂に教官が立ち止まった。
そして……
「今から、モンスター討伐を行ってもらう!」
と宣いなさった。
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*世界百科辞典*
file3「リオニア」
その名前は大天使アリエルの呼称、神のライオンに由来する。
かの大天使が、かつてこの地に巣くっていた邪龍「バルトニア」を討伐し、定住が出来なかった当時の民に安寧の地を与えたというのが、この町の始まりとされる。
その際大天使アリエルは、灼熱の焔、度繰り返される雷撃、大規模かつ瞬間的な地殻変動など、様々な技で邪龍を圧倒したとされる。
現在のどのスキルでも再現不可能だと推測される超級の威力であったと言い伝えられる。
また、大天使アリエルはこの地を平定し立ち去る際に、巨大な時計塔を据え付けたとされ、この時計塔は今でも人々の営みの中心である。
話が全然進まない・・・