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5億年ボタン押したら異世界だった件  作者: 伏見ナリヤ
番外 リオニア建国編
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番外編 第五話 宝

 前回までのあらすじ

 バルトニア討伐パーティーが結成されたもよう。

 そうか、まだ用事があったのだ。

 この頭の悪い魔人の財宝を少しだけ拝借させてもらわなければならない。


 勇者達にその事を告げると、財宝を探すべく探知を開始する。

 まあ、探知といっても強化された聴力で空気の流れなどを解析して空間を把握するだけなのだが。

 すると、すぐに見つかった。

 正直探知などを使わなくても見るかるような分かりやすい場所にあったのだ。


 今、俺達がいる部屋から奥にのびる通路をまっすぐ行けば自動的に着ける部屋に、様々な財宝が置かれている。


「くるか?」


 一応声を掛ければ、全員が頷いた。

 特に気にすることもなく、それらを伴って通路へと歩を刻めば、日光が届かなくなり必然的に闇へと包まれていく。


「く、暗いですぅ……」


 いっそ演技かと思えるほど分かりやすい怖がり方をするエルだが、別にどうとも思わないのでそのまま奥へ奥へと歩き続ければ、やがて広い空間に出くわした。

 

 これぞ、あの頭の悪い魔人の宝物庫なのだろう、金銀はもちろん何か分からないような物までありとあらゆる宝物がうず高く積まれているようすに、あの魔人にしては頑張ったなと謎の感慨が浮かんでくるが、だからといって利用しない手はない。


「……全部持って帰るか」


剣の代価としてどれくらい必要なのかはさっぱり分からないから、結局こういうことになるだろうと思っていたが、勇者達はそうもいかないようで、


「ぜ、全部!?これを?む、無理だよ!」


 どうやらその量の多さに無理を感じたらしい。

 まあ、無理だわな。


 重量的には余裕だが、体積的に無理がある。

 俺のサイズはいたって普通の人族と同じなのだ。


 まあ、その辺のことも考えてあるから、結局問題無いのだが、それを勇者が今理解する必要はない。


「少し待ってろ」

「「え?」」


 疑問の声が発せられる頃には、既に俺は洞窟を抜け出していた。

 

 そして、目の前の森林に探知を発動し、目的の物を捜す。


 ……すると、すぐに見つかった。

 森の中で中型の飛竜らしき物を補食している姿が、俺の探知に引っ掛かる。

 お食事中悪いが、死んでもらう。

 


 爆発的な加速が施された俺は一瞬で2a88ナリル(五キロ)の距離を跳躍すると、()()()の真上を取った。


 


 そして……踏み潰す。



「キシャイギュアァァアア!!」


 悲鳴が轟音と混ざり合い、分厚い砂埃が辺り一体を覆い尽くす。

 

 急降下した俺の体が、止まることを知らずにそのまま奴の体を押し潰したのだ。

潰され、見るも無惨に内容物をぶちまけるそいつから足をどかし、ひょいっと地面に着地する。

 

 


 その哀れなモンスターの名は【エンペラースパイダ】。

 出会ったが最後、生きては帰れないと恐れられ、飛竜すらも捕食するその超巨大蜘蛛であっとしても、バルバトスの前とあってはただの便利なモンスターに成り下がる。

 それもそのはず、バルバトスは初めから【エンペラースパイダ】など見てもおらず、その視線は足元に散乱する蜘蛛糸にのみ向けられているのだ。



「ふむ、ふむ」


 俺の着地したのは確かにこのばかでかい蜘蛛の補食用の巣の上で、俗にクモの巣とか言う奴の上であるのに違いはないが、サイズは一般常識とやらには当てはまらない。

 何故ならただの蜘蛛とは違い、こいつの巣は尋常じゃない量の蜘蛛糸で構成されているのだ。

 一本一本の太さ、強靭さもさることながら、だ。


 ちょっと邪魔な飛竜主の体をベリベリと引き剥がし、水平線の向こうまでぶっ飛ばして置き、これでやっと蜘蛛糸の収集に励む。


 一分後……


 俺の目の前には立派な袋と呼べるべきものが出来ていた。

 

 もしその様子を他の人間が見ていれば、卒倒したこと間違いないであろう作業が行われていたのは、言うまでもない。

 人間には遥かに視認不可能の速度で縦横無尽に織り込まれていく蜘蛛糸がみるみると巨大な袋の形を為していくのは中々シュールである。

 また、大抵の場合は気づくことすらないが、高速作業が生み出す風圧すらも彼は次の動作で絶えず相殺し続け、結果作業空間には無風空間が誕生していた。

 荒れ狂う風を制御してまで精密で完璧な物を作ろうとする彼には、いっそ職人魂のような物を感じるかもしれないが、彼にとってそれは無意識で行っていることに過ぎず、結局彼の異常なスペックの高さに話は帰結するのである。


 縦横3~4ナリル(3~4メートル)程度の大きさを誇るその純白の袋は、その頑丈さと柔軟性から後に国宝級のレア度となるのだが、それはまた別の話。


 まあ、そんな最高品質の素材を使って作った最高レベルの袋をまるで、ついでのように作ってしまうバルバトスの異常性はもう繰り返す伝える必要もないかもしれない。


 そして、当然の如く一瞬で帰還を果たした彼にかける言葉のボキャブラリーなど勇者達にはないわけで、ただ呆れるだけだったのは言うまでもない。


「で、その袋は?」


 しかしそれでも、謎の袋は何なのかを聞きたかったらしく説明を求めるが、その製作課程を余さず聞き終わった彼らの感想は、「聞かなかった方がよかった」に尽きることとなる。


 そして、いそいそと俺が財宝を袋に尽く詰め込んでいく様子を見ていた勇者達は、なんとも言えない表情で立ち尽くしていたが、やがてその作業も終わると大層なため息を一つ「はぁ」と付いた。

 そして、


「用事は終わったかい?じゃ、そろそろ帰ろうか」


 驚くことは最早無駄であることを早々に悟った勇者は、特にナニの感想を言うでもなく、帰還を促すだけだった。

 回りの人間はそうにはいかない様子だが、一度出来てしまった空気をぶち壊すのは中々に勇気が要るんだな。


 

 来た道を道なりに引き返し、徐々に外に近づいてきた頃、


「その、なんだ。勇者って言うのは止めて欲しいかな。君に言われても……ね」

 

 そんなホントにどうでもよすぎて一周回って驚くようなことを言う勇者……をマジマジと見るが、理由を聞くのもめんどくさいので、


「じゃ、リープクネヒトな」


 とだけ言っておく。

 満足したのかそれっきり勇……リープクネヒトが話しかけてくることもなかった。


 ……そして、一行は遂に陰気臭い洞窟を脱出した。

 いきなりの眩しい陽光に目を細め(俺以外)、死地を脱出したしたことに安堵の表情を浮かべる(俺以外)であった。


 

「では、皆一度アムネに戻る、ということでいいんだね?」


 一応確認をとるリープクネヒトだが、ここで反論する空気が読めないやつなんて居るはずもなく、リープクネヒトはすぐに前を向いて歩き始める。


 リープクネヒト、取り巻き達、エル、俺の順番でアムネ……リープクネヒト達の集落に行く道すがら、リープクネヒトはこのようなことを聞いてきた。


「君の強さの理由を教えてくれないかな?」


 どうやら気になっていたのはリープクネヒトだけではないらしく、取り巻き……ローザとアイゼッタ、エルさえも興味深げにこちらを伺っている。

 【超人】のことは教えかねるが、それ以外なら教えてもいいかと、俺は今までの事を語り始めた。

 


 ……部族との別れ、穢れ殺し、モンスター殲滅、【超人】に関すること以外全てを包み隠さず打ち明けたのは、これがはじめてだな、と謎の感慨に浸っているとやがて話は終わりを迎える。


「……ということだ」


 すると、彼らの反応はまちまちで口々にこんなことを言い始めた。


「それだけじゃ説明が……」

「えっ!私達と同い年!?有り得ない!!」

「……うぅ、大変だったんですね……ぐずっ……」

「……」


 おい、真ん中の奴、俺の年齢がどれくらいだったのか是非聞きたいな。返答によってはぶっ飛ばす。

 

 

 ……



 おい、なんか言えよ四人目!



 

 と、はじめの緊迫した空気などなかったかのような和気藹々とした様子で会話に興じる彼らだったが、やがて目的地は見えてくる。

 それが今、この時である。


「うん、見えてきたね。ようこそ、アムネへ!」


 明るいリープクネヒトの声が晴天に響いた。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━





 *世界百科辞典*

 file12「マクフォリア」

 天使のよって享受されたと一部の太古の伝承に記されてある剣。

 現在でもこの剣を再現することは不可能と言われている。

 密度という概念があるかは知らないが、とにかく体積に対する重さが尋常ではない。

 何か特別な機能があるわけではなく、究極的に実用性を高めた剣となっているがゆえに、使い手の技能次第では世界最高の武器となってその力を振るうことになる。

 しかし、人間ではまず持てない重さであり、それに見合う頑健さ、威力が保証されているので、人間以外の者が使う武器だと解釈されていた。

 ようは理を外れた剣は、理を外れた種族でしか使えないということである。

 その対象にはもちろんモンスターも含まれる。

 今ではもう伝承は途絶え、剣は行方不明になったため、最早この剣について知る人間はいない。

 巡り巡ってバルバトスに辿り着いた剣。

 誰も知ることはないが、それが事実である。



 早く集落に帰れ……

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