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5億年ボタン押したら異世界だった件  作者: 伏見ナリヤ
番外 リオニア建国編
12/36

番外編 第三話 魔人の洞

 前回までのあらすじ

 

 剣を無事手に入れたバルバトスは代金返済のため、魔人を伸して財宝をぶんどることにした。

「お前さん?一体どうしたんや?」

「言葉そのままだ。魔人を伸してくる」

「そんなの無理に決まってるだろ?」

「やってみなければ分からない」

「自殺行為でしかなんいやで、それ……」

「ほっとけ」

「いや、やけどな……」

「何とかしてくる」

「そういう問題じゃなくてやな」

「まぁ、任せとけ。じゃあな」


 半ば強引に武器屋の扉を開け放ち、


「では、行ってくる」


 俺は颯爽と出ていった。


 ………

 ……

 …


「もうどうにでもなりやがれ……」


 武器屋の諦めたような声が後ろに聞こえる。やけど




 ***




 勢い良く啖呵を切って外に出たはいいが、いかせん場所が分からない。

 集落の人間もえらい閉鎖的なので聞きにくいったらありゃしない。

 こういうときの門番なんだと思うんだ、俺は。


「魔人の住む洞っていうのは、どこにあるのか知ってるか?」


 ちなみに門番は交代している。


「村の客人か。で、魔人の洞だって?どうしたいのか知らないが、そこの方に森があるだろ、森が。真っ直ぐ行けば必ず辿り着ける。心配するな。その森の縁のどこかに岩盤地帯があってだな、確か……そこに例の魔人がいるという洞があったと思うんだが……。あ、そういえば、冒険していた勇者様達が森の崩れるのを見たとか言って、慌てて準備を整えるために此方に一旦戻ってきて、すぐに森の調査に向かってったぞ」

「そ、そうか……」


 何て行動力の早さだ。

 勇者達。

 十中八九、俺の「絶対切断」が原因の()()事故のことだろう。

 それにしても、ほんのさっきの出来事だったのにな……。

 もうばれてしまったのか。


 目撃者がいたというのは結構問題だが、幸にも誰の仕業かばれてなさそうだから、知らぬ存ぜぬで押し通そう……。


「何の用があるんだ?」

「ん?伸してくるだけだが?」

「魔人をか?ははっ!冗談面白いやつだな!」

「……」

「……本当なのか……?」

「……」


 既に門番は大分後方だ。

 まぁ、さっさと退散するに限るからな、こういう時は。



「おい!お前!待ちな!それだけは止めとけ!」


 おっと、門番が追いかけてきた。

 なんで、開幕フルスロットでダッシュする。

 要は逃げる、だ。


「ちょ、ちょっと待ちやがれ!」


 残念だが、【超人】とおいかけっこなんてしてもお話にもならないぞ。

 当然ぐんぐんと門番は遠ざかる。


「ッソ!、速!もう、どうにでもなりやがれ!」


 奇しくも武器屋と同じ事を言って諦めてくれた。

 まあ、本気の一割も出していないのだが。


 ……


 このまま、森まで突っ走ろうか?

 だらだら歩いて行っても時間の無駄だ。

 回りに人目はないので、遠慮することはないだろう……



 

  ***



 そんなわけで、森き着いた。

 二分くらいで。


 流石に本気で走ることは憚られたので、軽いダッシュ程度だったはずなんだが……。

 (10キロ程度あります)


 すると……


「キャアア!」


 何処からか、耳をつんざくような悲鳴が聞こえた。

 どうやら良くないことが起きているようだ。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




「【聖弓(フェイルノート)】使いとその仲間がこんなにもバルバトスと近くにいるとはね。これは大々チャンスだわ!」


「超人」の出現を受けて降臨し、バルバトスをずっと見ていた私だが、前々から思っていたことを遂に実行に移すときが来たようだ。

 長年の夢が遂に叶うのだ。


 これで、やっとバルバトスをバルトニアにぶつける作戦を始めることが出来るわ。

 バルバトス一人でトカゲ退治ってのもなんか変だし、仲間が欲しかったのよ。

 やっぱ、こういうのってパーティーがお約束だからね。

 まぁ、たかが人間がバルバトスの役に立てるわけもないけど……。

 形だけでもね。

 それだけじゃ不安たから私もパーティーに加われるようにしなくちゃ。

 戦力的には大丈夫なんだけど、うまいことあのトカゲにぶつけるように誘導しなくちゃならないからね。

 うん?

 あの魔人使えるかも?

 ちょうどいいところにいるじゃない。


 ここに来て、静かに暮らしたいだけの魔人は見つかってしまった。

 彼はもちろんなにも悪くないわけだが、奇しくもその存在を利用されてしまうこととなる。



 スキルで姿を消していた大天使は作戦とやらを開始する……。




 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~





 悲鳴が聞こえるのは門番が言っていた岩盤地帯とやらの方だ。

 ちょっと軽くジャンプしてショートカットする。

 大分この体にも慣れてきたので、どれくらい体を動かせるのかも予想できるようになってきた、ということはない。


 この体、まだまだやばそうな感じがいくつもするのだ。



 そして、悲鳴が聞こえた場所を細かく特定し終えた。


 間違いない、例の洞だ。

 魔人の住まう。


 さっと駆けつけて、迷いなく入ったその中で見たのはある意味予想通りの光景だった。


「ひっ!」


 よくわからんが燃え盛る人(?)みたいなのに、少女が追い詰められている。

 戦力差があるのは疑いようもない。

 勝負ですらない。

 

 どうせこの魔人は伸すつもりだったので、遠慮なくやらしてもらう。

 

 そして、背に背負った鞘から剣を抜き放とうとした、その時だった。

 

 邪魔が入ったのは。


「危ない!」


 その声に続けてやけに見慣れた光が魔人に直撃し、俺達の視界さえも多い尽くさんとする。


 それに遅れて轟音が辺りに響く。


 俺は、とっさに少女を待避させていた。




 そんなことも気にせずに、三人の人影が俺の隣に並び立ち、その内の一人は、




「大丈夫か?俺は勇者リープクネヒトだ」


 などという恥ずかしい自己紹介を行っていた。

 爽やか好青年だが、場所が場所だ。

 馬鹿ではなかろうか。


「危ないところだった。君達がこの魔人に挑むのは危なすぎる!ここは僕たちに任せるんだ!」


 ……。


「おのれ、因縁の敵、ここであったが百年目!」


 そんなことを叫びながら、勇者一行は謎の魔人に立ち向かい始めた。

 俺にいちいち突っ込む気力がないことを許してほしい。


 それぞれ、弓使い、魔法使い、盾使いと言った感じか……。


 そこから先はもう激戦だった。

 ああ、良くも悪くも……。


「【聖弓(フェイルノート)】!」 


 轟音、壁を抉る。


「【フレイム・フレア】!」


 勇者達の攻撃が連続して魔人に降りかかるが、防がれるか避けられる。

 勇者は光輝く光の矢を、やけに豪奢な弓につがえて放っているが、避けられるばかりで初撃のような満足の行くダメージを与えられていない。


 【フレイフフレア】とかいう火球を飛ばす魔法については、言わずもがなだろう。

 炎の魔人に炎をぶつけても全く聞いていないのが、分からないのだろうか。


「きしゃぁぁあ!」


 そのまま突撃してくる魔人。

 腕を振り上げ炎をたなびかせながら、強力な凪ぎ払い攻撃が勇者達を襲う。


「防いで!」

「……っ!」


 だが、盾使いが何とか守ったようだ。

 だが、火傷をしたりとしっかりダメージはあるようだな。



 にしても、一向に勝負の着く気配がしないじゃないか。

 そんな様子を俺と少女は唯々黙って見守り続けるしか出来ない、と思われている。


 やがて、


「はぁはぁはぁっ」


 体力が尽きたのか、勇者達が目に見えて疲れ始めた。

 これは勝負あったかと、交代しようと思いかけたその時だった。

 そこに一声、


「スキル【聖光(ディスティル)】が使えるんですが、使いましょうか?体力も回復しますよ」


 それは、意外にも大分落ち着いてきた少女の発した言葉だった。


「た、頼む!」


 大分余裕が無いのか、少女を頼ることにも躊躇いはないようだ。

 まぁ、正しい判断だ。


「【聖光(ディスティル)】!」


 眩しくも優しい光が辺り一面を照らす。

 その瞬間、勇者達の怪我や疲れが完全に吹っ飛んでいた。


「ありがとう!」


 爽やかスマイルを振り撒きながらお礼を言い、再び戦いに身を投じる勇者達。

 だが、所詮同じことの繰り返しだ。

 全く勝負が付かない。


「【聖光(ディスティル)】はあと何回使えるんだ?」

「二回……」


 案外少ないな。

 これは相当きつい戦いとなるだろう。

 さらに悪いことに、だんだん勇者達の攻撃が当たらなくなってきた。

 魔人が見切ってきた証拠だ。

 それに比べて、勇者達は相手に翻弄され続けているようだ。

 本来的に魔人の方が一歩上手なのだ。

 いや、勇者達が弱いのか?

 まぁ、どっちも大したことないのには違いはないんだが……。 


「協力してやろうか?」

「駄目だ!危険すぎる!流石に直接戦うことは自殺行為だ!」


 自殺行為はお前らだろ、と言いたかったが我慢しておいた。

 まだまだ、強がる気でいるらしい。

 だったらそれでいい。

 戦い続けろ。

 戦い続けることの大切さは誰よりもこの俺がわかっているはずだ。


 それから都合二度【聖光(ディスティル)】が勇者達に掛けられることになった。

 しかし、どんどん勇者達の疲れるスピードは上がっていくばかりで、戦況が好転するはずもなかった。


「勇者さん!【聖光(ディスティル)】はもうないです!絶対負けないでくださいよ!」


 少女の真摯な願いも無意味となりそうだな……。

 残念だが。


「あなたは戦わないの?強そうなのに」

「いいんだ、まだ」

「そ、そう……」


 あいつらの見栄を張れるところまで張らしておけばいい。

 これ以上張り続けられなくなるまで。

 俺が出るのはその後だ。


「ぐはぁぅ」


 倒れ伏す勇者達。

 その顔はもう瀕死の人間の顔その物だった。

 それに比べて魔人はいたく余裕そうだ。

 爛々と目を輝かして、今にも止めを刺そうとしている。

 こちらは歯牙にもかけていない、か。



 


「もう一度訊く、交代するか?」

「に、逃げろ!こいつは、強すぎる……!」


 そろそろ分からせる必要がありそうだな。

 魔人にも、こいつにも。




「ねぇ、にげよう?」と、少女は逃げることを促すが、そんな少女に向き合いたった一言、


「大丈夫だ」


 とだけ告げ、戦場へと歩み寄る。



 これから始まるのは、戦闘でもゲームでもない。


 蹂躙だ。



「ギィアウァア!!」


 魔人は気味の悪い叫び声を上げ、もう一歩も動けない勇者達に突進する。


 もう終わりだと、勇者達は目を固く瞑り己の最期を迎えるべく、心の準備をする。

 今までの思い出でも、思い出しているのだろうか?



 そんな彼らを見たバルバトスの姿が突如として、()()()



 少女は消えたバルバトスを探すが、どこにも見つからない。

 その代わり、隣には勇者達がドサッと()()()()()


「「え?」」


 勇者と少女の声が重なる。

 そして、


「ま、まだ逃げてないのか!?」


 己のことよりも、少女が逃げていないことを心配し、声を大きくした。

 そして、すぐにバルバトスの姿が無いことにも気づいた。


 そんな彼の目前にスッとバルバトスが現れる。

 そんな彼を見た勇者は、驚いた顔をするが、すぐにバルバトスの姿を見て安心した表情を見せる。

 そして、


「き、君も逃げるんだ……」


 どこまでも他人の心配をする勇者に、バルバトスは「フッ」とつい笑ってしまう。

 もう、これだけの不可思議が起こっているというのに、まだ人の心配ばかりしている。


 そんな勇者に、バルバトスはユラリと振り替えると、少し困ったような顔で、


「安心して見てろ」


 とだけ言って、元に戻った。

 その顔にはほんのりと恥ずしさがみてとれる。


 だが、それでも理解しないのが勇者品質。

 どこまでも、他人は守るべき存在なのだ。


「だ、ダメだよ!お、お願い、も、戻って!」


 勇者は必死に呼び掛けるが、そんなものを魔人が待つはずもない。

 自分の前に新たに現れた憐れな弱者に引導を渡すかのように、ゆっくりと手を絞り、振り抜いた。


「あ、アブなぁい!!」


 どこからそんな声が出るのかというほど、大声を出す勇者を無視して、魔人の拳が俺に迫る。


 単調な動きに幼稚な体重移動。

 なんといっても、ふざけているのかというほどゆっくりな拳。

 それが俺に迫るほど、勇者の顔がひきつっていく。


 俺が反応しないのが、避けられないためだと思っているようだ。

 それは魔人も同じのようで、当たることを確信仕切った顔をしている。


 そして、遂に俺の頬を捉え……



「……ぁ?」


 初めて魔人が人間らしい声を上げる。

 その瞳には、先程までの確信仕切った色は既に消え失せ、困惑の表情を浮かべていた。




「で、どうするだ?これから」



 魔人の拳は俺の掌にすっぽり捉えられていた。

 燃え盛る魔人の拳を()()で、だ。


 驚いたのは魔人だけでない。

 勇者達も同様の表情を浮かべ、言葉も出ないようだ。


 俺が拳を離すと、魔人はフラりと後ろによろけながら、おずおずと距離を取る。


 それに向けて、バルバトスは大瀑布のような殺気をもろにぶつけた。


「ひっあ!」



 今更ながら、自分がとんでもない化け物に喧嘩を売ってしまったことに魔人は気づいたのだった。


 しかし、もう手遅れだ。

 魔人が背を向け、逃げようとした時には既にバルバトスの姿は消えている。


 否、魔人の目前に出現したのだ。



 そして……



「……シュ」


 魔人の頭はズリリとずれ落ち、地面にバウンドしたのだった。




 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━





 *世界百科辞典*

 file10「イフリート」


 謎の魔人の正体。

 スキル【イフリート】を手に入れてしまった人間の姿である。

 戦闘力は非常に高く、勇者に匹敵、或いは超越するという滅茶苦茶な強さである。

 喋れないし、全身が燃え盛っているため、元は人間だと気づくはずもない。

 種族は「イフリート」になっている。

 もちろんユニークモンスターであり、前にも後にも一体しか確認されていない。

 スキル【イフリート】のスキルコストは80であり、剣の勇者でも鍛えていないと勝てないレベルである。

 種族が変わるという、これほど特殊なスキルは世界にもそう多くない。



 



 やっと建国記が始められるところまで来た……。

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