008 王宮爆破
ゼータは少女の話を腕組みして聞いていた。
目を瞑り、今聞いた話の内容を、頭で整理して考える。
そして、
「―――なるほどな。なるほど、なるほど。ははーん。そういう事か!そういう事だったのか!くっくっく。傑作だ!これは傑作だ!!」
「―――。何がおかしいのよ。」
ゼータは笑っていた。
おかしくて笑っていた。
「お前がテロリスト?んな訳あるか!お前のその外見の、一体どこがテロリスト何だ?言ってみろ!俺を怒らせる遊びか?ラムダとはグルなのか?手の込んだ悪戯しやがってにゃろめ!俺は決して騙されないぞ〜!」
ゼータは少女の言っている事が決して嘘だとは思わなかった。
だが、どうしても信じたくなくて少女の言葉を素直に受け入れる事が出来なかったのだ。
出来なかったが故にゼータは少女の言葉を否定する。
否定の根拠となる材料は何一つ無いが、それでも尚全てを否定する。
否定してやる。
そう強く決意した。
「・・・。信じてないのならそれでもいいわ。でも作戦は予定通り今夜決行される。」
「この遊びまだ続けるつもりか?」
「遊びじゃないわ。・・・今何時か分かるかしら?」
ゼータは地下牢獄の看守部屋の扉の上に掛かってる、壁掛け時計を見て時間を確認する。
「夜中の3時になる前だな。」
「・・・そう。ならあと少しね。」
「一体何をする気なんだ?」
「3時になったら王宮の防壁周辺に仕掛けられた爆弾が一気に爆発するはずよ。そこから組織の仲間たちが一斉に攻め込んでくる手筈になってる。私はその混乱に乗じてここから逃げる。」
自称テロリスト少女は、文字通りとんでもない爆弾発言をサラッと言った。
「・・・それを騎士である俺に言ってどうする?」
「あら、驚いた。あなた騎士だったのね?」
「てめぇこの野郎...。というかお前は、今の話だと3時までここで待機するってのが作戦なんだろ?・・・ヨダレ垂らしてぐっすり眠ってたけどな。」
「ね、寝てないし!ヨダレだって垂らしてない!あれは、ただの仮眠よ...。」
ここで再び赤面して恥ずかしがる少女。
どうもテロリストには見えないんだよなぁと首を傾げるゼータ、そして―――
―――ズドォォォンという低い爆音が、どこか遠くで鳴り響いたと同時に、地下牢獄全体が小さな振動で揺れ動いた。
「・・・本当だったのか...。」
「―――始まったわね。私はここから出るわ。」
「それを俺が見逃すとでも思うのか?」
「あなた私を助けに来てくれたんでしょ?でもまぁどっちにしろ見逃してくれるんでしょ?」
少女は自分の顎に人差し指で触れて、首を傾げると、
「―――おに〜いちゃん!」
「―――ッ!(こ、こいつッ!)」
少女はゼータに向かってそう言い放つと、鉄格子まで近付いて来て、持っていた鍵を使って施錠し始めた。
「・・・そういやお前、最初に俺の顔を見た時も、俺の事お兄ちゃんって呼んでたな。あれはどういう意味だ?お前にも兄妹がいるのか?」
ゼータは一番気になっていた質問をこのタイミングで聞いてみる。
「ん〜特に深い意味はないわね。私には兄妹はいないし一人っ子だもの。・・・ただ、お兄ちゃんみたいな人がいて、あなたはその人に似ていた。ただそれだけよ。」
「何だ。そういう事か...。」
実はこの子は自分にだけ知らされていなかった、隠し子であり義理(重要)の妹で、2人に増えた妹とムフフな展開をと勝手な妄想を施していたゼータは、少し期待外れな返答にがくりと肩を落とした。
「じゃ、そういう事だから私はもう行くわね。もう会うこともないかもしれないから、最後にこれだけは言っておく―――」
地下牢獄の出口近くまで歩を進めていた黒髪の少女は、最後にゼータの方を振り返ると、
「―――助けに来てくれた事嬉しかったわ。―――ありがとう―――。」
最後にそう言い残して、地下牢獄を後にした。