002 襲撃者
ゼータが地下通路へと続く階段を降りていくと、どういう原理か照明器具に明かりが灯って、通路全体をぼんやりと照らした。
工場内は電力供給が絶たれていたが、この照明器具は魔力が動力源になっているもので、こういった魔力を介して動く代物は"魔道具"と呼ばれている。
(照明が点いたって事は、人の出入りがある証拠だよな...。)
人の気配は感じないが、魔力の流れた痕跡は地下にも充満していた。
階段を降りた先の狭い地下通路を進んでいくと、突き当たりに扉があった。
ゼータは音を立てないようにゆっくりと扉まで近付いてビタ付けになり、中から物音がしないか聞き耳を立てる。
ドアノブに触れて回せる事を確認すると、一呼吸置いて一気に扉を開け放つ―――
目測で30メートル四方はあろうかという広い部屋だった。
部屋の中に入ると、まず最初に目に入ってきたのは、山積みになっている小さな木の箱だ。
何かの物置き場とされている倉庫なのだろうか。
ゼータは手前の方にあった木箱の一つを手元に引き寄せ、蓋を取り外して中身を確認する。
「空っぽか...」
他のいくつかの木箱の中身も確認するが、同様に全て空であった。
調べ終えた木箱を全て元の位置に戻すと、部屋の奥の方に
目を移す。
「こんな所に誰か住んでるのか...?」
部屋の奥にはテーブルやソファー、ベッドなどがあり、テーブルの上には栓の空いた酒瓶がいくつか転がっていて、誰かがここで暮らしているのが伺える。
ゼータは部屋の奥まで歩いてくると、先ほど調べた木箱よりもひと際大きな木箱が部屋の隅っこに置いてある事に気が付いた。
「何かの罠って訳ではないだろうな。」
ゼータはまだ魔力感知状態を続けているので、木箱が魔力を帯びていれば、ひと目で分かる。
それでも万が一に備えて、警戒を維持したまま木箱に触れ、何も起きない事を確認すると、一気に蓋を取り外した―――
「うーわ、何じゃこりゃ!」
それは薄暗い部屋全体を照り返す程、赤々と輝く魔法結晶石。
それが木箱を満杯に埋め尽くし、ぎっしりと詰まっていた。
ゼータは眩しさに目を細めると、結晶石の一つを手にとって確認する。
「赤の魔法石か。こんなものを大量に集めて、一体何に使うつもりなんだ...?」
結晶石、それは本来であれば無色透明であるが、そこに魔力を注入する事によって多様な色に変化し、魔力の長期保存を可能とするものだ。
魔法結晶石の用途は様々であり、そこから魔力を引き出す事によって誰にでも簡単に魔法が使えるようになるなど大変便利な代物で、人々から重宝されているものである。
そして、赤色の結晶石は火を意味している場合がほとんどで、生活する上では料理をする時や冬場に暖を取ったりする時などに用いられる事が多いが、
(確かここはテロ組織の拠点かもしれないという話だったな。嫌な予感しかしないぜ...。)
これは依頼主であるバイザーに報告しておいた方が良さそうだと判断し、通信するために必要な手のひらサイズの小さな魔道具を取り出し、液晶モニターを操作しようとした、その時―――
「ぐあッッ・・・・・!?」
ズドンッ!という鈍い音と共に背中に強い衝撃を受けたゼータは前のめりに倒れ込み、そのまま目の前にあった壁に思いっきり激突した。
(一体何が...!?)
突然の出来事に困惑するゼータは思わずその場に蹲り、痛みを堪えつつも後ろを振り返ると―――
―――一人の少女がゼータを見下ろして佇んでいた。