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山田ホールディングス シリーズ

淫行疑惑 ~アイドルの奥様は16歳~

作者: 蜘條ユリイ

お読み頂きましてありがとうございます。



 ここは東京の港区虎ノ門にある五星レコードの本社ビル。


 右を向くと警視庁のビルが見える。


 後方にある虎ノ門ヒルズと比べて小さく見える警視庁のビルがいつも以上に大きく感じてしまうのは、これからこのビルの1階で行なう記者会見の所為に違いない。


 所属するレコード会社である五星レコードに迷惑を掛ける積もりは無かったのだが、僕の友人でもあるこの会社のオーナーが全ての責任を取る形でセッティングしてくれたのだ。


 これから、行なおうとしているのは入籍会見だ。


 ただの入籍会見では無い。


 結婚した相手が16歳というのが問題なのだ。


 『東京都青少年の健全な育成に関する条例』


 一般に淫行条例と言われている。


 要するに未成年と関係があった場合に条例違反となり警察に捕まってしまう。



 だが例外が存在する。


 当事者が真剣交際だった場合だ。


 金銭のやりとりも無く、なんらかの強制力も無かった場合、判例上無罪が下されることが多い。


 だが僕は解散したアイドルグループの一員。逮捕どころが問題視されるだけで間違いなく芸能界から永久追放されてしまうだろうことは容易に想像できる。


 だから過去にふたりっきりで逢ったことは無い。彼女の父親であり、僕の友人でもある『お菓子屋十万石(かしやじゅうまんごく)』さんが必ず居た。


 身体の関係も無い。いや、無かった。


 入籍後、初めて関係を持ったのだ。



 それをこれから、入籍会見で発表する。



 間違いなく質問をする記者は、このことを問題視するだろう。


 声高に謹慎を要求する場面にも遭遇するに違いない。



 だが、僕は謹慎するつもりは無い。もちろん事務所の方針も同じだ。


 また、記者会見に同席する『お菓子屋十万石』さんも同じ意見だ。



 しかし、世の中の人々がどう思うのかが全く掴めない。


 なにせ今まで、誰も成し遂げたことが無いことだからだ。


 もし世の中の人々から『NO』を突きつけられたら、僕は引退することになる。


 いくつもの冠番組にレギュラー番組、新婚旅行にも行けないほどの過密スケジュールは綺麗さっぱり白紙に戻ることになる。


 大恩のある人物にも、今も友人関係を続けてくれるアイドルグループの皆にも、芸能界の多種多様な友人たちにも、そしてこの恋を応援してくれた人々にも、多大な迷惑を掛けてしまうに違いない。


 その全てに未練が無いなんて毛頭言うつもりは無いが、彼女を諦めることと引き換えにできなかった。


 これが本音でこれが全てだ。



     ☆



 平日の12時10分。昼のワイドショーで放送されることを見越して記者会見が始まった。


「では記者会見を始めます。」


 五星レコードの広報を担当する女性がマイクで開始の合図を伝える。


「お手元の資料にあります通り。この度、我が社五星レコード所属の『中田雅美』さんが入籍されたことをご報告いたします。ご質問のある記者の方は、挙手のうえ、こちらが指名した人が所属・名前を言った上でお願い致します。はい、そちらの右端の男性。」


「一星テレビの近藤です。『中田』さん。この度は、ご結婚おめでとうございます。」


 まずは足場固め。


 五星レコードと同じスターグループの一星テレビの記者の手が真っ先に上がる。


 事前打ち合わせを行なったわけでは無いが、阿吽の呼吸なのだろう。


「ありがとうございます。」


 僕はその祝福に対して、素直にお礼を述べる。これで質問に際して祝福の言葉を述べずに質問しようとする記者たちは減るはずだ。それがただの言葉だけであっても心理的に随分違うだろう。


「まずは『お菓子屋』さんに質問したいと思います。資料では16歳のお嬢さまと『中田』さんがご結婚されたということですが、未成年者の婚姻届に必要な親権者の同意欄に署名されたということで間違い無かったでしょうか?」


 やはり、16歳というところで会場がざわつきだした。


「はい。間違いありません。愛を育んできたのをずっと見守ってきた僕が署名するのが順当だと思いました。」


「ではもうひとつ質問です。婚姻届には証人欄が2人分あったと思いますが、どなたが署名されたか教えてください。」


 うっ。厳しい質問だ。


 芸能界とは関係の無い僕の両親の署名にしようという話もあったのだが、妻の懇願に負けて『西九条れいな』さんこと西八條志保さんと僕の父親にお願いして署名してもらった。


 この『西九条れいな』さんが僕たちの愛のキューピットだったからだ。


 彼女は僕と『お菓子屋』さんを二股しているかのように見せかけて週刊誌の記者たちを騙し、彼女の部屋を逢瀬の場所として提供してくれたのだ。


 もちろん、この記者会見に当たり彼女の名前を出してもかまわないと了承を貰っているのだが、これ以上彼女に迷惑を掛けたくないのが本音だ。


「『中田』君の父親です。」


 一瞬の間が空いて『お菓子屋』さんが答えてくれる。


「なるほど。ありがとうございました。」


 どうやらこの記者は、僕の父親と『お菓子屋』さんが署名したと勘違いしたようだ。


 少なくとも『お菓子屋』さんが嘘をついたわけでは無いので問題無いはずだ。役所の方が秘密を漏らさないかぎり、この件は終わったと見ていいだろう。


「週刊旬文の加藤です。ご結婚おめでとうございます。『中田』さんに質問です。彼女を交際相手として好意を寄せるようになったのはいつごろですか?」


 これも厳しい質問だ。


 結婚したという結果に関係なく。未成年を身体の関係を持つ交際相手として見ていたのが問題かもしれない。


 そういう質問だ。だが正直に答えるしかあるまい。嘘をつけば今後の夫婦生活に支障が出かねない。


「1年前の春頃には自覚していたと思います。」


 出会ったのは彼女が13歳の夏だった。小学校卒業を機に彼女の母親は『お菓子屋』さんと離婚し、映画女優として復帰していった。


 『お菓子屋』さんにとって円満離婚だが、突然母親を失った彼女が塞ぎ込むようになった。彼女を元気付けるために『お菓子屋』さん家にお邪魔するようになった。


 彼女は僕のファンだったらしい。笑顔を取り戻していく彼女を見守ることが、僕の芸能界での癒しになっていた。そのときはただ、それだけだった。


 だが頻繁に彼女に逢っていることを週刊誌の記者が聞きつけ記事にしたため、逢うことを止めざるを得なかった。


 逢えない日々が2ヶ月3ヶ月と続き、半年が過ぎたある日壊れかけた関係を修復してくれたのが『西九条』さんであり、僕が彼女と結婚したいと決意した日だ。


「もうひとつ質問です。その頃、他の女性と噂になっていましたが本命は既に決まっていたということですか?」


 その女性というのが他でもない『西九条』さんのことである。もちろん恋愛感情などないので素直に答える。


「はい。その通りです。」


「ありがとうございました。」


 肩すかしを食らった気分だ。誰も彼女の年齢を問題にしてこない。


「週刊チュースデイの南川です。ご結婚おめでとうございます。彼女との年齢差は23歳である思いますが、今後の結婚生活で問題になりませんか?」


 いよいよ年齢について質問が飛んできた。


「いいえ。彼女は若いですがしっかりした女性ですので心配していません。逆に僕のほうが子供っぽいことを言ってしまい。叱られることが多いので、ちょうどいい塩梅と思っています。」


「『お菓子屋』さんに質問です。正直に言って『中田』さんはお嬢さんの尻に敷かれていますか?」


 記者たちの間から笑い声があがる。僕の回答を聞いて、そう思われてしまったようだ。


「間違いない!」


 『お菓子屋』さんが断言すると、クスクスだった笑い声がドッと受けた笑い声に変わる。流石はお義父さん。


「まあ僕も既に新妻の尻に敷かれていますので『中田』君のことを笑えた義理じゃないのですがね。」


 茶目っ気たっぷりにそう言って、更に笑いを爆発させる。


「続きまして、お渡ししました資料の次ページの『お菓子屋十万石』さんと『台地(だいち)マキ』さんの入籍会見に移りたいと思います。『中田』夫婦に対する質問も順次お受けできますので、この場の雰囲気を壊さないように質問して頂けると助かります。」


 上手い。五星レコードの広報担当の女性がインターセプトして、話を切り替えてくれる。




     ☆




 僅かな交際期間とは思えない『お菓子屋』さんと『台地』さんの夫婦漫才で盛り上がる中、突然サプライズゲストが登場した。


 どこにでも現われるセレブとして有名な携帯電話会社ZiphoneのゴンCEOだ。


 こういった場に顔を見せるのは珍しくない。


「コングラッチレーション! 『中田雅美』さん&『お菓子屋十万石』さん&『台地マキ』さん。」


 僕たちが笑顔のゴンCEOと握手を交わす。


 今まで心の余裕が無かったが記者会見場の後方に僕の先輩の姿が見えた。最近いつも同行している小柄な女性も一緒だ。やはり偶然じゃなかったようだ。


 沢山のフラッシュが焚かれ、ゴンCEOと握手を交わす姿が記者のカメラに、テレビカメラに映し出されている。


 テレビ各社の画面で有名なZiphoneのゴンCEOの祝福を受ける姿を日本中の人間が見ることになった。


 これで昼のワイドショーなどテレビ番組で否定的な意見を出すことは、大口スポンサーを失う危険をはらんだ行為となるわけだ。あの人らしいバックアップの仕方だ。



 そのまま、追加の質問も無いまま記者会見は無事終了した。気になったのは、いつも意地の悪い質問を投げかける記者が質問しなかったことだ。


 きっと、質問のトリを飾ろうとして、ゴンCEOの登場に邪魔をされた格好になったに違いない。



     ☆



「かんぱーい。」


 記者会見の後、いつものように『西九条』さんのところに集まった。そして、いつものように『西九条』さんが料理を作って待っていてくれた。


 心なしかいつもの料理よりも豪華だ。僕の妻も手伝ったみたい。


「いいわね。『中田』さんたちについている記者さんたち。私なんて全然関係無い質問しかされないのよ。」


 『西九条』さんも記者会見をテレビで見たらしく、そんな感想をくれた。


 彼女はスキャンダルに関する記者会見は一切行なわなず、記者に捕まってもノーコメントの方針である。そのため映画の製作発表の記者会見でしか、その姿は見れないが確かに酷いものである。


 映画については配られた資料に基いて記事にされるだけで、もっぱらスキャンダルなどのバッシングネタに関する質問ばかりなのである。


 そしてその殆どがノーコメントか、記者会見の司会者の制止が掛かることになる。



 この記者会見で『西九条』さんへの意地の悪い質問が少しでも減ってくれることを祈りたい。



     ☆



 翌日あるSNSに書き込まれた「『西九条れいな』ざまぁ!!」が日本中を駆け巡った。


 しかも週刊誌の記事やワイドショーのタイトルも「『西九条れいな』ダブルショック!」「『西九条れいな』の転落の軌道」「『西九条れいな』御曹司との愛に縋る」とかだったりした。


 この記者会見の最中、記者さんたちは『西九条れいな』をどう料理しようかと頭を悩ませていたらしい。


 彼らと『西九条れいな』の関係は誰の口からも漏れなかったため、彼女は数年間に渡って、ことあるごとに記者たちからコメントを求められることになるのだった。

ご覧頂きましてありがとうございます。

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