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あおい夢~キラメキDaughters~  作者: 千賢光太郎
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かの世とこの世と英子

お読みいただきありがとうございます。

(後で記事を一度編集します)

国語の教科書、年を経て読むと青春を覚え侍り。教育大学の図書館に、中学二年生の教科書があり、読むと心だけ学生服を着たおじさんに変わるのです。あなたは今、何歳でしょうか。

詩の朗読なり、広田国語教師と目を合わせた高野茂君が声を出して読む。




題:とんとんとん


とんとんとん とんとんととん


お前は誰だ どこから来た

かの世から来た あさが来た


とんとんととん とんととん


かの世はあの世と違うのか

いいや かの世はこの世だ


死んだら行くあの世

生きながら来るこの世


とんとんとん とんとんととん


かの世とこの世の文明は同じか

時がたてば古くなる


とんとんととん とんととん


俺もかの世へ行きたい

どうやれば かの世へ渡れるのだ


やめておけ かの世は時がある

この世は時があるようでない


とんとんとん とんとんととん


この世はすぐに未来や過去へ飛べるけど

かの世にあるのは今だけ


過去や未来は一切ない

それでも来るか この世の者よ


とんとんとん とんとんととん

ととんとんとん とんと と




「次は小野田、お前に尋ねる」


教師は指をさす。


「この世とかの世、小野田と張井の違いはなんだ」

「先生、何をおっしゃっているかわかりません」


なぜ張井を知っている。隣の席を見れば、教科書を守りて、一人も顔を動かさず。


「張井、お前はかの世からこの世にやってきた。どうだ。武彦はあの世にいる。あの世は天国でなく、武彦から見れば地獄。そこにいる明日谷大和から見れば天国。違いは一つ。本来来るはずのないお前たちが強引にこの世へやってきたからだ」


どろどろ体が溶けだし、残るは黒く丸い物体なり。


「お前が何をしゃべろうとも大丈夫、今、私とお前は別の空間にいる。見ろ」


隣を見ると、はきはき声を出して詩の朗読をする小野田英子。少し陰りのある声を出して読む。


「あなたは武彦がどこにいるか知っているの」

「哲学の授業を始めよう」

「人の話を聞いているの。知っているなら教えて」


体が動かぬ。真っ黒な物体はにょきっと細い触手を出し、黒板に文字を書く。


「お前が張井英子としている世界はかの世。かの世からお前は想像の世界なるこの世に来た。この世ではすべての出来事が、お前に直結し、帰結する」


直結、帰結、言葉の意味は良くわからぬが、なんとなく察する。広田教師は詩の解説を始める。


「武彦をさらった犯人は張井英子、お前だ」

「何を言っているの」


先生は「この詩は対話している」とおっしゃる。


「お前の仲間も敵も形の違うお前。ここにいる私も張井英子。すべてはお前の生き方が招いた災いってことだ」

「そんなのどうでもいい、それより武彦がどこにいるか教えなさい」


先生は「かの世はあの世とはまた違うんだ」とおっしゃる。


「教えなくても、お前は武彦がどこにいるか知っている。お前は知らないふり、聞こえないふりをしているだけ」


闇がだんだん薄くなる。


「わからない、あなたの言っていることがわからない。だったら武彦は今、ここにいるでしょ」

「そう、目の前にいる。しかし武彦は見ている。お前の全身を。この世はお前を客観視する地獄。息子の死はお前の罪。それでも子は親に救いを求める。ああ、なんとかわいそうな武彦。もっと私が早く気づいてあげたら、息子は私に殺されなかった」


黒い物体が一瞬だけ人に変わる。


「私」


チャイムが鳴り、あたりを見回すと、背を伸ばす男子学生の大野君、あくびをする右隣の安田さん、筆箱にペンをしまう大和、すぐさま後ろを振り返る、笑顔の愛良、ガラッと空いた窓より、一匹の虫が逃げぬ。

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