弟に自分の本名を告げる
お読みいただきありがとうございます。
こちらはゆっくりと進んでおります。
画面の向こうより、ドーターズは歌い、踊りなさって、雪だるまを昇天す。部屋も一瞬で氷が解けぬ。
「姉ちゃん、い、いや、あなたはいったい」
「お母さん、どこにいるの」
女神のそばに武彦の声が聞こえたが、すぐ画面が黒く染まりぬ。
「武彦って、今、一瞬だけ見えた子」
進の声に我返りぬれば、腹の虫も安心して音を立てぬ。
「姉ちゃんは何者、それにあいつはいったい」
「私はわからない。ただ、私は小野田英子ではない。小野田英子の体を借りているだけ」
雪だるまが握った本をめくれば、新たな記述あり。
「英子は須田愛良に尋ねた。キラメキドーターズって知っている。愛良か」
肩をつかみ、ゆらす弟。
「あんた、英子の体を借りているって、どういうことだ。さっぱりわからない」
「進。私の本名は張井英子、36歳のおばさん。息子が漫画雑誌に手を触れたら、こちらの世界に吸い込まれた」
ロロナにナツリは座る。進は「武彦よ」を持ち、
「あんたはこの世界が漫画の中だっていうの」
「私から見るとそう。でもここでは違う」
「それってパラレルワールド。この小説、須田愛良に尋ねて●●××~か」
明るきロロナの鳴き声が響けば、腹の音が高まる。
「頭が痛くなったし、脚は寒くなったし、腹も減った。姉ちゃん、まずは食べよう。後では、話を聞くから」
「しっかりしているのね、小学校6年生のくせに」
「いつまでも子供のままではいられないからさ」
ナツリが英子の膝に前足を置けば、
「えいこ、私はあなたが行ったいじめを許さない」
心を締め付ける愚行、額に熱が痛みのごとく生じ、こぶしを強く握り、声を絞りてつぶやきけり。
「英子、ご飯ができたから早く食べなさい」
普段は自分が母親として作る料理、今は他人が母の作りしごはん、豆腐と大根の味噌汁、しょうが焼肉、ヨーグルトを食べる。
「おいしかった、お母さんの味だ」
「当たり前じゃない、私が作ったんだもの」
小野田英子の母は顎を上げる。
(私は張井英子でなく、小野田英子という少女。小野田英子はどんな性格をしているのだろう。違和感を抱かないのだろか。それに私はご飯を食べておいしくて喜んでいる、武彦はどこにいるのだろう。泣いているに違いない。死んではいない、絶対に。でも、どこへ行けば武彦と出会え、元の世界に戻れるのかわからない。あなた、どうしたらいい)
翌日は須田愛良とお話をする予定です。
英子から愛良はどう見えるのか。