図書室で見つけた小説と
おはようございます。
本を読めば、張井らに指令を示す小説、続きがあり。ページにして180、うち、170から174のみ抜ける。
結末を読めば、
(英子は現世に戻った後、静かに思った。私はまた、武彦によってあちらの世界へ連れていかれるかもしれない。いや、連れていかれるだろう。そのたびに張井英子として嫌な部分、逃げてはならない部分に向き合う。でも、私は乗り越える。抜け出せたのだ、この部屋から。私はできる、できる)
ぼうっと小さきあかりがともり、窓より映像が流れると、
「英ちゃん、英ちゃん、大丈夫」
「う、うん、広君、進、あ、あなたは」
「え、大二郎だよ」
「大二郎、大二郎君ね」
あどけなく立ち上がる少女、あたりを見渡せば、
「広君、私はまだこの世界から抜け出せていないの。体は戻ったのに」
「体は戻った、え、英ちゃんじゃないのか」
「私は小野田英子、広君、わかるでしょ」
うなずく。胸に手を当てれば、
「さっきまで張井英子って人が」
「張井さんはどうなったの、進」
「わ、わからないよ」
私はここよ、叫んでも答えは手を握る武彦。
「おかあさん」
「武彦」
思う。自分たちが不気味な世界を抜け出せば、彼女たちも戻れるはずだ。
「武彦」
「なに、おかあさん」
「私は今、武彦から見てどんな姿をしているの」
じろり、目をくるりと回す息子、
「おかあさんは、おかあさんだよ」
鏡なく、手を見ても小野田英子と変わらず。小説を読む時間はあるか。思い、168ページを読む。
(英子は武彦を気にせず、小説を読んでいる。168ページを読み、ページをめくると白紙とわかった。ふと、英子は思った。ページはすべてこの世界のどこかにあると。ページを拾い上げ、2ページ分を探す。1ページは武彦が読んでいる本の『しおり』から見つかった。後はもう一ページある。怪物の背中に張り付いている。どうしたらとれるのだろう。武彦は指をさした。「なんでおかあさんがふたりいるの」)
「おかあさん、これ、みて」
武彦が一冊の本を手に取る。キラメキドーターズ、ライトノベルなり。意志の弱い少年がアルムの世界で少女に化け、活躍する話なり。今、少年こと明日谷大和は須田愛良に告白し、温かな物語が流れる。
「あれ、なんでエピローグが抜けているの。目次にはあるし、エピローグとは違う内容が書いてある」
息子が持つ本を見れば、
「これ、小説の続き、171と172ページだ。怪物が現れた、包丁を握っている。息子を返せと叫んだ。怪物は張井英子を怪物とみなし、震えていた。え」
「おかあさん、うしろ」
「英ちゃん、うしろ」
向けば、顔が青白い張井英子、包丁を握り、武彦が手を握り、ふっふっと突き刺す動作す。画面の向こうにも小野田英子に似た怪物、包丁を握り、少年らへ襲い掛かる。
「ちょ、ちょっと、やめて」
「あういいえ、あいうう」
母音を出し、武彦を左手でかばい、右手に持つ赤く濡れた光。
「やめて」
「あえいお、おあああんああおうああえ」
白い血の気のない顔、脳から感じる心臓の音、耳に聞こえる脳の言葉。夫を事故で失いし時、両親の小言が入りぬ。
「英子、大丈夫だろうか」
「仕方ないわ。あの人が事故で亡くなってしまったもの」
「英子の顔が白い。こればかりは英子が片づけないといけない問題だ」
「武彦がすっかり無口になってしまった」
「私たちの前では笑顔だけど、作っている。私も英子の気持ちを分かっていながら、親として何を言えばいいんだ」
「ほおっておけばいいんだ。私たちが何を言っても、あの子が片づけないと、一生立ち直れない。お母さん、俺は死んだ母から言われた。子供を産んだ母親は強いと。現実をきちんと見て生きていくと」
「強いよ、茫然としている暇がないから」
「でも、英子を見ていると、あの子は現実を見ていない。心があちらへもっていかれそうな表情を浮かべている」
パチン、頬を叩けば顔が白い英子、頬を抑えぬ。次にもう片方の頬を叩けば、怪物英子ももう片方の頬を抑えぬ。
ごくり、つばを飲み、歩けば、後ろへ下がる怪物、もう一歩、下がる、あと一歩、下がれぬ。
「おかあさん」
「武彦、ごめんね。私は弱い。だからこの世界へあなたを連れ込んでしまった。私は弱い、でも、現実から逃げるほど私は弱くない。怪物は私、だから刺されても痛くない」
怪物が腹を刺せど、痛みはなく、英子は光となって消えぬ。意識が遠のき、息子の声より響く、向こう側の広が声。
「進、早く小説を持ってくるんだ。大二郎、英ちゃんを抱えて。早くページをくっつけるんだ。おそらくこれで俺たちは助かるはずだ。あっちの英子さんも」