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あおい夢~キラメキDaughters~  作者: 千賢光太郎
33/44

大和と一緒に歩いてびっくりした事実

おはようございます

――また大和が倒れている。


英子は彼を揺さぶった。


「あ、あれ、む、紫の影?」

「小野田英子だけど」

「なんだって? なんて言ったんだ?」


英子は名乗るのをやめた。


「紫でいいわ」

「う、うん、紫さん。俺はいったい」

「わからない、お前は倒れていた、だから起こした。ここはお化け屋敷」


大和はあたりを見渡す。懐中電灯を彼の目に当てる。


「まぶしい」

「あら、ごめん。ほら、須田愛良がお前を探しにここに入った」

「愛良ちゃんが!」


声が大きい。ふう、ふう。何かが近づいてくる。


「何かが来る、逃げるよ」


英子は大和の肩を叩き、走り出す。


ドタドタドタ。後ろから何者かが追いかける。少なくとも須田愛良ではない。愛良なら、声をかけるはずだ。走ると、扉があった。部屋は古びたロッカールームだった。人がちょうど隠れる大きさがずらりと並んでいる。


「紫さん、明かりを消して」

「何か策でもあるの?」


彼はうなずく。10秒後、怪物がのそりと入ってきた。一つ、また一つ、さらに一つとロッカールームを開ける。


はあ、はあ。


ご飯が目の前にあるのに食べられない子供のごとく、怪物はロッカーを開ける。最後の一つを開けた。人間がいなかった。


「見直したよ。ほんのちょっとだけど」

「カナセみたいだな」


ぼそっと大和はつぶやく。堂々と廊下を歩く英子と大和。


「ロッカーに隠れるふりして、実はドアのすぐそばに隠れ、奴がロッカーを開ける隙に堂々と退出するなんて」

「なんとなく、それがいいと思ったんだ」


大和は震えている。でも、しっかり懐中電灯を握っている。


「お前は怖くないの?」

「俺はお化け屋敷が好きだから、怖いというより面白い。これもお化け屋敷なんでしょ?」


英子は自分の手が震えていない事実に気づいた。もし夫が生きていたら怖がるふりをしていたのかもしれない。子供のころはお化け屋敷という単語を聞くと、泣いてしまい、入ることができなかった。

お化け屋敷に楽々入れるようになったのは、武彦が生まれ、まだ生きていた夫と三人で化け物屋敷に入ったときだ。子供のころはただ幽霊が怖かったが、大人になるといろいろ見る。中でも幽霊より、生きている人間の陰湿が怖いと思った。

幽霊よりも怖い基準ができると、化け物の動きが面白いとさえ感じる。


「なんだろう、どうしてだろう」

「どうしたの、大和?」


大和は英子よりも前に歩いている。


「あなたに言ってわからないと思うけれど、きらめきの力が降りている気がするんだ」

「きらめきの力? なに、その少女漫画みたいなものは」


英子はからかう。


「い、言わなければよかった」

「いえ、力を感じているなら姿を変えなさい。大和よりも安心できる」


ちらりと大和は英子を見る。


「耳をふさぐから変身しなさい」


彼はうなずき、変身した。


「かわいいわね」

「ありがとう」


キラナデシコは大和と違う。直接話をして、英子は悟った。ドアにぶつかった。看板がある。


『地獄への入り口、この扉を開けたければ、わが王の名前を述べよ。


粘り気のある液体に満たされ、エイとして蛇のようにゆっくり動く。

獲物をつかむときは丸め、時折上下についている牙で自分を傷つけてしまう。

そうならぬよう、彼はいつも牙に己の体を守ってもらい、

空間を常に粘液で満たしむ。私の名前は□(漢字一文字)



「これは……(答えは後日発表)だ」


英子が扉に向けて声を出すと、彼が開いた。そこに黒いマントを羽織り、スーツを着た真っ黒な影がいた。人間を解剖している。6歳の男の子の肉体だった。内臓が飛び出ている。隣には紫色の型をふちどった象がいて、女の子をつるしている。


「士鶴ちゃん、あなた、どうしてこんなことを」


ナデシコがつるされた少女へ向かうと、黒い影が言う。


「クスミ、そいつらを殺せ、特に紫色の奴はこの先、とても厄介だ」


ナデシコは象に向かって、魔法を唱える。英子は周りに武器がないか見ながら、黒い影に尋ねる。


「あんた、なんで男の子を解剖しているの?」


英子はゆっくりと指をさす。


「楽しいからだよ。男じゃだめ、女でもダメ。少年や少女がいいのだ」


変態か、こいつは。英子は思った。周りにあるろうそくがちらちら明かりをともす。


「ただ一人例外はいる。須田愛良。こいつは解剖でなく消さなければならない」

「な、なんで」

「そいつを消せば、向こうの世界でも私の思い通りになれるからだ」


紫色にかたどった象が何かをつかみ、投げた。危うく英子に当たるところだった。


「何を言っているの。向こうの世界ってま、まさか」

「……そうか、お前も向こうの世界から来たのか。この世界では私の欲望も正当化される。お前のような一般常識を持った人間に、少年や少女を解剖する楽しみ、殺す楽しみなどわからないだろうよ。須田愛良を殺せば、向こうの世界でも俺は解剖し放題だ。罰されることもない」


じり、じりと黒い影はナイフを握り、近づいてくる。ごとり、解剖された少年が英子に顔を向けた。少年が武彦に変わった。さっきまで別人だったのに。


「英ちゃん」


いつの間にか英子が持っている手鏡から、広の声が響き渡る。


「大和たちに何かあったの? また変な世界に連れていかれた。蛇女がうろついている。こっちの世界にノートがあるのだけど、汚れすぎて読めない」


英子があたりを見回すと、すぐ隣に文字があった。


「広、今から読むわ……わかった」

「やめろ、その言葉を言うな」


黒い影はナイフを英子に向けて放った。しかし、ナデシコが刃を持っている扇ではじき返した。


「ありがとう、ナデシコ」

「う、うん。どうして私、跳ね返せたのかしら」

「愛良を守りたい想いが現れているのよ」


ナデシコが象に炎を当てると、奴から白い刃が零れ落ちた。英子が拾うと、


「貴様、どうして平気な顔でクスミの骨を持てる、何者だ」


英子は奴が何を言っているかわからなかった。


「私に言わないで」


奴がひるんだすきを狙い、英子は奴の胸をめがけ、刃を突き刺した。ナデシコは象と一緒に踊っている。英子は何も思わなかった。


「く、くそう……いいことを教えてやろう。この空間は共有している」

「だから何? わけ、わからない」


英子は何度も息を吸ってはいている。


「お前の中にも少年を解剖したい気持ちがある、ぐほ」


奴は消えた。武彦に見えた死体も消えた。


「士鶴ちゃん、起きて」


つるされた鎖がなくなり、とてもかわいいお姫様が目を開ける。


「その子、大丈夫?」

「あ、ありがとうございます」


彼女は頭を下げる。


「英子、英子」


スマホよりロロナの声が聞こえる。


「ロロナ」

「愛良ちゃんを見つけたよ。光の道が見えたの」


光の道、英子には意味が分からない。


「ロロナ、ナツリ、愛良と由良を安全なところへ逃がして。その、光の道が示す方向へ」


英子があたりを見ると、死体は消えていた。解剖されたものすらない。ただ、ろうそくがあるだけだった。


(広は大丈夫だろうか。連絡できない。後でスマホを使って)


「青い影さん、あなたは誰。先ほど、由良と愛良を安全なところへとおっしゃいましたが」


青い? 紫ではなくて? 英子はふと思った。


「私は小野田英子」

「今、なんと?」


やはり、この少女にも名前だけは聞かせられない仕組みになっている。


「なんでもない」


ぐらぐらと、部屋が揺れ出した。


「いったいこれは」

「崩れると思います、逃げましょう」


英子たちは逃げ出した。鏡をちらっと手に取ると、愛良とお姉さんであろう人がロロナ・ナツリの後を追いかけて逃げる。

粘り気のある液体に満たされ、エイとして蛇のようにゆっくり動く。

獲物をつかむときは丸め、時折上下についている牙で自分を傷つけてしまう。

そうならぬよう、彼はいつも牙に己の体を守ってもらい、

空間を常に粘液で満たしむ。私の名前は□(漢字一文字)


答えは後日発表。



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