真っ黒な部屋と人間?への介入
おはようございます
画面の向こうにじいっと見る進、ロロナ、ナツリ。うなずけば、手を振りぬ。黒い世界なり、どこを歩いているかわからぬ。光だになし。ただ己の肉体のみぞ、色あり。物理の法則上、成り立たぬ。
「あそこに光が」
走れば、モニターがあり、大和が須田愛良以外の女と手を握り、とあるRPGゲームの衣装を着て、冒険す。
「男って生き物は。女もか。私がいないのか」
嫌悪感を抱けば、
「大和様、素敵ですわ」
(あの子は確か、ココア。須田愛良ではない)
ココア(愛良)、大和、アスナ(由良)は3人で仲良く敵を倒し、進む。
「ったくなんで私が、あいつの楽しいさまを見なきゃなら、ぐへ」
見えぬ何かにぶつかる。
「姉ちゃん、聞こえる」
天井より弟の声、聴かれたと思い、痛みと共に顔が赤く染まれば、
「うん」
「姉ちゃんが壁にぶつかった。後ろから怪物が来ているんだよ」
「怪物、何も気配がしないよ」
後ろを振り向けど、声はなく、気もなし。
「いいから姉ちゃん、早く右に曲がって。歩かないで」
走る。またぶつかる。手に痛みを覚える。
「次は左、あと少しで壁にぶつかるから右」
後ろから気配はない。進の発言は真か偽か。
「ぐう」
「進、どうしたの」
「違う、俺じゃない、5メートルほど走ったら、左に曲がって。人が倒れている」
走れば、見覚えある青年が倒れている。胸に傷なく、目を閉じて倒れぬ。
「大和、起きな、死んでいないだろ」
英子が大和の頬をバチン!と叩く。
「お前は確か?」
大和は英子と認識して、発言をしているのだろうか?
「いいざまね。この世界でキツイことは言わない」
英子の気分が少し良くなった。内なる悪魔が微笑む。
「大和、愛良と付き合うのはやめな」
「なんでお前にそんなことを」
憎々しく言う大和にいら立ちを覚えた英子。
「言う権利ならある。どうして闇に飲み込まれ、心臓を刺されて血が流れたかわかる? 浮気をしたからよ」
「浮気? 何を言っているんだ」
この世界にいる愛良と女の子、現実にいる須田愛良は別人と考えているのだろうか?
英子は息子、武彦と違う馬鹿を怒るように言った。
「この世界にいる女が好きになりすぎた。親しい関係を抱くならまだしも、恋心を抱いたらおしまい。お前はここにいるべき人じゃない。愛良はお前がどんな活躍をしているか、夢を通して見ている」
口から出まかせを言ったかもしれない。英子は思った。でもデマだろうと、大和を叱るときの自分はなんと気持ちよいことか!
「ふう、ふう」
英子は後ろを向く。息を吐き、青い体、巫女衣装を着て、目だけは黄色く光り、右手には先が尖った扇子を握り、雄たけびを上げる。
「こいつは?」
大和は尋ねた。英子は自分に尋ねる。
「明日谷大和の心に潜むクスミだよ」
英子の口から勝手に誰かがしゃべる。
「誰?」
「誰って、人の体を乗っ取って、よく平気な顔していられるわね」
「だから誰?」
英子は自分の内側に尋ねる。怪物が走ってくる。大和がかわす。
「私はヤナミ。あなたとは以前、ちらっとだけとあったはず」
「ヤナミって……あの、ハレンチな格好をしている」
「ハレンチとは失礼ね」
英子は体を見た。自分が着ている衣装だった。
「誰だお前は、どうして変身した僕の服を着ているんだ、こいつは」
大和が叫ぶ。
「お前の心に潜むクスミだ。クスミはもう一ついて、愛良の部屋の前にいる。大和、あいつを早く浄化して。あいつを消さないと、愛良がお前に呪い殺されてしまう。私たちもね」
張井英子が言ったのではない。中にいる、ヤナミが言った。
「ヤナミだっけ、ごめんね、あなたの体に入って。私もあなたの中に入っていると思ったことがないの」
「どうでもいいよ、今は。あいつを倒さなければ私にあなたが消えてしまう」
大和が叫ぶ。
「愛良ちゃんが」
「早くキラナデシコに変けろ」
英子でなく、ヤナミが力を込めて言った。
「輝け、私の希望――」
周囲がきらびやかな光に覆われ、英子の知る明日谷大和、男が女に変わった。背は少し低く、顔は変わり、体も細く、脚はむっちり、ごくりとつばを飲む。
「キラナデシコ、あいつと一緒に踊りな」
ヤナミが指をさす。ナデシコはすぐさま踊った。
「あれは、明日谷大和なの? 私の知っている彼と何かが違う」
「大和は今の私たちと同じ状態よ。言っている意味、分かるよね?」
英子はうなずいだ。ナデシコにそっくりな怪物が扇子を剣のように握り、キラナデシコを切ると、彼女の腕からきらめく光が零れ落ちた。血が光っているのだろうか?
「しまった」
ヤナミ-英子は判断を誤った。鈍った。胸を刺される。痛いという言葉も出ない。ナデシコがただ立っている。
「早く踊りな、浄化するんだよ」
化け物をナデシコへ向かわないよう、英子は強く扇子を握る、腕を握る、どす黒い液体が流れようともかまわない。倒れない。気力だ。こんなところで死んでたまるか。武彦を助けなければならないんだ。
「英子、あんた」
「いいから、ヤナミ、あのナデシコに」
うああああああああ。獣が雄たけびを上げた。
「何があったの?」
真っ暗な空間に光がともった。目の前にいるアスナ、ココア。
「早く変身して。このクスミを浄化するよ」
ナデシコが飛び、アスナとココアの前に立った。
「暗き心に明るい光を、キラアスナ」
「枯れた心に花を咲かせよう、キラナデシコ」
「乾いた心に愛と潤いをもたらす、キラココア」
「我ら、キラメキDaughters」
英子はぶるっと震えた。
「どうしたの、英子。あんなダサい言葉にもしかして、感動した?」
「いや、アニメを見ているみたいでなんというか……私が子供だった頃、よく友達とああやって遊んでいたなって」
ドーターズはナデシコにそっくりな怪物を消した。ふわっと体が軽くなり、
「この次はそういかないよ」
ヤナミは捨て台詞を残し、空を飛んだ。
「悪役ね」
英子が突っ込むと、
「ドーターズが輝くために私は働いている」
<語句用語説明>
だに:~でさえ、古文でよく出る言葉
光:電磁波の一つ。原子内にある電子の振動によって、光という形でエネルギーが放出される(高校物理の解説による)