ナツリがいなくなって彼が現れて
おはようございます。いつもお読みいただきありがとうございます。
家に帰れば氷の塊が落ちぬ。
「ひゃあ、ひょうだ」
「英子、英子、ナツリがまだ帰ってこない」
ロロナの目は赤く、すぐに抱き着き、しっぽはゆっくりふれば、
「晴れたら探しに行きましょ。どこかで雨宿りしているはず」
「英子、ひどいひょうだね」
母親が声をかけ、空を見上げれば、雲より『画面』が映りて、製材した誰かのひざに、ゆるりと眠りぬ。
「一体、どうなっているの」
「どうしたんだい、英子」
「お母さん、あれ、見える」
指をさせど、母は首を横に振り、
「あんた、幽霊でも見たのかい」
「い、いや、そういうわけじゃないけれど」
かかっと笑うおばさん。
「幽霊なんてあんたに悪さしないよ。人殺しをしたら話は別だけどさ」
「そ、そうだね、お母さん」
上ずった声を出せば、
「あんた、まさか人を殺していないだろうね」
「殺してないって」
首を横にふり、アルムの世界で起きた化け物を覚ゆ。この手で「話ができる」怪物を殺した。あれは人を殺した事実になるのだろうか。
「英子、英子」
ロロナの声に目覚め、急いで二階に上がれば、テレビ画面が青く光り、ロロナが画面に片足を置けば、すいっとしみ込んで、
「英子、ロロナも行けるよ」
「じゃあ、アルムの世界に帰れるのね」
「わからない。真っ青な映像はこれが初めて。なんか、怖い」
制服から私服に着替え、画面に手を触れれば引っ張り込まれる。
目を開けば冷たさを感じ、
「英子、寒い、寒い」
「ろ、ロロナ、何が起きているの」
「お前は誰だ」
目の前にかごに入れられた猫、白い和服を着た女がおり。髪の毛に肌は白く、唇と瞳は赤く、前髪を見れば須田愛良に瓜二つ。隣にはサングラスをかけ、髪の毛は桃色、肌は褐色で忍び服の女がいる。目のやり場に困るほど、ちらりとスリットから漏れるふともも。
「あなた、愛良じゃないよね」
「愛良は今から氷漬けしにいくのさ」
奴がひゅうっと息を吹きかけても、何もおこらず。
「何者だ、お前は」
「何者って、私は小野田英子、あ、こちらの犬はロロナ」
二人が名前を名乗れば、手を叩くサングラスの女。
「私はヤナミっていうの。あなたはクスミとして立派な人材よ。今からアルムの世界に行って、クスミをばらまきに行くの。あなたも行く」
首を横に降れば、
「あなたは立派、いつでもおいで。行くよ」
「ちょっと待って、猫を見なかった。ナツリっていうの」
サングラスの女、じろりと体を見れば、
「知らないわ。見かけたらあなたに伝えてあげる。連絡手段を教えて」
「連絡、携帯電話は」
「それがあるじゃん」
ヤナミがロロナを指さす。
「ロロナに何をするの」
「猫を見つけたら、私がこいつに語る。じゃあ」
二人が光の刺す世界へ消えぬ。
「あの人たち、なんかおかしいね」
「ロロナが言うくらいだもんね」
空の色が白から黒に変わり、何も見えぬ。
「またこれか」
ポケットより聞こえる声、手を突っ込むと、丸い鏡があり、広の声が聞こえる。
「広」
「英ちゃん、どこにいるんだ」
鏡はライトのごとく輝き、闇にわずかな希望を与える。
「どこって」
「英子、気を付けて、何かが来るの」
「ナツリかしら」
「違う」
うなり声をあげ、ごくりとつばを飲み込めば、這いずり回る子、目がなく耳もなく鼻もなく、口のみ顔を覆い、両手にはかぎ爪、ゆたゆたと音を立てて来る。
「ひいいいいい」
逃げなければ、でもどこへ行けばいいの。自分に尋ね、己に答える。
「英子、怖い」
「捕まって」
おおう、おおう、おおう。
「ロロナ、ここはアルムという世界じゃない。あなたの故郷じゃない」
「うん、ロロナも気づいたの。あ、あいつだ。ビークルって建物を探すの」
ほうおうと響く声、焦る言葉におでこを手で押さえれば、
「英ちゃん、俺のところにあったよ」
向こう側より広が伝える。
「広、お願い、そっちにナツリ、いや、猫がいたら教えて」
「おう」